18 裏目
「ついさっきあった出来事を赤裸々に語ってみせようかと思います」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火の部屋にいる時は、およそ変なことを言わない日はない。
お手洗いから帰って開口一番がそれである。というか、目を離した数分の内に語りたくなるようなエピソードが出来たの? なんて波乱万丈な人生なんですかね。
一応、興味を惹かれてみる。
「なんかあったのか」
「ええ、妹さんと遭遇しました」
「それは……」
なんかごめんなさい。
話を聞く前にあらかじめ謝っておきたくなったのは何故だろう。妹はたまによくわからないことを言って、よくわからないことをするからだろうか。
つつがなく七はついついさっきのことを話し始める。
「お手洗いを借りまして、洗面所もお借りして手を綺麗に洗いまして」
「はいはい」
「振り返ると気配もなく妹さんが立っていまして」
「いきなりホラーだな」
あいつも気配断つの上手いからな、七では気付けずにビビるだろう。
あ、でも洗面所なら鏡あったはずだろ。それですら気付かせないとは、うちの妹は実はアサッシーン?
「私は吃驚してしまって、わぁと声を上げそうになったんですけど、その瞬間に妹さんの手が伸びて口を塞いでしまいまして」
「なんかそのまま猿轡つっこまれて誘拐されそうなんだが」
「小さい手なのに口は完全に塞がれてしまいまして、このままでは窒息しそうになっていると小声で鼻で息をしろ。ゆっくりとだ。といつになく低い声音で言われまして」
「うちの妹、怖い」
烈火がそれをされたら普通に震える自信があるぞ。なんだってうちの妹は謎に強そうなんだ。
続きはどうなるんだ、これ。このままなら凶器とりだしそうだぞ、妹。
「妹さんはゆっくりと空いた手を懐に入れました」
「マジで凶器か」
「いえ、スマホを取り出して写メとられました」
「は?」
なんだそのオチ、拍子抜けだぞ。
いや、うちの妹が犯罪者にならなくて、かつ彼女が無事に生還したことを喜ぶべきなのか。
「相好を崩して安堵してますけどね、玖来さん。これ女子的には結構ダメージですよ。恐怖に引き攣った顔で、汗だらだらで泣きそうで――ってそんなの写真に残されたらと思うと戦慄しますよ」
「……うーん、うちの妹は一体なにがしたかったんだ?」
ぴろりろりん。
烈火の携帯にメールが届いたらしい。開くと妹からの添付メールだった。
「おやおやこれは」
「なんですか?」
「なんでもない。写真についてはおれが消すように言っておくから」
「お願いしますよ?」
勿論だ、こんな写真を見ていいのは烈火だけなのだから。
と、今届いた七ちゃん恐怖の相の写真を眺めて和む烈火なのであった。
「引き攣った顔も可愛い、だと……?」
妹さん的には不服な結果だったらしいです。