渾沌1
大介とユキチがフランス
ベーカリーで買い物を済ませた頃、
コテージでは居残り組が
朝ごはんの準備に追われていた。
説子は慣れない手つきで
何度もスプーンで
ミネストローネスープ
の塩加減と格闘し、
実はサラダボールを取り出し、
生野菜にサラダチキンとマカロニを
ぶっ込み、マスタードと自家製
マヨネーズで特製サラダを作り、
ユカはブルーベリーと砂糖
だけを使って、甘さを控えた
ジャムをいとも簡単に完成させ、
洋子は7人分のオムレツを
慣れた手つきで次々と大皿に並べていく。
謙二はコーヒーメーカーで
コーヒーをいれてる間、
テレビの地方番組を1人で
バカみたいに楽しんでいた。
その時玄関の扉が開き、
「ただいま」と
ユキチが大きな声を上げる。
一緒の大介が袋を開け、
フランスパン、イギリスパン、
そしてクロワッサンを
取り出すと香ばしい匂いが
あたり一杯に漂い、
みんなの笑顔が広がった。
「いい匂いだな」
実が口火を切った。
「洋子、スイーツは
マカロンを買ってきたぜ」
「本当大介、美味しそうね。
もう朝ごはんの準備ができてるわよ。
早速パンを焼いてくれる」
「よし、じゃあ
フランスパン
を適当に切って
グリルを十分に温めてくれ。
塩クロワッサンは
そのままでいいだろう」
「大介、イギリスパン
はどうするんだ」
とユキチが
声をかける。
「フランスパンが5本
あるから明日にまわそう」
すると洋子が、
「わかったわ。みんな
料理をそれぞれ好きな
だけよそってくれる」
その声がかかるのを
待っていたかのように、
ユキチは駆け足で
キッチンになだれ込み、
大きなお盆に皿を手に取ると、
3つの卵を使った大きな
オムレツを乗せると同時に
サラダを山のように盛り、
カップに目一杯スープを汲んで、
リビングの椅子にまっすぐ向かい
席に着くと、いきなりガツガツと食べ始めた。
それを合図にみんな
争うように料理を取りに行く。
フランスパンを
トーストしている間も容赦なく。
見兼ねて大介も
自分の確保に走った。
「本当に食い物に
なるとみんな目の色が
変わるんだから困るぜ」
そんな大介を無視して
ユキチが一口オムレツをほうばると、
今まで食べたことのない
風味が口いっぱいに広がっていく。
これはバターを
使って焼いてるんだ、
とすぐに判断できた。
ユキチは洋子の
家庭が容易に想像できた。
我が家では
サラダオイルしか使わない。
この一手間が料理を
格段に引き立てる。
思わずみんな
の表情を追う。
美味しそうに
満足そうな顔を浮かべて
食べる彼らを見て、
彼女のハートが揺れた。
無心でほうばる
大介の表情が連続写真の
ように映し出されていた。
うるせ〜な、
思わずでかかった本音が、
ユキチ自身を驚かせた。
ふん!女だってことか?
シャクだがしょうがない。
さらに大介が焼いた
モチモチのバケット。
そのバターとにんにくの
見事なシンフォニーが、
ユキチの心根を激しく揺るがした。




