第3話 初依頼
ショッピングモールの桟橋で突貫作業で『ユニコーン号』のメインコンピューターを換装していく鳳仙花達。その横で3DCGのアミが霰も無い姿で嬌声を上げている。
「アミ、本当にやめてよね!R指定食らっちゃうじゃない!」
『怒るでない。本当に気持ち良いのじゃから……♪』
「AIのあんたにそんな感覚があるわけ?」
『銀河最高のAIである妾を舐めてはいかんぜよ?どうしてもと言うなら一肌脱がんでも無いがの……♪』
おもむろに服を脱ぎだす3DCG。鳳仙花は呆れながら、
「舐めないし……。第一、どうやって、3DCGを舐めるのよ……。」
『その辺は解決済みじゃ。そろそろ届くはずじゃ。』
「そろそろ届くぅ?」
すると、通信機が着信音を鳴らし始める。
『こんちわ~!宅配便で~す!』
届いたのは2m四方はあろう、巨大な段ボール箱。
「一応中身スキャンしたけど、爆発物ではなさそうだよ。それ以上に危険物だけど……。」
ケーナが呆れながら言う。
「危険物?」
『ささ、はよう開けてたもれ♪』
鳳仙花と真由美が恐る恐る梱包を解いていくと……。
「確かに、危険物だ……。」
「このままじゃ危険よねぇ……。」
「「他人に見せられない!」」
『ふむふむ、僅か短期間でこの出来……くふふ……素晴らしいぞ!』
「あんたいつの間に!?」
『自己紹介を済ませながらかのぉ?』
届いた物は、軍用アンドロイドの外見をカスタムし、愛玩機能まで搭載した物だった。
『流石に飲食は不要じゃが、オプションのヘッドセットを使用すれば、船の演算端末と接続してやりたい放題じゃからのぉ♪それに、一人のお留守番はもう嫌じゃ……一人で眠るのは寂しくて嫌なのじゃ……。』
喜んだ顔を見せたかと思うと、涙目になる3DCG。
「そっかぁ、あんたも寂しかったのね……。」
つられて涙ぐむ鳳仙花。
「(チョロインだ……)」
「(チョロインだね……)」
「(チョロイ……)」
『(チョロ過ぎるのじゃ)』
と言う訳で、にぎやかになったユニコーン号のブリッジ。4人と1台の珍道中が幕を上げることになった。
搭載コンピューターが銀河系最強レベルで、その制御AIが中央政府の意思決定機関で使われているAIの同型機であること、船のコンピューターを更新したこと等の諸々を船員組合に報告書で提出した鳳仙花は、船員組合のエージェントと通信機越しで話をしていた。
『ん~、まぁ、船の所有権は合法的に鳳仙花嬢ちゃんが手に入れたものだ。それに付随するものの所有権もしかりだろうなぁ……。』
「そんなザルで良いんですか?」
『皇室が良いって言ってるんだろう?何も問題ないよ。まぁ、問題があれば、中央省庁から連絡が入るだろうさ。』
「だと良いんですけど……。」
『でだ、そんな鳳仙花嬢ちゃんとユニコーン号にお仕事の依頼だ!』
「お、初の依頼♪」
『依頼主は、帝国軍第七艦隊指令のホフマン大将閣下だ。期間は到着から1週間。報酬は1日100万銀河クレジット。実弾演習の標的艦の遠隔操作をご所望だ。アミちゃんの能力があれば楽勝だな♪なお、滞在は司令部星系の保養地区を開放してくれて、寝食代は軍が支払ってくれる。』
「わお♪至れり尽くせり♪」
『細かいことは現地で詰めてくれ。ほんじゃ、『ごあんぜんに』。』
「と言う訳で、初お仕事です!」
「久しぶりの艦隊戦かのぉ……腕が鳴るのじゃ♪」
アミの顔が黒い笑顔になる。
「うわぁ、ゲスい顔してる……。」
「どこまでやるかは、依頼主さんに要確認よ。あまりえげつないことはできないんじゃない?」
「まぁ、ばれることはないじゃろうよ♪」
「くわばらくわばら……。」
「第9番惑星まで光速で5時間半、星系内での制限速度は光速の50%まで。9番惑星外のゲートから亜空間航路999号線でメネト星系ゲートまで10時間、そこから艦隊司令部まで指定速度で10時間。合わせて30時間のフライトね。」
「ステーションにはそのプランでフライトプランを出しておくね!」
「メネト星系のフライト許可受諾。」
「終わりの海星ステーションより通信。『貴船の航行の安全を祈る』」
「帆走開始地点までの移動開始。主推進器全力噴射600秒」
「航路、計画書通りじゃ。このまま進め。」
「現在速度マッハ50……60……70……。」
「レーダーに障害物無し。」
「現在速度マッハ150……200……250……。」
「帆走開始地点まであと30秒。カウントダウン開始!……15……14……13……12……。」
