大丈夫だよ
本日投稿二話目です。
ようやく……! ライラとアシュレイの再会へ漕ぎつけました!まだ偽だけど……!!
生暖かく見守って下さる読者様、更新速度がバラバラなのに、いつもありがとうございます!
それでは、セイレーンをどうぞお楽しみくださいませ。
杭に括り付けられ、〈セイレーンの矢〉が行ってしまうと、女達は泣き叫んだ。
叫び声は嵐が吸い取って行った。
それでも女達は恐怖に泣き叫んだ。
ライラも、例外では無かった。
初めは毅然としていたが、一際高い波を頭から被るともう駄目だった。身体中を持って行きそうな波の引きに、恐れをなしてライラは泣き叫んだ。
誰か! 誰か―――!!
イヤだ。こんな恐ろしい死に方。真っ暗闇に引っ張られるなんて怖い。
まだ、やりたい事がある。それが何かは分からないけれど。
大きな事じゃない。
例えば、もっとダイアナとお喋りしたり、ふざけ合ったり、笑ったり―――。
アシュレイが教えてくれた、色々な色の海も見たい。こんな真っ黒な海しか知らないなんて、ああ、アシュレイ。私って可哀想だね。
コロコロ変わるモノなんて大嫌いだけど……。
青いという。
緑でもあるという。
光の加減や、深さや、質で、変わるのだという。
アンタの横でなら、見てやっても良い。
そうして、「綺麗だろ?」なんて呑気に笑う顔が見たいかも。
一緒に確かめに……。
ゴオンッ! と、雷鳴なのか、波の砕ける音なのか、轟音がして、海中のうねりが強くなる。辺りが光で真っ白になり、ライラのすぐ近くでうねる波の下に、何か大きな黒い影が動いた様な気がして、余りの恐ろしさに悲鳴を上げると、余計に気持ちが恐ろしさに引っ張られ、一線を越えて意識を失ってしまった。
*
真っ暗闇だった。
閉塞感が、胸を締め付ける。
身体がうねりに揺さぶられ、四方へ揺らめこうとするのだけれど、何かにきつく縛り付けられていてそれすら叶わない。
冷たく、身を任せる事の出来ないうねりの中で、ライラは虚ろな気持ちだった。
もう、歌えない。
喉の震える感覚を、二度と味わう事が出来ないと思うと、小さな子供の様に頼りない気持ちになって、泣いてしまいたかった。
大丈夫だよ、と頭を撫でてくれる暖かい手も、心を和らげてくれる優しい声も、きっともう別の世界へ行ってしまったのだろう。それとも、いや、確実に、自分の方がそこから跳ね除けられたのだろう、とライラは悲しく思った。
―――それにしても、長い。死ぬって、冷たくて長いの?
―――寒い。
カナロールへの道中、ラルフの上で捕まっていたアシュレイの背中を思い出す。
―――あったかかったな……。
―――アシュレイ、あれから大丈夫だったかな。アイツの事だから、意外とケロッとしてたりして。本当に、何処までも得体の知れないヤツなんだから。
のほほんと笑む彼の顔を思い浮かべると、少し寒さが和らいだ。
何かの一線を越えてたまに覗かせる、別人の様な彼を思い返すと、胸が熱くなった。
―――へぇ、一晩?
―――ハミエルを封魔してみよう。
―――もう、いい。
―――ソッポ向いて、僕を侮辱するな。
アシュレイ……。
可笑しな話かもしれないケド、あたしは、アンタの怖い顔が好き。
呑気な笑顔の後ろに隠してるやつだよ。
ソッチも、まぁ、慣れたって言うか、嫌いじゃないケドね。
―――僕にちょうだい。君より君を、大事にするから。
真っ暗闇の中で、視界がぼやけた。
寒さの中、頬に一筋の温かさが伝った。
あの言葉は、どっちが言ったのかな。
ああ、変なの。
アンタに会いたい。
怖いよ。大丈夫って、言って。
*
誰かに呼ばれた様な気がして、ライラはボンヤリした意識を取り戻す。誰かが頬を叩いている。その刺激を受けると急激に身体が寒くなって、彼女は目を開けた。
『しっかりしろ』
とても聴きたいと思っていた声だった。アシュレイの声だ。
霞む視界に、濃い茶色の瞳が見えた。
「アシュレイ……」
『助けに来た』
「アシュレイ!!」
ライラは自由になった両腕で彼に抱き着いた。なんかちょっと想像より肩幅が広くて、触れた身体から感じる逞しさにドキリとした。
こんなところまで、来てくれた!!
