適応3
午前6時を過ぎた頃、
大介はフランスベーカリー
の前に立っていた。
営業時間は7時から
と書かれていて
ボーゼンとしていた。
時間を確かめ
りゃ済むことなのに。
つい明るかったから
勘違いしてしまった。
仕方なく歩いてきた
旧軽銀座通りを
トボトボと今度は
コンビニに向かう。
まあアイスコーヒーでも
飲んで頭を冷やすことに決めた。
昨晩の感覚より
日が出ていたこともあり、
思いのほか
コンビニは近く感じた。
自動ドアが
開いて店に入る。
颯爽と林道を走る
自転車のポスターが目に飛び込む。
そうか、レンタルサイクル
のことを忘れてた。
大介はレジの店員に
100円を渡して
器を受け取り、
コーヒーメーカー
でアイスコーヒー
ができるのを、
しばしの間
ジッと待つ。
適量になった
ことを確認してから
すぐに店を出て
表の駐車場に腰を下ろし、
コーヒーを口に
含むのと同時に、
携帯で2人乗り
自転車を検索する。
すると画面にタンデム
自転車の文字が現れる。
ヘェ〜タンデム自転車
っていうのが正式な呼び名か?
日本語だと
2輪駆動自転車。
あれ、普通のチャリンコ
は1輪駆動なのか?
きっとそうだよな。
3人乗りもあるんだ。
メンバーが7人いるからな、
それがあればいいんだけどな。
さらに記事を追うと、
前の席はキャプテンまたはパイロットで、
後ろはストーカー
またはコパイロットと呼ぶんだ。
2人で漕ぐから
スピードが出やすく、
車体が重いから坂道に弱く、
小回りがきかない。
それで低速は不安定。
ふふふ、当たり前だな。
東京じゃ危なっかしい。
カッコいいロードタイプ
もあるのか?
写真に撮って
学校のみんなに
見せたら、どやどやと
群がってくるな、
と思いを巡らす。
そして次に
ロードマップで
サイクリング・
コースを調べていると、
突然、携帯が鳴った。
画面を見るとユキチの名。
即座に通話をタップすると、
そこら中に響き渡るような大声で、
「おい、1人で行く
こたあーねーだろ」
大介もすかさず、
「なんだよ、いきなり。
こっちはみんなを
起こさないよう
に気を使ったんだ」
「バカが変な
気を使うな、アホんだら」
「お前、寝顔見たら怒るだろ」
「そんな肝っ玉の
小さい女に見えるのか。
だいたいパン屋は
何時に開くんだよ」
「7時だ」
「今何時だ、6時過ぎか。
お前また時間を調べなかったのか?」
「ピンポーン」
「何がピンポーンだよ。
昨日の失敗を全然生かしてねえな」
「悪かったな、
起きて外に出たら、
あまりにも気持ちよくて
ついうっかりしちまった」
「お前はいつもうっかり
してるんだよ、あんぽんたん。
そこまで歩いて
どれぐらいかかるんだ」
「そうだな、30分くらいかな。
よくわかんねえよ」
「それなら十分
オープンに間に合うな、
あたいも今から
そっちへ行くぜ」
「いいよ、別に来なくても。
レンタルサイクルや
コースなども
色々調べたいんだ」
「いいから走り
たかったんだ、
お前はそこにいろ」
「バカいいってば。
おい!あ、切りやがった」
あっけにとられながら
大介は仕方なくまた、
フランスベーカリー
の方向へ歩き出す。
アイスコーヒーに溶けた
氷を噛み砕きながら、
大介の五感は
徐々に軽井沢の街並み
と同化して
リラックスしていく。




