あとがきに代えて冒険の書を
あの夢は
あの言葉は
今の私の内に
ひっそりと
息づいている
「闇の賢者が世界を滅ぼす。
それを止められるのは……」
私だけだって
夢の中で
嘘と思っていた
今真実になる
こういうのに憧れていた
あの日の私はもういない
今あるのは
不安と
絶望と
疲労と
汚れきった心と
あの日の私だったら、
あの日の私が居れば
目をキラキラ輝かせながら
この逆風にさえ
笑みを浮かべていられたのかな
私は、もう
世界を救えるような
私じゃない
「それは違いますよ?
人は誰でも変わります。
過去から学んで、前に進む。
それが人です。私と違って。
人であるあなたは、確かに、
昔のあなたではないでしょう。
でも、だから、何です。
あなたはずっと一人だけ。
ずっと特別な存在。
そして、偶然にもあなたが選ばれた。
あなた以外にいないのです。」
だけど、もう、
私は私じゃないんだって!
「いいえ。あなたはずっと、
あなたです。その答えは、
あなたの書かれた詩にあったでしょう?」
私の書いて来た詩に答えが?
「多くの事に行き詰り、
世界が自分の想い通りに動かないことに、
納得できず、でも、何もできず。
行き場を失った感情の出口。
自分の中に浮かんだ答えを、
それすら否定する答えを紡いで。
悩んで、考えて、絶望して、それでもめげず、
時には飽きて放り投げたり、掻き消したくなったり、
燃やしたくなったり、恥ずかしくなったり。
でもそれは、あなたが、
これまでの道筋を通り過ぎ、
過去の自分の答えを
恥ずべきものだと理解した
すっかり、
自分を通り越してしまったのです。
確かにあなたは、
もう過去のあなたではないけれど、
それはあなたが、
すっかり成長したから。
大丈夫です。
過去のあなたが消えたわけではありません。
今のあなたは、
思い出や、黒歴史の積み重ね
経験や、無知や、それら全てを集めて
今のあなたなのです。
だから、大丈夫。
もう。大丈夫なのです。」
妖精は優しく笑って、
私に一冊のノートを手渡した。
そこにはこう書かれていた。
『冒険の書』
あ、っと声が出る。
「ここにある詩はほんの僅か。
でも、あなたの思いが詰まっています。
ずっと昔の、あなたの思いが。」
見覚えのあるそのノート
私は小さくうなずいて
呼吸を整え
ページを操る