20 ヒロイン属性3
「ヤンデレって、どう思いますか玖来さん」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火は少しだけ額にしわを寄せる。困り顔だ。
「おれよく知らないんだよな、それ。暴力ヒロインと被ってる気はするけど」
「そうですか? どこがです」
「照れ隠しに暴力性を発揮するところとか」
「うーん? 似てる、でしょうか。なんか違うような気もしますが」
七は思案するように顎に指を置いて、上向く。
確かに暴力という一点は共通項だろう。だが、一点だけ共通項があれば似ていることになるのだろうか。
あ、いや、そもそも違うわ。七は思考を転換。
「ヤンデレというのは好きすぎて病むって感じが根幹です。暴力は二次的ですよ」
「じゃあツンデレと似てるな」
「そうなっちゃいますか……」
あちらを立てればこちらが立たず。いやまあもう、他の属性に似てるとかこの際どうでもいい。
究極的にはなんとかデレというのは誰かにデレる態度が基礎にあるから、共通点を含みやすいのだろう。そういう風に納得して話を進める。
「ですがツンデレは周囲の人を害したりはしません。基本的に主人公にしか攻撃的な態度はとりません。逆にヤンデレは障害排除に勤しむ気がします」
「主人公に包丁向けることもあるだろ。独占するとか言って。たまにカニバリズムまで混ざるらしい」
「怖いですね。男版のヤンデレとかいたら、それもう殺人鬼ですよね」
「美少女は殺人やっても可愛らしいのかもな」
美少女ってズルいわ。
来世は美少女になるべきかもしれない。いや、烈火は美少女を愛でる男でありたい。楽をするより、楽をさせてやる。そんな男に、烈火はなりたい。
心の中で格好つけてもあまり意味はない。七ちゃんには聞こえず、ゆえに無反応で続ける。
「でもそういう流血沙汰は目立つからヤンデレの最大特徴とされやすいですけど、実際のところそこはやっぱり延長線でしかないんです」
「どういうことだ?」
「別に包丁持たなくてもヤンデレと呼ばれるケースはあるってことです。元々が好き過ぎて病む、ですからね。病み方を暴力で発露するものばかり散見される、というか目立つかもしれませんが、それだけではないはずです」
そこで一度区切る。次に大事なことを言うからと、少し溜めを置く。
なんでうちの彼女は日々の駄弁りにこんな話法を持ち出してくるのだろうか。
「――そもそもですよ? そういう暴力、流血、猟奇的って、萌えますか?」
「いえ全く」
単語だけ並べられたらどこのバトル漫画か、精一杯がんばっても推理小説だと思うわ。
「ですよね。しかしヤンデレは萌え属性ですから、どこかに萌える要素があるべきで、それが本来の核でしょう。付随要素にばかり目をとられてはいけませんよ、玖来さん」
「なんで七ちゃんはヤンデレに関してこんなに熱く語れるんだろ、怖い」
「まあ、私も軽度のヤンデレかもしれませんからね、実地の前にちゃんと知識を身につけねばと学びました」
軽度なら可愛らしいものでしょう? と微笑む七だが、そういうのが小さな切っ掛けでドロドロしていくのではないだろうか。
危惧を抱き、烈火はどうにか方向性を修正することにした。ヤンデレはやめておこうと。
「まっ、まあでも。ヤンデレについてはあんまり考えなくていいだろ」
「えぇー、なんでですか? ツンデレよりは私にもできそうですが」
「できそうだからするとかじゃないだろうが。お前がヒロイン属性について話す時はだいたいおれの反応窺ってるんだろ? でもヤンデレはほら」
「?」
「企画もの除けばメインヒロインには据えづらい」
「あぁ、確かに」
ヤンデレは不幸の結末に陥りやすいからな。メインよりもサブでこそ輝くものだ。
「だからハッピーエンドを迎えるおれのメインヒロインである七には不要の属性だ」
ていうか、七が病んだら恐ろしいことこの上ないので是非とも回避したいです。
「とりあえずおれはお前にベタ惚れだからな? 浮気しないから周囲の奴らを排除する必要ないからな?」
「しませんよ、そんなこと」
「あと心中もやめろな。一緒にいるから、大丈夫だから。なんなら二人きりで山に篭るくらいならしてもいいから、心中はなしな」
「おや、それはなかなか興味深いお誘いですね」
二人きりで山篭り。
七はその発想をいずれ実行しようと大事に大事に胸に残しておくのでした。
「だからそこで検討しちゃうからヤンデレなんだって!」




