カインの歯車⑤
今日は家で勉強しない? とリリスが提案したので、カインはメルテルが厭だったがそうする事にした。
学校に戻る気になれなかったし、自分の家に帰って両親を心配させるのも、言い訳をするのも面倒だった。それにカインは「クー」と呼ばれていた生き物を良く見てみたかった。
多分あれは封魔した妖魔で、それも、図鑑では見た事が無い珍しい妖魔だと思ったのだ。
「クーを、見ていいか?」
「クーを? ええ、どうぞ」
リリスに招き入れられて、カインが建物の中に入ると、メルテルが瞳を燃やして仁王立ちしていた。
カインは、やっぱり帰ろうと思った。
「父さん、何してるの? 邪魔よ」
「いや、サキュバスをウチに入れる訳にはいかないよ、リリス」
リリスは腕組みをして、ふんと父を鼻で笑って見せた。
「サキュバスは色魔でしょ、だったらもうウチに一人います」
「と、父さんはそんなんじゃない! 父さんは純情派だよ、リリス!」
「嘘! この前パン屋のおネェさんにデレデレしてたクセに!」
「あ、あれはだって……」
パン屋のおネェさんは、とてもグラマーで美人なのだ。おまけに愛想の良い人で、近隣の家庭では主婦がパンを買いに行くのは珍しい事になっている。お父さんやお兄さんがお使いを嬉々として受けるからだった。
でも大丈夫。このおネェさんは、パン屋の竈番の青年にゾッコンなのだ。竈番の青年はというと、自分に自信が無くて、ちっとも彼女の想いに気付いていないのだけれど。
リリスはツンとして、
「だってじゃありません。それに、カインは女の子に興味ありませんから!」
……え!?
「ね? カイン?」
微笑みながら同意を求められて、カインは彼らしくなくマゴマゴした。
そんな事無いのに、そんな事無いと言うのは、なんだかダメな気がする。
特に今は身の危険を感じる。
「いっぱい女の子にモテてるのに、ちっとも相手にしないものね」
「……」
モテて……? モテてないぞ、別に……。
戸惑いつつも、リリスの笑顔につられて仕方なく頷くと、メルテルと目が合った。
彼の表情は和らいでおり、しかし少しだけ気まずそうだった。
「……そ、そうか。カイン君……そうだったのか。いや、大丈夫。僕は偏見なんかないからね! リリスも、そんな事あまり大きな声で公にするもんじゃないぞ」
「だって、隠す事じゃないでしょ?」
「いや、それはカイン君の判断に任せてあげなきゃ。あ、大丈夫だよカイン君、僕は言いふらしたりしないからね!」
「……? ……ありがとうございます」
なんだぁ、そうかそうか、と言って、メルテルはいそいそとカインを家に迎え入れてくれた。
入るとカインの両親が言っていた通り、呪い屋の店になっており、壁は一面の棚で、そこには薬や色とりどりの薬草の詰められた瓶や、護符、それにこの付近の住人たちの気に入りそうな雑貨なんかも並べてあった。背の低い棚で仕切られた向こう側には、背もたれの無いやや長めの質素なソファーが置いてある。多分、歩いて来られる程度の病人や怪我人に対し、ここで診察めいた事をするのだろう、とカインは推測した。見上げればドライフラワーの様な(というか、そうなのだろう)枯色の植物たちが束にされ天井一面にぶら下がっている。
どれも物珍しく、独特の雰囲気だ。入り口を正面にして商い屋らしくカウンターがあり、カウンターの前には椅子が二つ。カウンターの向こうには大きな竈。その脇のアーチ形のドアの無い入り口にはビーズの暖簾がさらさらと掛かっていた。ビーズの石は小指の爪程の大きさで、緑と白と、微かな黒の斑模様をしており、やはり何か呪術めいた雰囲気を醸し出している。
ここは土間玄関だったんだけどね、自分でこういう風に造ってみたんだ、とメルテルが得意げに言って、リリスが「はいはい」と言ってカインをカウンターの向こう側へ案内してくれる。
てっきりこのカウンターで、自分の視界に入って勉強するのだと思っていたメルテルは、またしても興奮しだした。
「へ、部屋へ上げるのか、リリス?」
「? そうよ」
「ひにゃぁ、だ、駄目だ、部屋は駄目だ。いくら男にしか興味が無いって言ったって、カイン君には凶器がついてるんだリリス! 父さんいつも言ってるだろ? リリス、お前は可愛いんだ! 可愛すぎるんだ! カイン君が性癖の壁をぶち破ってしまうかもしれない!!」
カインはメルテルが何を言っているのか半分も分からなかったが、大分不名誉な評価を受けている事だけはハッキリと分かって、ちょっとイラッとした。
男にしか興味が無いってなんだ? いつそんな話に? 分からない。学園長が全く分からない……。
「ちょっと、友達の前で『ひにゃぁ』って言わないでよ、恥ずかしい!」
そこなのか、リリス。俺はそこじゃないと思う。
「ごめん、出ちゃうんだよ……。
