11 その話はやめよう。やめよう……
下ネタ? 注意。
「玖来さんの性癖ってロリとペドとあとなんですかね」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火は無言で瞑目し、両の瞼を指で押さえた。眼精疲労みたいな仕草だが、痛いのは頭である。あと心か。
「いや待て、待って頼むから、一旦落ち着こう。というか落ち着かせて」
お前が一番落ち着け。
などと月並みなことを言う七ではない。
あっさり無視ってばしばし肩を叩く。
「大丈夫ですよ、玖来さん。人間、秘めた性癖を五つほど持っているものですし。そのひとつが浮き彫りになったからといって、あなたの存在価値は些かも変わりませんよ」
「できれば一生埋もれていてほしかった……って、違うわ! おれはロリでもペドでもねぇんだよ! おれの隠れた五つの性癖はひとつ残らず隠れたまんまで天寿を全うすんだよ!」
それはそれで不健全だろう。童貞特有の潔癖である。
翻って処女の癖してあっぴろげな美少女が一名。
「ちなみに私の自覚している性癖はですね――」
「聞きたくない。マジで聞きたくないからやめて!」
「えー、でもいざ濡れ場となった段階で尋ねられても恥ずかしいじゃないですか。ここらでぱーっと勢いで語っておけば後々楽ですよ?」
「やめろー、やめてくれー!」
遂に烈火は膝を抱えて耳を塞ぎだす。
体操座りで教室の隅に座る勇気……。はいいとして。
全身で負のオーラを放つ烈火に、七はあたふたとしだす。こういう風にこじれるとは思わなかった。
「ごっ、ごめんなさい玖来さん。そこまで真剣に嫌がるとは思わず」
「へへ、どうせおれは童貞さ……下ネタひとつ小粋に返せないチェリー野郎だよ……」
「くっ、玖来さん、私だって処女ですよ? 一緒に階段のぼりましょうよ!」
「ドサクサに紛れて変なこと言わないでっ!」
って、うわ、しまった。ちょっと七と烈火、声量をあげすぎた。クラス中に轟いたよ、ふたりの発言。
即座に周囲の奴らから陰口が烈火に襲い掛かる。
「え、まだしてなかったの?」
「うそっ、絶対やってると思ったのに」
「玖来って実はEDなんじゃ……」
「イチャイチャしやがって! イチャイチャしやがって!」
襲い掛かる……掛かる……。
うん、聞きたくなかった。悲しくなってくる。
その悲哀を言語に変換する。必死で叫ぶ。
「お前らおれをなんだと思ってんだ! 不順異性交遊なんかしないぞ、紳士だぞ!」
「なにって……」
『ロリコン』
クラスがひとつになった。
かもしれない。
烈火は泣いた。
「いいんだ、いいんだ。七を好きになって好きと明言した段階でロリだのペドだの罵られるのは覚悟してた。そういう風評被害を受けても、おれは七を好きと言うと決めたんだ……」
「やだ、かっこいい……結婚しませんか?」
「……ちょっと早いから」
「ではエロいことをしましょう。コンドームなら私、常に用意してますよ!」
「ほんとマジやめて……心折れそう……」
そういうのは子供を養えるようになってから。
烈火も行為を予定には組み込んでいるようでした。