姿
区切りを良くするため、短くなってしまいました。
土日中にもう一頁書きたいです。
必ず届けなければならない。彼女の幸せのためにあるこの喉が潮風に晒され枯れようとも、食べるために無くてはならないこの嘴がたとえ折れようとも、彼女の想いだけは届けなければならない。
全身が悲鳴をあげていた。それでもあまり飛ぶことが好きでないその体を動かして呻いていた。脳裏にあの黒い影が映し出される。鋭い爪と野蛮な声で襲いかかってくるあの海鳥にどれだけ呪いの言葉を吐きかけてやっただろうか。それでも、そんな言葉たちは益々敵の不機嫌を煽るだけで、気を失う前に自分の背中に爪が根深く刺さって、やっと後悔した。
――思えば、馬鹿らしい試みだったのかもしれない。生来、人間の道楽のために歌って過ごしてきた半生だった。いくら旧生物より長寿の進化型生物だとしても、それなりに老いた身である。そんな自分が彼女の大切な"手紙"と"プレゼント"を遠く海の向こうまで運ぼうなんて、彼女に失礼だ。だがまだ幼く、更には森の苔の上を駆け抜けることさえも難しくなってしまうほど弱った彼女は森に立つ小さな家の寝床に横たわりながらこの老体にありがとうと言ったのだ。そして、歌をうたってと微笑んだ。
彼女に歌をねだれられるのも、これが最期なのかもしれない。歌うために硬く閉じた嘴を開くのに、そのときは少々時間をかけずにはいられなかった。
歌の出だしはあからさまに震えていて、自分が彼女を失うことに恐怖していたことを思い知った。それでも彼女は安心したように息を吐く。歌ったのは旅の歌だった。歌い鳥の本能によって持ち得る、自分でも把握していないくらい膨大な情報として並ぶ歌たちの中で、彼女が一番お気に入りのものだった。
歌い終わり、彼女は目を閉じていた。その小さな胸がかすかに上下しているのを見て、声を失う程に安堵し、荷を持って窓から飛び立った。
別れの言葉はない。