2 服
「玖来さんって、なんかいつも同じような服着てますよね」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火と一緒に登校している時は、会話の中にすぐに放り込んでくる。
まあ、今回は一見すればそこまで変な話題でもない。なにが変かと問えば、それは登校中にしたという点か。
烈火は一旦、自分の身に着けている服装を確認。ちゃんと規定通りだ。学ランだ。ついで七の服装を見遣りながら口を開く。
「そりゃ学校行く時ゃ学ランだろ。お前だってセーラー服だろ」
「そういう意味じゃないですよ、私服です私服」
「あぁ……」
確かに烈火はファッションとは縁遠い。雑誌なんかも目を通さない。周囲の誰それさんに目を遣らない。ユニ○ロは友達。
とはいえ、彼女の発言は流石に気にする。
「なんだよ、地味服ばっかの奴は嫌いか?」
だったら、まあ、少しは服装にも気を回すべきか。ユ○クロとは縁切りだ。
烈火は割と真面目にそう考えたが、七は苦笑。友達は大切にしなさいと。
「いえ、玖来さんはそのままでいてください」
「じゃあなんだよ、なんでその話題あげてきたんだ、お前」
「そりゃお前のほうだろうが――と、返礼が来ると想定した布石です」
「お前はよくわからん」
突っ込まれたいがために突っ込みどころを用意するとか、芸人かお前は。
烈火は軽く息を吐き出して、まあ言ってほしいなら言おうと舌を動かす。言ってやる。
「七ちゃんのほうが服装ワンパターンだろ」
「それが私の代名詞ですからっ」
あぁ、それが言いたかったのね。
言いたいことがある時、ちゃんと会話の流れで言いたがる七である。
唐突に思いついて叫ぶとか、そういう奇矯な真似はしない。面倒臭いとも言うけれど。
「で、代名詞がパーカーか」
「フード付きの、パーカーですね」
今でこそ登校中、セーラー服であるが、七ちゃんは基本的にフード付きパーカーしか着ないのである。
どんなポリシーがあるのだか。何の気に無しに烈火は流れで聞いてみる。
「なんでお前の代名詞になったんだ?」
「そりゃあ玖来さんが大好きな衣装だからですよ」
「…………」
なんでこの彼女は彼氏の好みを完璧に把握してますかね。
烈火は顔を隠すように手で覆い、小声でぼそりと呟いておく。
「ありがと」
「どういたしまして」
ばっちり聞き取る彼女の鏡な七ちゃんでありました。