9 妹
「サラガドゥーラ メチカブーラ ビビディバビディブー」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火の部屋にいる時は、およそ変なことを言わない日はない。
かてて加えて、突如として七が唄を口ずさむのも、またよくあること。それが聞いたことのあるものだったのは、少し驚いたが。
烈火は眺めていた漫画から顔をあげ、ポータブルゲームに興ずる七に声を向ける。
「なんだよ、魔法でもかけるのか?」
「まあ景気づけですよ。あたれー、あたれー、みたいな。命中率八十パーセントで外れるのは勘弁してほしいです」
ゲームのシステムにケチつけるなよゲーマー。そういう面倒な範囲内で遊ぶからゲームは楽しいんだろうに。
烈火は客観的に理屈を捏ねてみる。
「……まあ、成功率八割ってことは、十回やれば二回は失敗するってことじゃん。十面ダイス振ってみろよ、意外に外すもんだ」
「十面ダイスがありません。それにこのゲーム、確実に十回中の半分はミスってますよ」
「そりゃ体感の話だろ。それに、あー、確率の収束? そんな感じのあれだろ」
「むぅ」
なんぞまだまだ不満や言いたいことがある様子の七。
であったが。
――こんこん。
それを遮るノックの響き。次いで感情の薄い高めの声。
「お兄ちゃん、いる?」
「菊花か。なんだよ」
烈火には二つ年下の妹がいた。玖来 菊花、今扉の向こうにいる少女がそれである。
「お母さん今日帰らないって。お夕飯どうしよっか。あたし作る?」
「いいのか? だったら頼むけど……面倒ならおれ、外食するけど?」
「いいよ、いいよ。あたし作る」
「ん、ありがと――ていうか、お前なんでドア開けないの?」
ドア越しで話さんでもよかろうに。
顔の見えない菊花は、しかしきっときょとんとした顔で。
「え、だって今、神代さん来てるんだよね」
「来てるが」
「いますよ」
七ちゃんの声に、一瞬ドアからなにやら威圧が飛んで来た気がした。たぶん気のせい。
菊花はしぼんだ気配で言う。
「……じゃあ駄目だよ」
「なんだ、気を遣うってタイプでもなかろうに」
「いやそうじゃなくてさ、お兄ちゃんと神代さんがイチャついてるところとか目にしたら、あたしなにするかわかんないし」
「把握。賢明だ」
妹は兄が好きなブラコンでありました。
「外食なんてさせたらまたそこで神代さんとイチャつくんだろ? させねぇーよ」