「ソーラーセイル展開まで、あと10!9!8!7!6!5!4!3!2!1!ソーラーセイル展開!」
「ユニコーン号発進!!」
「ソーラーセイルの展開を確認。トリム合わせは任せるのじゃ。」
「適正トリム確認、船の加速度上がります。」
「現在速度マッハ1000……2000……3000……。」
「ほれほれ、もっとシビアに合わせていくぞ♪」
「現在速度マッハ6000……7000……8000……光速の1%を超えました。」
「ステーションからの気象情報。予測どおり、大規模太陽風来ます!」
「風に乗るのじゃ!一気に光速の50%まで加速じゃ♪」
「太陽風到達まであと10分!」
大規模太陽風を受けたユニコーン号は光速の50%まで加速し、星系外の亜空間航路の入り口を目指す。
11時間後、ユニコーン号は亜空間航路の入り口であるゲートを目視できる距離まで来ていた。
「うわー、おっきくて綺麗~!」
「妾も初めて見るが、この様な物まで作れるようになっておったのじゃな……。」
「亜空間突入に備えて、雨戸を閉めるよ~!」
「ソーラーセイルの収納完了。各センサー、レーダー、その他突起物の収納完了。」
速度を音速まで落としたユニコーン号は、ゲートから発信されるガイドビーコンに沿ってゆっくりと進んでいく。
「亜空間との境界面まで後300……200……100……亜空間に突入します。」
「亜空間への突入確認。亜空間航路999号線本線への合流確認。」
「主推進器全力噴射!本船速度光速を越えた!」
「亜空間航路内進路クリア。本船外殻に損傷無し。」
「本船速度、光速の5000倍に到達。指定速度までの加速を継続中!」
「亜空間航行は初めてじゃが、観測はお任せなのじゃ。」
「本船速度、光速の10000倍に到達。航路内指定速度にて安定航行中。」
「それじゃぁ、予定通り船内時間を夜時間にして、交代で休憩ね。」
それから10時間後、ユニコーン号は無事にメネト星系ゲートに到着する。
この宇宙で亜空間航行するには2パターンの方法がある。
一つは自力で通常空間を突き破り亜空間に突入する方法。大抵の大型船は自力でこれが行えるほどの出力を有している。
二つ目は今回のユニコーン号の様に各星系外縁部に設置されたゲートから亜空間に突入する方法。船体にダメージが少なく、安定した航行が可能で、小型船やエンジン出力に余裕のない船、曳航している船が行う。
船齢15000年を数えるユニコーン号は、船体保護と、ロマンがなくなるという理由からゲートを利用する航行に努めることになる。
「単独の亜空間航行だってロマンがあるんじゃないかい?」
「だって、この船帆船ですから!」
「妾の柔肌に傷を着けたいのかえ?」
「修理代出せるほど儲かってから考えましょう……。」
メネト星系の太陽光に対し25度の角度まで切り上がりながら帆行するユニコーン号は光速の25%の速度で帝国軍第七艦隊司令部を目指す。
「結構ジグザグな航路を通るんだね。」
「帆船じゃて、このような航路は仕方が無いのじゃ。ほれ、鳳仙花。取り舵20度じゃ。」
「はいはい、取り舵20。」
船体の各部に取り付けられたスラスターが鳳仙花の操舵に合わせて噴射され、船の進行方向が変わる。変わった進行方向に合わせてアミがソーラーセイルの開きを変える。
何十ものタッキングを繰り返し、ユニコーン号は第七艦隊司令部の管制宙域に到達する。
司令部の港に到着した一行を出迎えたのはホフマン大将本人だった。
「試験官って、軍のお偉いさんだったんですね!?」
「艦隊司令部は、担当管区の操船免許試験、更新手続き、住所変更に再発行も業務のうちなんだが。可愛らしいお嬢さんが受験すると言うことで、司令官権限で私が試験官を買って出たのだ!」
「ただのエロ親父じゃん……。」
「試験は、公平に採点したぞ?」
「鳳仙花の貞操は妾の物じゃ!」
「だから、なんでそう言う話になるのよ!」
司令官室までの道のりは賑やかな物だった。司令官室に着くと、応接用のソファーに座るよう進められ、ホフマン大将は自分の机から1枚のディスクを取り出す。
「これが今回の依頼内容なんだが……。」
ディスクを受け取った鳳仙花はホフマンに聞き返す。
「何ですかコレ?」
