ユーの星
その星には地球みたいに学校みたいなのがあって、行かなきゃ死んでしまうっていうか、すっげーシビアで、なんかの力がないと生きていけない星なんだ。
あれもこれも地球に似てるけど、やっぱりどこか違うから、それは違う星なんだ。
僕が地球を知っているって、それって実はすげえことなんだぜ。
その星じゃ子供は能力を持つ為に育てられてて、だから能力を得られない子はできそこないで、だからできそこないには価値がなくって、だからそのうち宇宙のあっちに捨てられちゃうんだ。ちなみにここでいう能力ってのは、勉強ができる能力のことさ!
僕がそれを知っているのは、それが常識だからだ。でもそれってすごくいい常識らしいよ! 勉強のできる人が言ってたから間違いないんだ、覚えといて!
「教育期間に赴かないのはすごくよくないことなのです。能力が伸びず、試験をパスできず、ゆえあって捨てられるのです。このままではユーは死んでしまいまする。あなたが心配。すごく心配。きゃー」
彼女、まぎらわしいけどユーって名前。今喋ったのは、ユーを説得してるクラスの秀才女子。名前は知らない。だって秀才女子は口調の割に平凡な顔してるんだぜ。目の寄り方から、鼻の大きさまで、どこにも偏ってないんだ。でも知ってる? 目が、ちっちゃすぎなくて、大きすぎなくて、鼻も口もそんなふうに平凡な顔って、巷じゃ美人っていうらしいぜ。
ユーは秀才女子が無表情でそういうこと言うから、怒って「ん!」って返事しちゃった。
でも誰もわかんだよな、怒ってるの。ユーの場合、伝わらないから、怒っても意味ないの。我慢して貯めこむのと、怒りが伝わってなくてイライラすんのってきっと双子みたいなもんなんだぜ。
だからほら、秀才女子は秀才らしく満足してどっかいっちゃうでしょ。そうなるとユーの怒りは行き場がなくなって、自分の目の前でずっとグルグルしてんだ。
そんで、ユーは「んんー!」っていきみながら山の天辺に登るんだ。今日ばかりは景色も小石も知らんぷりだって。
でも、ユーはみんなが思ってるような特大馬鹿じゃないんだよ。
特大のわたあめ被ったような金髪で顔も全然わかんないけど、その中身は確かなんだよ。
だからいっつも怒ってるんだ。
わかってることばっかりだから怒ってるんだよ。
ユーは僕を探してるんだ。
ユーは自分がどっから来たのか知らないのさ。みーんな、親がいて生まれた場所はどこだって知ってて、どこで育ったか知ってるんだ。でも、ユーは知らない。絶対覚えてる! ってユーは言うんだろうけど、それって結局名前だけなんだよね。親は誰々さんで生まれた場所はどこだってそりゃあ他の子みたいに言うけどさ。ユーは途中から神様に半分乗っ取られちゃってるから、どうしようもないのさ。みんなと同じようには覚えてないのさ。記憶にあるのは文字列だけさ。
そんなユーだから、記憶力疑われて馬鹿だって言われちゃうのは残念ながら当然だけど、でもまあ、極端言えば過去全部知ってるより未来全部知ってるほうが天才でしょ。
だからユーには、みんなが大事にしてる教育機関がそのうち全部ぶっ壊れちゃうってわかってて、今月中に落っこちてくるUFOの方が楽しみなんだ。
ユーは体験する未来が全部わかるわけじゃないんだ。みんなが体験した過去をほんのちょっとしか知らないのと一緒。
だから、ぼんやり見えてるUFOが今日来るのかなって楽しみにしてた。日付だって曖昧だ。みんながなんも見ないで前にカレーを食べた日を思い出せないのと一緒!
でも、近づけばだんだん見えてくるんだ。過去がどっか遠くにいっちゃうと見えなくなるのとも一緒!
ユーはもう、今日絶対UFOが落ちてくるって確信してる。
それで、秀才女子がすっげーウザかったんだよ。あんなのは教育機関と一緒に潰れてしまえって思ってて、ユーは本気でその未来を信じてるんだ。
もしユーの怒りがもうちょっとだけ小さくて、ユーの髪が綿あめ一個分ですんでたら、可愛い地声で唸って足元の砂をかけてたと思うよ。五リットルぐらいは。
ユーは山頂の天辺の一番高いところで両手を広げて待ってたんだ。
夜空は凄いぜ。霧吹きに星を詰めて吹きかけたみたいで! そうなるとわかるでしょ?
UFOが絶対来るはずなんだよ、そうなるとさあ。
もう昨日のお風呂を上がったぐらいから、ユーには何時何分ってところまではっきり見えてたからね。
そのUFOには宇宙人が乗ってて、ユーをいじめてた教育機関を破壊して、ユーを遠くに連れてってくれるんだってさ。
僕はUFOに乗ってユーを助けに行ってるんだ。この距離だったらモニターが何もかも映してくれるから、星がまるごと指先に乗ってるようなもんだ。あー、筒抜けってことね。
僕のUFOはユーのイメージの通りに強く光って、カクカク動くとユーに近づいた。でもそこまでだったんだ。
ユーの中にいた気まぐれな神様がふらりと飛び去ってしまうと、もう後はひどいさ。僕の乗ってるUFOはまるでユーから逃げ出すみたいにすごい勢いで遠ざかって、あっという間にもう宇宙だ。
ユーの怒りはとんでもなくって、僕の指先から星がなくなるまで――あ、見えなくなるまでってことだよ!――いつまでもうずくまって泣いてたさ。
僕もそれなりに悲しくて、でもどうしようもなかった。UFOは彗星の力で飛んでて、彗星からあんまり離れられなくって、だから次に僕が来るのは一年後なんだ。
ユーにはもう会えない。
教育機関の試験はまだ先だから、ユーが消されちゃうっていうことはないんだけど。
それでも、ユーにはもう会えない。
一年後に僕が着陸に成功して、ユーがふらりときまぐれを起こして、例えば山頂に僕とユーが同時にいたって、それってぜんぜん違うことなんだぜ!