「アシュレイ!」
『元気いいな』
「あた、あたし……会いたかった……!!」
『そうか?』
「うん……!」
安堵感でいっぱいで、それがライラを素直にさせた。
ライラは彼にギュッと抱き着いて、首筋に頬を寄せた。
「アシュレイ……」
涙ぐんで彼の顔を見れば、助けに来てくれた男らしく、引き締まって見えて、ライラの鼓動が高まった。
いつの間にか小さな姿になって(ライラに自分とわからせる為だろう)ハミエルも飛んで来た。
「ハミエル!」
『ライラ、おそくなって、ごめん』
「ハミエル……やっぱり、妖魔だったんだ」
飛んでいるところを見せてしまっては、もうハミエルはしらばっくれる事なんて出来ない。妖魔と知られて怖がられたら悲しいけれど、今はそんな事を言っている場合では無かったので、ハミエルは『うん』と小さく答えた。
レイリンに猫派と言われたし、ライラにも嫌われてしまうのでは、とハミエルは胸を冷たくさせたが、ライラはニッコリ微笑んで彼を近くに手招きし、頭を撫でてくれた。なので、ハミエルも尾を振って彼女の頬を舐めた。
『良かったな、ハミエル!』
『おまえのおかげだ。ありがとう』
あらあら……アシュレイってば、ハミエルとも仲良くなっちゃって……。ハミエルは滅多に人に懐かないのに……。
―――こんな時だからかな、アシュレイが素敵に見える……。アタバもえくぼってやつ?
残念ながら、それはレイリンの恋の魔法の残りカスの影響だったが、シュチュエーションにメロメロなライラは気付かない。必要以上に素直になって、彼の頬に口づけをすると、再びギュッと首に齧りついた。
『……おい、まぁいいか。行くぞ』
「うん……」
ライラがついさっき自覚した、彼女の好きな「怖い」時のアシュレイっぽくて、余計にドキドキする。大参事だ。
「ちょっと待ったーーーーーー!!」
「!?」
さぁ行くか。うん♡ と、なっているところへ、奇声が響いた。
見れば、ヘンテコなもぐらみたいな生き物に捕まって、ヘンテコな男が半ば溺れつつもこちらへ向かって来ているのが見えた。
『なんだアイツ?』
「……やだ、アシュレイ! アレ妖魔じゃない?」
『ころそうか』
ライラには、もぐらみたいなののと、変な男が合体して出来た奇妙な妖魔に見えた。
でも大丈夫だ。ライラのアシュレイは封魔師なのだ!
やっちゃえアシュレイ! などと思っていると、雷が鳴って一瞬ソイツの姿が良く見えた。
「!?」
ライラは目を擦る。
だって、もぐらの妖魔が一瞬見慣れた男に見えたのだ。
「ライラーーっ! ガボッ! 騙されるな! ソイツは僕の偽物だぁあぁぁ……ガボガボ……!!」
『きゅーーーっ!』
「うわわ……う、渦が!? 避けろ! 避けろキューちゃん!!」
『きゅ、きゅー……(アカン無理)』
「うわーっ!? 助けてライラーっ!!」
丁度、ライラ達とソイツの間に小さな渦潮が出来て、ソイツはそれに呑まれてクルクル回っている。
「……」
待って。イヤ。アレって……?
ライラはアシュレイに回した腕を、ゆるゆると解きながら、向き合いたくない現実を見つめた。
もぐらにしがみ付かれて、死にそうな顔で犬かきをしてこちらへ向かって来る男と、自分を抱いている男を見比べる。
……コッチが良い……。
ダントツで今自分を抱いているアシュレイが良い。
けれど……。
「……」
『ハミエル、お前の知り合いじゃねえの?』
『しらない』
『行くか』
『おう』
「……っ! 待って! ハミエル! この人誰なの!? アイツを助けて!」
ハミエルは面白く無さそうな顔をした。
「ハミエル!」
『あいつ、おれをくさりでしばった!』
「そうだけど……」
『おい、もう行くぞ。オレは濡れるの嫌いなんだ』
「もういい!」
ライラは泳いだ事も無いし、相変わらず荒れ狂う海は怖かったけれど、偽アシュレイの元からそちらへ飛び出した。
『ライラ!』
必死で犬かきをして来る変な方のアシュレイは、直ぐそこだ。
ライラも彼に負けない程出鱈目に泳いで、近づくと、取りあえず彼の頭に引っ付いているもぐらを引っぺがした。
「ライラ!」
「なにやってんのよ!」
「ちょ、ちょっと待って。おい、泳いでよ!」
『きゅ~』
もぐらは辛うじて浮いてくれて(どうやら渦にビックリしてしまったらしかった)、ライラもアシュレイも、もぐらにしがみ付いた。
アシュレイが波を浴びながら、ようやくライラに笑った。
「ライラ! 助けに来たよ!」
ライラも半ば溺れかけながら、「どこがよ!」と声を上げた。
「今からだよ」とアシュレイが言って、ライラの身体を引き寄せた。彼の身体は冷え切っていて、ちっとも暖かく無かったけれど、ライラは彼のしたい様にさせてあげた。
「もう大丈夫だよ」
「どこが大丈夫なんだかっ」
ライラは渋面を作って、彼の首に腕を回す。そうすると、どんな荒波にもまれても、大丈夫な気がした。
*
もう、本当にバカなんだから。
なんなの?
どうしてアンタって、こんなにも王子サマじゃないワケ?
何もかも撤回なんだから!!
もぐらと言うよりかは、カワウソ的なイメージです。
何故もぐらなのかと言うと、世界観的にカワウソはメジャーではないかな、と、思ったからです。
もぐらは……たくさんいます。