「コレは中央のコンピューターが算出した訓練課題のデーターだ。司令部のコンピューターで再現しようとしたが、いかんせん、中央のアマテラス式AIが作成した物でな……。司令部のコンピューターでは処理しきれなかったんだよ……。そこで、君が『アメノイワフネ級』を発掘、再利用を開始したニュースを聞いて、今回の依頼となった訳だ。」
「すると、妾に対する依頼と受けてよいのじゃな?」
アマテラス式AIであるアミが応える。
「無論、その通りだ。『アメノイワフネ級』がそのスペック通りなら、各艦隊の旗艦が10隻揃っても太刀打ちが出来ないほどの電子戦戦力の筈だからな。しかもアマテラス式AI搭載ときたら、同型のアマテラス式AI以外はどうやっても太刀打ちできないよ。」
ホフマンは苦笑いしながらアミの方を見る。
アミは携帯型のディスク読み取り機を取り出し、自分のヘッドセットと接続してデーターの読み取りを開始する。
「ふむふむ、射撃管制の訓練プログラムじゃな。5万隻で30万の標的を撃つ訓練プログラムじゃ。その後は模擬戦闘プログラムじゃな。ちと柔軟性に欠けるが、まぁ、この程度なら訓練プログラムとしては十分じゃろうて……。」
「30万機の標的かぁ……すまないが、準備に3日程くれないか?」
「模擬戦闘プログラムは、司令部の演算機で再現可能じゃ。滞在期間は変わらんじゃろうから、報酬は変わらずじゃな。」
「では、準備が整うまで、保養区域でゆっくり休んでてくれたまえ。食事の味と設備は保障する。」
軍の保養区域は、それは贅を凝らした物だった。人工ビーチに遊園地。付近の惑星から汲んで来た天然温泉。三ツ星以上のレストランに、エステにシネマ、小洒落たカフェにバー。クラブに社交ダンスホール、キャバクラにホストクラブ。男女共にいかがわしい店まであるという徹底振り。強いて言うならば、従業員が全員軍人だと言うところくらいだろうか……。
「いやぁ、30時間分の旅の疲れが癒えるねぇ♪」
「極楽なのじゃ♪」
「料理も酒も一級品揃い♪」
「楽しすぎて、寝る暇g……Zzzzz……」
「十人切り達成……。」
人工ビーチとエステを楽しんだ鳳仙花。温泉と遊園地を楽しんだアミ。グルメを楽しんだケーナ。全てを一回りした真由美。ここには書けないことを楽しんだ翔子。
楽しんだ後は仕事の時間である。メネト星系外縁部に設定された演習宙域に『ユニコーン号』はソーラーセイルを展開して漂っている。
「『アメノイワフネ級航宙船』の真骨頂は、ソーラーセイルでの帆航ではないのじゃ!ソーラーセイルをアンテナ代わりに使った、『超電子戦もーど』じゃ!……ちとこの宙域は狭いがの♪」
「それにしても、30万もの標的をよくもこれだけ精密に動かせるものねぇ……。」
「それだけの船を手に入れたのじゃ、誇ってよいぞ♪」
「『超電子戦モード』って凄いね。探査能力まで上がっているよ。あ、第一分艦隊の525号駆逐艦、反応が0.2秒遅れてる。」
「第七艦隊の全ての艦船の動きも把握済みじゃ!この探査能力を駆使して10000年以上前に到達したのが『終わりの海星』じゃ♪」
「本当に規格外の船ねぇ……。」
「いやぁ、しかし、勇壮なもんだねぇ♪お、大型戦艦が突出してきたぞ……演習の〆はやはりアレかな?」
「対ショック・対閃光防御?」
「そうそう♪それそれ♪」
とは言え、大人気の古典作品シリーズに見られるトンデモエネルギー砲ではなく、宇宙空間に漂うエーテル粒子を超圧縮プラズマ化したエネルギー砲なのであるが……。
「大型戦艦の艦首に高エネルギー反応。超濃エーテルのプラズマ化を確認!」
「船外カメラ、超望遠で大型戦艦を補足。順調に録画中。これは、マニアに高く売れるぜぇ♪」
「付近の艦船の船外カメラもハッキング終了じゃ♪艦内音声もばっちり拾えておる♪」
大型戦艦の戦闘艦橋の音声がスピーカーから流れてくる。
『プラズマ・エーテル波動砲、発射10秒前……9……8……7……6……』
カウントダウンに合わせて、ユニコーン号の操舵室も声を上げる。
「ごぉ♪」
「「よん♪」」
「「「さん♪」」」
「「「「にぃ♪」」」」
「「「「「いち!」」」」」
「「「「「『発射ぁ!!』」」」」」
プラズマ化したエーテルの奔流が標的をなぎ払って行く……。
「くぅ~♪来て良かった~!」
生での『プラズマ・エーテル波動砲』の正射を拝めたケーナは感涙する。古典好きの鳳仙花も同様に感激している。
「最後に、良い物見せてもらいました!」
演習後のブリーフィングで鳳仙花達はレポートを提出したあと、司令官室でお辞儀をした後に家路に付くのであった。
みんな大好き波動砲!