思い出したくもないプロローグ
「ここはどこ」
私が問うと
「ここはどこでも」
風が言う
「そこにノートがあるでしょう?」
見ると確かに黒いのが……。
いや、確かに見覚えが……。
「これはもしや」と驚くと
「あなたの詩集のノートです。
これを朗読して下さい」
「いやいや、これはまずいでしょう」
慌てふためく私を横目に
風は一息ついていた
小さく渦を巻きながら
風は互いに寄り集まって
ちらりとこちらに目をやって
くるりと姿を現した
翠の服に包まれた
小さな小さな精霊が
小さな小さなその両手を
強くぎゅっと握ってた
「お願いします」
「いや、嫌です」
「私は未だなに……」
「いや、ダメです」
余に頑なな私を見据えて
小さな彼女が泣きだした
「黒の歴史が唯一の頼み、
それが世界を救うのです。
だから唱えて下さいな、
世界を救って下さいな」
私は眉間にしわを寄せ
怪訝な視線でそれをみて
「世界が例え滅んでも、
それとこれと話は別。
むしろ滅んだ方が良い。
黒歴史ごと消えちゃえば……」
私は不敵に笑みを浮かべ
黒いノートに手を付けた
「お願いします! この通り!
世界を救って下さいな!」
「嫌です。ダメです。ダメダメです。
それは絶対なりません。」
ならばこれが奥の手と
風は私を包みこむ
「ただの恐喝じゃないですか」
「だって世界の為だもの」
私はため息一つをついて
渋々ながらうなずいた
「世界がこれで救われる!」
「そうですね。はい。分かります。」
「それでは一ページから行きましょう」
「嫌ですがちょっとその前に」
精霊に向けて手を差し出す
戸惑ったような様子を見せたが
小さな手と手が繋がった
「はいはい、握手。はい、握手」
かくして私の黒ノートを
呼び出す作業が始まった。