プロローグ
西暦2019年4月19日
TOKYOオリンピック前の年の春、地球に巨大な宇宙船が現れた。乗っていたのは、SF映画に出てくるような異形の異星人ではなく、我々と遺伝子レベルで違いの無い人間だった。JAPANのアニメの見すぎか、NASAの陰謀かと人々は勘繰ったが、彼らが手にしていたのは、パイオニア10号と11号に搭載された『金属板』だったのだ。そして、彼らはこう言い放った
「第150,987,654,321太陽系の地球人諸君。我々は、『銀河帝国本星』からやってきた。我々は探した。この大銀河をくまなく。そして、最後の最後に、この星にたどり着いた。まさかその星の住民が、我らが『銀河皇帝』の傍流の末裔であったとは僥倖である。再び我らは手を取り合い、共にこの大銀河のために歩んで行こうではないか!」
と流暢な日本語で……。
西暦2020年8月9日
TOKYOUオリンピックの閉会式は、そのまま、銀河帝国の併合式典となり、目出度く第150,987,654,321太陽系の第三惑星は最後に発見された居住可能型惑星として『終わりの海星』と言う名前で『銀河帝国』に併合された。
そして、銀河帝国暦15000年、西暦3020年8月9日
終わりの海星宇宙ステーション第201造船ドック内
「進宙式、おめでとうございます。『ユニコーン号』の航海の安全をお祈り申し上げます。」
愛想がよく恰幅な中年男がお祝いの言葉を掛けながら、若い女に恭しくお辞儀する。
女は、
山崎 鳳仙花 19歳
若くして宇宙船の船長資格を取得した将来有望な女である。星系最年少の船長資格保持者にして女と言うことも有って、客船運行会社から星系軍、はたまた帝国軍までもが彼女を引き抜こうと必死であったが、全ての誘いを断った彼女は、宇宙船『ユニコーン号』を使った個人経営業者になってしまった。
なぜ、19歳の鳳仙花が宇宙船『ユニコーン号』を所有権を得たのかというと、3年前のある日、宇宙サルベージ会社の現場作業員のアルバイトをしていた鳳仙花が偶然、月の裏の周回軌道上で発見した小惑星にこの船は隠されていたのだった。発見した鳳仙花が会社に引渡し調査を実施したところ、帝国のデーターベースから、
『帝国皇室船籍 登録ナンバー0002 アメノイワフネ』
なる太古の宇宙船の名前がヒットした。言うならば『終わりの海星』の人類の祖先が乗っていた船とも言える。だが、袂を分かった時点で船籍は廃され、その船のテクノロジーは銀河帝国ではもはや廃れた技術であるソーラーセイル。帝国本星の帝国博物館位しか欲しがる場所は無く、その帝国博物館にはすでに同型船が展示保存されているので、同じ船は2隻も要らないとの回答であった。当然、終わりの海星星域でも最新の宇宙船が航行し、建造され取引されている。よって欲しがるものはよほどの金持ちで道楽者ぐらいしか居ないのであるが、やはり、皇室に縁のある船と有っては声高らかに欲しがるものは居なかった。そう言う訳で、鳳仙花は皇室のお墨付きと、維持費と運行費用の肩代わりと、隠されていた小惑星型ドックの所有権まで受けてこの船の所有権を手に入れたのだ。この船を手に入れた鳳仙花がまずやったことは、船内に取り残されていた冷凍睡眠装置の除去と、主機関の更新であった。それでも収納スペースが余ったので、贅沢にも大き目の浴場を作ってしまった。浴場は開閉式の外殻にし、宇宙の星星を眺めながら入浴できるようにしたが、近くを通る船から丸見えになってしまうのだが細かいことは気にしてはいけない。
かくして、船体のカラーリングを白に改められた船を見た鳳仙花が、
「まるで、ユニコーンの角みたい。」
と語ったことから、この船は目出度く本日『ユニコーン号』として進宙することになったのだ。