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「ふぅ。」
坂口はコーヒーを一口飲んでため息をついた。
最近あった色々な事が頭をよぎる。
日頃の訓練に加え、訓練後は毎日のように上野へ通い嫌な話について長時間話し合い、更に"例の計画"の対策も練らなければならない。
カチャン、とカップを取る音が鳴る。
「坂口さんも大変ですね。たくさんお仕事があるようで。上司への愚痴でも言いに来たのですか?」
一方、その向かい側に座っている女性は坂口に冗談を交えて労いの言葉をかけながら、自分も暖かいコーヒーに口をつけた。
「えぇ、全くです。最近はまともに休めていませんよ。そんな心身を癒してくれるのはこの店のブラックコーヒーだけですよ。」
と坂口は苦笑する。
ここは東京のとあるコーヒーショップ。
今日、坂口は日本陸軍の秘書を務めるこの女性にとある相談をする為、彼女をここへと呼び出したのだった。二人の間に特別な関係はない。
二人共陸軍所属の人間なのだから何か用があるのであれば、基地内で会話をすれば良いし、そもそもお互い高い位に位置する為、それは容易に行えることであるはずだ。
それでも基地ではない、全く別の離れた場所で話をしなければならないのは当然、それ相応のとても大事な理由があるのだ。
例えば、話している内容を"決して誰かに聞かれてはいけない事"であったり。
坂口は一息つくと、手に持っていたコーヒーカップを置くと話を始めた。
「やはりそうでしたか。石森さんもこの計画には反対なのですね。」
「えぇ、勿論です。既に彼ら、彼女らにはそれに関して一通りの知識が備わっている状態です。それどころかもうこの計画には成功例があるそうじゃないですか。」
「はい。確か5人が成功していると聞いております。」
「・・・5人・・5人ですか。まさかそこまでとは思いませんでしたね。」
「えぇ。計画の第一段階はこれ以上ないと言っていいくらい、成功していると言えるでしょうね。」
「彼らは・・・人材の選出はどのようにしているのですか?」
「・・・余り気を悪くしないで頂けると助かりますが?」
「えぇ。勿論承知しております。いちいち反応してしまうと体が持ちませんのでね。」
「・・・はぁ。そうですか。そちらも大変ですね。
えーとですね、人材の選出に関しては幾つかの条件が存在しております。」
「幾つかの条件・・・?と申しますと?」
「はい。それでは説明しますね。
まず一つ目は『運動能力の有無』です。」
「成る程。まぁそれは当然でしょうね。それは必須条件になるでしょうね。
・・・ということは知識に関しても・・?」
「・・・御察しの通りです。流石ですね。
二つ目は仰った通り、『大量の知識の有無』になります。
この場合の知識とはただ勉強だけではありません。雑学、と言えば良いのでしょうか?ジャンルを問わない知識がある者を指しますね。」
「・・・以上ですか?気分を害する所が無かったのですが・・・?」
「はい、問題は最後、三つ目です。」
「問題、ですか。一体どんな事なのです?」
「三つ目の条件は・・・『親族が一人もいない事』になります。」
「・・・つまり"身寄りのない者"という事ですか?」
「えぇ。それだけならまだ問題ではないように思われますが・・・これを深く考えると、色々と問題になるわけです。」
「・・・成る程。つまりこの場合の身寄りのない者たちの親族と言うのは『昨今の戦争後に行われた残党処理戦での被害者』も含まれているというわけですね・・・」
「・・・本当に鋭いお方だ。
全くその通り、アメリカの政策により現在の日本国民に残党処理戦が行われた事は"知らされていない"ですから。一部の者にしか知らされていない。例えば『被害者遺族』とか。」
「・・・詳しくどうぞ。」
「はい、お話しさせて頂きます。今、上が行っている事はですね。
『その選ばれた人材に対し、処理戦の事に関する真実を教えて憎悪を生み、それをターゲットに向けさせる事、またその教育』なんですよ。」
「・・・・・・」
「それが間違いだとは微塵も思っていないようですし。むしろ正しい事であるとすら思っているでしょうね。」
「・・・そんなことがっ!」
「落ち着いてください、石森さん!確かに私も最初は怒りが込み上げましたが、我慢して下さい!」
「・・・っ!・・・申し訳ありません。それを想像してしまうと思わず。」
「お気持ちよく分かります。ですがそれが奴らのやり方なんですよ。信念と言ってもいい。人の考え方はそれぞれなんです。それが正しいかはともかくとしてですが。」
「・・・仰る通りです。では、それの対処法は何かお考えですか?」
「・・・いえ、残念ながら。」
「そうですか。いえ、仕方のない事だと思います。こちらも解決法を探しましょう。
確かに彼ら彼女らに身寄りはありませんが、だからといってあんなことをして良いと言う事には繋がりません。」
「えぇ。・・・ところで少し話を変えますが、先日お頼みした事はまだ行って頂けてますかな?」
「はい。私はまだ上に対して、抗議を続けております。」
"抗議を続けている"という言葉を聞いて、坂口の表情は明るくなる。
「そうですか、ありがとうございます!」
「いえ、そんなお礼をされるような事は何一つ、お互いの利害が一致していますからね。」
「そう言って頂けると何よりです。あと、もう一つお願いをした事については・・・?」
「AUFですか・・・。確かに、私のメリットはかなり大きいですね。非常に魅力的なお誘いだと思います。署名運動の事についても仰る通りだと思います。
・・・ですが、私はまだいいです。私の立場で行える範囲の事を行います。
それが出来なくなった段階で、こちらから入軍申請を行います。逆に今の立場でしかできないこともありますしね。」
「そうですか・・・。残念です。
・・・いえ、それではお互い頑張りましょう。
次回も、また同じ場所でよろしいですかね?」
「はい、わかりました。」
坂口は荷物を持って席から立ち上がる。
店の会計を済ませ、店を出た。
一方石森は、掛かってきた電話に出ていた。
「もしもし、何か御用でしょうか?小椋様。」
—AUFとは
Anti Unknown Force アンチ アンノウン フォース
即ち『対アンノウン部隊』である。
大変お久しゅうございます、どうもミサトです(^_^;)
いや本当にお久しぶりです。ロングタイムノーシーです。
そこは学生という事でご勘弁を・・・
と、こんな風に話毎でかなり時間が開いてしまう事が私のちょっとした悩みであったりします。
もし、この物語を面白いと思って頂けたとしても、時間が開いてしまうと飽きられてしまうのではないかと心配になりますね。
もう一つ悩みといえば、文章の量でしょうか?
読まれている方の中にも感じた方が多いのではないかと思いますが、私の物語はどうしても短めです。
逆に手軽に読めていいよ!とか言っていただければ嬉しいのですが(笑)
もう少し量をかけるようになるといいですね、と自分で思っております。
ぜひ、思った事が少しでもありましたらコメント欄に書いて頂けると助かります( ^ω^ )
読んでくださる全ての方に感謝を込めて
m(_ _)m