13 悪魔のような天使かな
「天使と悪魔ってどっちのほうが綺麗だと思います?」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火はまず発言に突っ込みどころがないかを精査し、次いで冗談めかした意地悪が含有されているか黙考。
それから遂に質問を文字通り受け取って、至って普通に返答する。
「…………そりゃ、天使じゃね? 悪魔って綺麗な印象あるか?」
「なんか間が長い……」
草食動物並みの警戒心に辟易しつつ、七は続ける。
「悪魔だって外見だけは人を堕落して騙くらかすために綺麗じゃないとおかしいでしょう。最近の美少女化の流れで、悪魔だけはなんとか納得できるってことですよ」
「それもそうか。まあ、悪魔は最近よりもずっと前から美少女化されてたんだろうけどな。それで言うなら天使もそうだろ。比較したらどっちって言えるか?」
「天使は、ほら、善人設定ですし、人間外見じゃありませんとか綺麗事言いそうじゃないですか」
「善人設定……綺麗事……お前は天使に恨みでもあんのか」
「特には」
ほんとかよ、言葉の端々に棘を感じるんだが。
それとも清廉潔白、純白純粋なんてあるわけねぇだろっていう中二心だろうか。
「で、外見じゃないとか言うくらいなら自分の外見も実はそんなによろしくないのではと邪推できますよね」
「……理屈の上だと悪魔のほうが綺麗っぽいってことか?」
「そうですよ」
どやぁ、と自説の正しさをアピールしてくる。
なにやらこの論についてやたらと烈火に是とされたいようだ。
烈火はしばし横目を逸らして、すぐに七に視線を定めなおす。
「……あぁ、お前、さては小悪魔タイプだよねとか誰かに言われたな?」
「ぎくっ」
メッチャわかりやすい反応だな。漫画の住人かよ。
「まあ、そんな心配すんな。七ちゃんが悪魔だろうと天使だろうと、たとえ神でも抱きしめてやるから」
「どこまでもクレバーにですか」
「いやぁ……それはちょっと保証しかねるかな」
抱きしめることは確約するから許せ。
七はそんな言葉ひとつで天にも昇るほど嬉しいのでした。