思案4
大介が扉を開けて一歩外に出ると、
あたりがあまりにも真っ暗で驚愕する。
部屋の中を振り向いて、
「洋子、懐中電灯なんかあるか?」
と声をかける。
すると、
「ちょっと待って、
この辺りは夜になると
街灯が少ないから、
あってもいいはずよ」
「あるとしたらどこかな?」
「大介、リビングじゃない」
「いや救命袋の中になら
あるんじゃないか?」
「そっか、みんな手を貸してくれ」
とユキチが声をかけると、
全員であらゆる
ところを探し回った結果、
実が一階のクローゼットに
大きな収納があることを見つける。
中を確かめると、
黄色い照明器具が入っていた。
「あったぞ」
「実、点くか」
「ああ、単1乾電池が別に
4本付属しているから大丈夫さ。
今セットしてみる」
そしてスイッチを押すと、
サーチライトのような
力強い光が前方を照らした。
「大介、これだけ光れば大丈夫だよ」
「実、礼をいうぜ。早く
行かないと店が閉まっちまうからな。
ユキチ、急ぐぞ」
「ああ」と応えて、2人はすぐ
にコテージを飛び出して行った。
しかし、軽井沢の夜は
想像以上に暗黒であった。
ユキチの様子がおかしいこと
に気づいて大介は声をかける。
「手をつないで行くか」
「ああ」
「東京じゃあ、
ありえないほど暗いな」
「足元を照らしてくれ。
溝にハマったら大変だ」
2人が一歩づつ確かめながら
暗がりを歩いて行くと、
道が二股に分かれていた。
「大介、どっちだ」
「ああ、右だ」
「これだけ暗いと帰りは
自転車に乗れないな」
「そうだな、ユキチに照らして
もらって、俺が押すしかない」
「地図はどうなってる」
「曲がる箇所はあと3つぐらいだ。
旧軽に入ったらいくらか明るいだろう」
「大介と手をつないで
歩くとは思わなかったぜ」
「小さくて
かわいい手だ。
感触も柔らかい」
「明るかったら
蹴飛ばすところだ」
「ユキチに蹴ら
れるなら別に構わない」
「フン、いい気になるなよ」
「抱きしめてもいいか」
「ヤダよ!」
「離れると転ぶぜ」
「てめえ、怒らせる気か」
「いたって本気だ」
「大介、丁度いい。
なんで洋子と説子を
バンドに入れたんだ」
「なぜかな」
「答えになってねえぜ」
「ユキチ、影でコソコソするのと、
堂々と他の女の存在を知らせるのと、どちらがいい」
「場合によりけりだな。
とにかくやりづらいぜ」
「そうだよな、
どうしても相手を意識して、
いいたいことも言えないか」
「ああ、気持ちを
知られたくねえからな」
「好きってことをか」
「ふざけるなよ」
「ユキチは本当に
まっすぐに自分の感情を出す。
でも洋子は違うんだ。
相手の立場とか感情とかを
考えながら
言葉を選んでいく」
「だからなんだ
っていうんだよ」
「俺は必要として
くれる人がいいんだ。
俺にとって音楽とは
空気みたいなものだ。
これからどんな形であって
も生涯寄り添っていきたい。
そのために洋子には、
どうしても音楽に触れてほしかった。
でも、2人を天秤に
かけているわけじゃないんだ。
俺たちの年頃の恋愛なんて、
まだまだ未成熟だとは思わないか?
好きという感情だって、
確証があるわけじゃない。
なんとなく一緒にいたい。
それだけで選んでないか?」
「あたいはそれが重要だけどな。
フィーリングの合わねえ奴なんか、
と一緒にいたくねえからな」
「俺は洋子と説子を加えることで
実と謙二とユカに刺激を与えたかった。
新しい感性が加われば、
それだけで輝きが増すことになる。
ユキチだってもう変わっているんだ。
相手の気持ちを思いやっているじゃないか。
ユキチが女らしくなったら、
もっともっと魅力的なヴォーカリストになる。
俺の狙いは化学反応だ。
1+1はきっとかけ算に
なってくれるはずなんだ」
「てめえ、ホントだろうな」
「ユキチ、ちょっと待て、足を踏んでる」
「よし、わかったぜ。
明日から本気でいくからな」
「はは、顔が見えたら
きっと怖いんだろうな」
レンタルサイクルショップ
までの道のりはまだまだ遠かった。




