21 世界史1
「世界史でたまにカッコいい単語でてくると興奮しますよね」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火は世界史の教科書に向けていた目線を七に遣る。
「それはわかるな。今もなんかいい感じの単語ないか探してたわ」
「なにかいいのはありました?」
烈火は教科書をぺらぺらめくり、適当なページでストップ。
目を皿にしてざっと字面を観察。ひと単語挙げる。
「んー、そうだな。アウラングゼーブとか」
「なんです、それ」
「知らん。単語しか見てねぇから内容は見てない」
「全く意味ないですね、それ」
休み時間に教科書をパラ見して勤勉アピールかと思ったら、非常に無意味なことしてたよこいつ。
烈火は悪びれもせずに薄く笑う。
「は、勉強が授業中で精一杯やってんだろ。休み時間くらいは遊ばせろ」
「それはそうですけどね。では、他にはありますか?」
「ティグリス・ユーフラテス川。この並びがいいと思う。ティグリス川とユーフラテス川って言うと別にどうとも感じない不思議」
「それなら私は肥沃な三日月地帯のほうが好みですね。三日月が風流ですし、語感がいいと思います」
指で三角形を作る七。
ビーム出しそうな構えだな。気功ほ――うん。そんな感じ。
三日月なのに三角形作るのはアホの子っぽいけれど。
「けどお前、世界史に来てまで日本語オンリーな感じじゃつまらんだろ。世界史だったらやっぱ謎のカタカナにトキめくべきじゃね」
「だからこそ日本語オンリーが輝くと思います。少数の煌きですよ」
「マイナー好きは中二病の症例のひとつだぞ」
「うぐっ」
七にとって中二病とはダメージを負う単語なのである。
まあ。
「元中二病のくせに……」
「ぐはっ」
それは烈火も同じでありましたとさ。




