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5 三択
「食事にしますか? お風呂にしますか? それとも私にしますか?」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火は教科書を仕舞う手を止めて、一端黙考する。天井を仰いで、手にある教科書の表紙を眺めて、口を開く。
「……とりあえず、七で」
「大胆ですね、玖来さん。少しは恥じらいとかないんですか、今学校ですよ?」
「お前が言うな、妖怪あっぴろげ」
最初に仕掛けてきたのはどっちだという。
七は明らかな齟齬にちょっと困った顔をする。割と珍しい反応である。
「いえ、普通に食事と言っていただければよかったんですが。今日はお弁当を作ってきましたので」
「え、マジで? そういうノリだったの?」
ごめん、七に恥じらいは物凄いあったわ。
弁当渡す際の恥じらいゆえの発言だったらしいわ。
烈火は一度深呼吸してから、頭を下げる。
「ごめんなさい。お弁当はいただきます」
「えへへ」
――お弁当は烈火がおいしくいただきました。