4 趣味は読書
「最近、なにか面白い本を読みましたか?」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
今回の発言のなにが変って、
「なんで七って性格服装外見ひっくるめて趣味読書が似合わないんだろうな」
「偏見甚だしいのですが、まあ否定はできませんね」
敬語の口調で発言がアレ。下ネタも結構やる。
今はセーラー服だがいつもはパーカー。
童女ボディに紫銀の長髪。
「えっ、えっ、え? この現代日本において薄紫色の髪した高校生? 漫画の住人?」
「今更ですね」
「まあ今更だな」
その程度で流せるくらいにはどうでもいい話である。
なので話題を戻す。
「で、どうです。なにか読みました? それとも私の最近のおすすめを聞きますか?」
「どうせわからんからパスで。おれは……あー、「走れメロス」読んだぞ」
「それさっきの国語の授業の題材ですよね」
「しっかり読んだぞ」
文字を読むのは苦手なんだが、流石に授業というので頑張った。
それに七が読書趣味だし、少しは近寄らないとな。彼氏として趣味の理解は深めてやるべきなのだ。
「そこは褒めてあげましょう、偉いですよ玖来さん」
「まあな」
「で、どうでしたメロスは」
「友達の感想を聞くみたいに尋ねるなよ」
思い返してみる。
メロスは激怒した。
王様暗殺未遂。
変な約束。
死に掛ける親友。
帰宅メロス。
リターンメロス。
走れメロス。
ハッピーエンドメロス。
「メロスの友達になったら磔刑なのかなぁ、って思うとちょっと抵抗感でるよな」
「いや、あれは王様が吹っかけた話ですから。性格の悪い陰湿な爺さんが元凶です」
「それで言うとやっぱ親友のセリヌンティウスはいいな。カッコいいし男前だし友情に篤いし。作中で一番だわ」
「私はやっぱりメロスですかね。あの熱い男具合は最近の漫画の主人公に見習ってもらいたいですよ」
ぱんぱんと七は自分の学生カバンを叩く。カバンの中には今日発売の週間少年ジャ○プが潜んでいる。
烈火は努めてその方向性には乗らない。なんで昔の小説の話から現代の漫画批判をせねばならんのだ。
「でもだいぶ我が侭じゃん? シスコンは今のニーズに合致してるけど、あの子供っぽさはどうだろう」
「そこも含めていいキャラですよ。あの短編内で成長が見えるじゃないですか、たぶん後日談を描いたら大分大人してますよ」
「うーん、どうだろ、いや、まあ、そうかもとは思えるな。完成したセリヌンティウスよりも成長感はある……って」
「どうしました玖来さん」
「いや、なんで授業終わったのに授業の話してんだ、おれたちは」
だったら現代漫画について話すべきだろ。なんで路線変更可能な時に変更しなかったんだ烈火は。
――なんて、理由はわかっているけれど。
「?」
七ちゃんが趣味で烈火と語り合える機会は少ない。烈火は活字が苦手だから。けれどやっぱり本について語る七は活き活きしてて、率直に申して可愛らしいのだ。
それを妨げるなんて、烈火にはできないのでありました。
「ちなみに玖来さんの髪は黒です」
「純然たる日本人だからなっ」