7 運動は嫌い
「こっ、高校生の、たいっ、体育の授業の……必要性に、ついてっ」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
たまに彼氏の玖来 烈火が体育の授業中にすれ違った時は、体力次第で話しかけてくる。
主に不満を。主に不満を。
ぜぇぜぇ息を切らせて、死にそうな顔して文句を叫ぶ。
「ぜったい……いりませんよね、たいっ、体育とか……疲れるだけですよ」
「お前みたいに体たらくな体力なしにはいい運動だろうが」
逆に烈火は運動大得意で息のひとつも乱さない。
その丈夫な肉体が羨ましい。なんて眼光が飛んできたりもするが、甘んじて受け入れる。得意分野が明確に分かれているふたりなのである。
そろそろ七の荒れていた呼吸が整理される。不満と文句は一切整理されないで漏れ出るが。
「いやあんた、いやあんた。これで私がぶっ倒れたらどうすんですか。百歩譲っても適度な運動だったら適度にすべきでしょうが。なんですかマラソンって、馬鹿なんですか、マラソンって。うら若き、か弱き、手弱女な文系の私にはもはや拷問ですよ」
「この程度でか? 随分、気楽な拷問だな。隠したお菓子の場所すら吐かんぞ」
「え、お菓子隠したの玖来さんだったんですか? ちょっとどういう了見ですか、それは!」
「そもそもおれの部屋の菓子だろうが。それに、お前が運動しないから隠したんだぞ。太っても知らんぞ?」
「むっ」
女子に太るとか禁止ワードを躊躇いもなく発するとは。
彼氏だからって遠慮なさすぎじゃないですかね。起訴しますよ。
「でっ、では、今日こうして運動しましたし、玖来さん家に帰ったらお菓子をだしてもらいましょうか」
「……まあ、それでやる気がでるなら」
「ぅおし。がんばりますよっ」
安い奴で助かる。
「あー、でもご褒美が帰ったあとって言うのはちょっと遠いですね。なので今すぐ頑張るために元気のでること言ってください」
「……七ちゃんの体操服姿萌え」
「うぅ、こんなので割と元気でる自分が嫌です……」
本当に、安い奴で助かる烈火でありました。