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孤島の子  作者: さとら
第1章
1/3

一人一島の世界

こちらの小説未だ執筆中です。更新がとても遅くなるので覗いてくださった方には申し訳ありません。できれば週に一回は更新したいと思ってます。よろしくお願いいたします。



 澄んだ青が塗られた空から、空色のペンキが滾滾と流れ落ち濁ったような深い深い青が広がる海。


 ゆらゆらと揺れる白波は、海を翔る白兎のようで、それは美しい太陽のきらめきを浴びながら、一匹のコウノトリを囲んでいた。


 コウノトリのくちばしで、白い布包みがゆったりとした羽の動きに合わせて波のはるか上を揺れている。よく見てみれば布は奇妙に動いていて、終には結び目の隙間から小さな手が飛び出してきた。


 ハラハラと羽を忙しくさせていたコウノトリがぎょっと目を見張った。手は空気を掴もうとするかのように厚い皺を伸ばす。赤ん坊の声が波の音に紛れて響く。赤ん坊は母胎の中にいたときを思い出し、白い布に僅かな記憶を思い描いていたのだ。


 母を呼ぶ声に、波に怯える声にコウノトリは慌てて進路を変えた。

 本来進むのは北だが、ほんの数百メートル南に小さな無人島があったはずだ。息を詰まらせてぐるりと旋回するコウノトリに、赤ん坊は嬉しがっているように笑い声を上げた。


 ほどなくして目的の無人島に降り立ったコウノトリだが、砂浜から離れた森の中に小さいなりに暴れる赤ん坊をそっと降ろし、赤ん坊がヨチヨチと四足歩行をした先に小動物の骨が散らばっていたのを見て、ここがもう何年も放置され、島所有者の管理が行き渡っていないということに気が付いた。










 ───少子化が進み、世界人口が極端に少なくなった世界で、極度な大陸移動で大陸や日本列島がバラバラに分かれてできた島を一人一人が所有するという、その昔大陸というものがあった時代からは考えられない制度。


 通常、島を充てられた所有者は島を管理する義務があり、たった一人で島にいる。それをサポートし管理方法を所有者に教授するのが島搭載AIと進化型アニマルの役割である。


 島搭載AIは所有者の性格、傾向、好みなどを分析しどんな島にするかを実際に所有者に提案し所有者の命令や要望を少なからず叶えるという機能を持ち、【誰もが住みやすい島】を実現するために先導する人間の、島のための人工知能である。


 そしてそれらのサポートに就くのが進化型アニマル。彼らは遺伝子操作や大陸の割れた厳しい環境の中で、あらゆる場面に特化し進化した動物であり、所有者がまだ自立していない状態の場合、母親のように寄り添い生育する能力を持っている。


 何を隠そう、コウノトリも進化型アニマルであり、彼の仕事はその底無しの体力でどこかの島で産み落とされた赤ん坊をその赤ん坊の所有する遠くの島に送り届けることだった。







 鬱蒼とした森の声が不思議と静かになったところで、呆けたコウノトリの脚にウサギの骨がこつりと当たる。


 赤ん坊が無邪気な笑顔でコウノトリを見ていた。シューのような手にはウサギの頭蓋骨が握られていて、オムツの下にはその他の骨が埋まっている。


 コウノトリがぐるりと目を回して見せると赤ん坊は頭蓋骨を放って骨の上に寝転がった。ほとんど筋肉のない柔らかな腕を掲げ、緑樹で見えない太陽に照らされている。


 コウノトリは半ば呆れたように赤ん坊に向かって布にくるまるよう声掛けした。嫌な予感がしていたのだ。進化型アニマルの何かがこの怪しげな島の空気を気に召さなかった。危険だと感じていた。


 恐らくこの島のAIは機能していないのだろう。故障し、修理されずに自ら機能するのを止めるAIもいるため、所有者がどこか別の島に移り住みそのまま廃島と化したのだ。


 廃島は何かしら進化型アニマルでない普通の動物たちが蔓延る場所であり、知性や理性を持たないようになった者たちが好きにしている島になど長居する者は中々いない。




 さっさとおさらばして赤ん坊を届けよう、とコウノトリが赤ん坊を見た瞬間、背後から何かが迫ってきた。


 進化型特有の、所有者保護の優先観念を持ってしても間に合わないほどのスピードでコウノトリの頭上を黒いモノが跳ねていった。



 コウノトリが両の翼を広げ威嚇した先には、赤ん坊をオムツごとくわえている2mほどの犬科と見られる動物がいた。


 毛足の長い黒いその動物は、ぎらりと光る琥珀色の瞳を瞬きもせずじっとコウノトリを睨んでいる。グルルル、と地に這うような低い唸りとともに肩の筋肉が盛上がり、赤ん坊の半分ほどの大きさの鋭い爪が土をかきむしった。


 こんな動物は見たことがない。進化しているように見えるくらい巨大ではあるが、同じ人間のために創られた者として敵意を向けてくる辺り、明らかに進化型ではない。


 ならば何なのだろうか。


 コウノトリがきゃいきゃいとくわえられたまたはしゃぎ、地面に向かって手を伸ばそうとしている赤ん坊を見つめ、体勢を低く保ったままそこから後退した。あちらはそうした方がいい、とでも言うかのように前進し、ふっと赤い歯茎の間から息を出す。その仕草は笑ったのかと思われるようだった。


 コウノトリが慎重に、ゆっくりと羽ばたく。


 力強い羽から生まれる風が赤ん坊の頬をそっと撫でていった。
















 コウノトリが同類の中でも指折りの速さの速度で海に影を落としながら飛んでいく。もうどのくらい飛んだだろうか。猛スピードで飛び続けていて後ろを振り返って確認はできないが、きっとあの島は見えない。


 ふと、あの黒い獣の琥珀色がコウノトリの脳裏に浮かんでくる。進化型アニマルの間では感じたことのない、背を削るような恐怖、その昔弱肉強食という生物と生物の関係があったという事を身に受けて、コウノトリは自分が怯えていると感じる。


 あの野獣は何だろう。大陸分断の前からいた旧生物だとしても、あのように巨大な生物は居なかった。


 ただ、野獣は殺戮が目的ではなかった。自らの住処に持っていって餌にでもするのが目的なら、あの場で仕留めていたはずだ。あの赤ん坊を生きて、しかも傷付けぬようにくわえて、さっさとコウノトリを追い払った。


 何が目的で、その正体は何なのか。


 とにもかくにも、あの赤ん坊を救出せねばならない。異例の事態に、コウノトリは自分の管理されている場所、【東の住処】に向かっている。


 あの場所ならば、野獣に対抗できる進化型アニマルはごまんといる。しかし、コウノトリの胸に植え付けられた恐怖で、想像上の彼らは彼の期待に共鳴することはなかった。



 コウノトリの瞳が向けられた方角に広がる曇天が、海に訪れる嵐を告げている。








 そして、その後のコウノトリの行方は、誰の知らぬものとなった。




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