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6 弁当






「重箱の隅をつつくといいますが、重箱の隅にこびり付くような食べ物は重箱に添えない気がします」


 神代 七が変なことを言うのは日常である。

 特に彼氏の玖来 烈火と学校の昼食休みの時に、席を向かい合わせで食事なんて状況なら間違いなく。

 烈火は七の作った弁当箱にご馳走様をしてから、眉を上げる。


「どういう意味だ? そもそも重箱の隅をつつくの語源がちょっとわからん」

「重箱は料理を詰める箱形のふた付き容器で、その四隅に残ったものを楊枝でつついて食べる意味から、重箱の隅をつつくと言うそうです」

「……ふむ」


 ちらと手元を見遣れば、七はスマホで辞書ひいていた。音読してやがった。

 話題作りに余念のない奴なのである。

 わざわざ辞書を調べてまで出してきた話題だ、乗ってやるべきだろう。


「で、語源的には重箱の隅に楊枝でつつかないととれないような物をいれてる前提だけど、普通はそこらへん気にしていれないだろ、って突っ込みか」

「そうです、そうです。弁当なんてすから、取りやすい食べやすいもののほうがいいと思います」


 確かに弁当とは外で食べるものだ。テーブルについてゆったりと、とはいかないこともあろう。ならば取りやすい食べやすい食べ物を詰めてあげるのは作る側からの当たり前の気遣いなのではないか。

 思い返せば、今日の弁当の内容もその通り。から揚げやオニギリなど、取りやすく食べやすかった。烈火への気遣いを感じた。

 感謝の念を抱きつつも、会話では肩を竦めた。そりゃ仕方ないだろと。


「まあ、ことわざってのは昔できたもんだからな、現代とはズレがあっても仕方ないだろ。昔はなんか楊枝でつついたほうが効率いい食べ物いれてたのかもしれんし、食べ物のカスとかありえるだろ」

「ま、ですね」

「あん?」


 自分から問題提起しといてこうもあっさり首肯した? なんか違和感あるな。

 自覚してか、七は続ける。


「で、それは前振りでして、本当は重箱から話を進展したかったんですよ」

「そうか。で、重箱がなんだよ」

「要するに、今度は重箱で弁当持ってきましょうかってことですよ」

「わけのわからん要するにだな」


 全然要約されてませんが。


「だって玖来さん、なんか物足りなさそうな顔してるじゃないですか」

「あー。量の話か」

「ですです」

「別に物足りないとは思ってないが……んー、なんか不満そうに見えたっていうなら」

「なら、なんですか?」


 無邪気に問う七に、烈火は少しだけ躊躇う。

 赤くなりそうな顔を手でさりげなく隠し、目線を逸らして、適当っぽく言う。


「こんなの食べたら、明日から購買行くの嫌だなぁって」

「…………」


 きっかり十秒硬直して、


「あっ、明日も作ってきます……」


 それだけ、七ちゃんはどうにか言えました。








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