とにかく、カイン君! うちの娘の部屋に入りたかったら去勢してからにしてくれるかな! 妖精しか入れないんだよ! リリスの部屋は!」
「父さんが去勢すれば!? どうせもう使わないでしょ!」
「そ、そんなのワカラナイジャン……」
メルテルは途端に勢いを無くしてしゅんとした。
本当にこの人がメルテル・ババクなんだろうか? と疑わしく思いながら、カインはカウンターにポンと鞄を乗せた。
一刻も早くなんだか変なこの流れを変えなくてはならなかった。
「あの……、ここで。学園長も一緒に、勉強を見て頂けますか?」
パッとメルテルの表情が輝いた。
「もちろんだよ! カイン君、キミとってもいい子だ!! おじさんに何でも聞いてごらん!?」
変なおじさんだな、とカインは思ったが、曖昧に微笑んで頷いておいた。
*
メルテルは世間で名の通っていた封魔師らしく、自主勉強をするカインとリリスの質問や疑問にはきちんと答えてくれた。
メルテルは、聞かれた事にだけ答え、後はカイン達に余計な世話を焼かずに、竈に掛けた大鍋を掻き回したり、色鮮やかな草をすり潰したりして二人の傍で過ごした。
昼が来て、お昼も食べて行きなさいと誘われ有難くその誘いを受けて一息つくと、カインは「そう言えば、クーを見せてもらってないな」と、思い出した。メルテルが家に入る時に騒ぐから忘れてしまっていたのだ。本当に迷惑なオヤジである。
「クーは何してるんだ?」
「あ、そういえば……カイン、クーを見たかったのよね。いつもなら私の傍にいるのに……」
リリスが尋ねる様に父に首を傾げると、メルテルはちょっと目線を泳がせた。
「アイツはキッチンでお仕置き中だ」
「……! 父さん、またクーを虐待したわね!?」
「アイツは使い魔のクセに、僕のいう事を全然聞かないからね!」
可哀想に、クーは鼻先にメルテルの靴下を縛り付けられて、白目を剥いてキッチンで痙攣していた。鼻が利く妖魔らしかった。
「クー! 父さん何て事するの!? 死んでしまうわ!」
「靴下の刑じゃ死なないよ!」
「私だったら死ぬわ!」
ああ、クー、大丈夫? と、リリスが汚らわしい靴下を取って、クーの大きな頭を膝に抱えると、クーは遠い目をしながらゲロリと吐いた。相当だった様だ。
「カインごめんね。今日はクーは駄目だわ」
「ああ……大丈夫なのか?」
「わからない……ちょっと、外の空気を吸わせて来る」
リリスがヨロヨロするクーを支えながら外へ出て行くので、カインも付いて行こうとすると、メルテルがそれを阻む様に
「カイン君は、昼飯の準備手伝ってくれ」
と頼んで来たので仕方なくキッチンへお邪魔する。もちろんこれはメルテルの『二人っきりにさせない作戦』である。
手伝いと言っても、カインは家事などした事が無かったので、簡単な料理を始めたメルテルの後ろで、指示された通りにテーブルを拭いたり食器を並べたりした。
その間に、「本当に女の子に興味ないんだろうね?」とかネチネチ聞かれたので、面倒臭かった。
「それ程興味はありませんが、男にはもっと無いです」
と答えると、メルテルはスープを掻き混ぜていたお玉を手に持ちながら頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「やっぱりあるんじゃないか!!」
「いえ、普通ですよね」
「台所まで上がり込んで来おって……今すぐ去勢してやる」
「……お断りします」
「使う気満々か……末恐ろしい」
カインと包丁を持ったメルテルは、木のダイニングテーブルを間にジリジリと無言でぐるぐる回った。
「逃げるんじゃない」
「……俺は、リリスを大事にします」
「は、な、何だって?」
「学園長からリリスを奪ったりしません。ただ、同じように傍で大事にしたいと思います」
カインにしては珍しく感情を込めて言ったのだが、メルテルは薄ら寒い笑顔を浮かべた。
「カイン君、本当のタマも取られたい様だね」
駄目だったか……。
どうすれば良いんだ。リリス早く戻って来てくれ。
「僕が手塩にかけて育てた奇跡の妖精を、僕と同じ立ち位置で愛でられると思っているその鼻っ柱をギッタンギッタンにしたい! なんだその邪悪なカッコ良さは!」
イケメンなんか死ねぇぇ! とテーブルに乗り上げて飛び掛かって来るメルテルに、「俺もう死ぬのかな」と死を予感したカインだったが、宙に飛び上がったオッサンの身体を、横から真っ白の毛むくじゃらが体当たりをして床に叩きつけてくれたので、カインは死を免れた。
助かった、と思ってキッチンの入り口を見ると、リリスと、見覚えのある男の子が入って来るところだった。
「父さん、いい加減にして! カイン大丈夫?」
駆け寄って来るリリスに頷き返しながら、カインは一緒にやって来た男の子に釘付けだった。
その子はのほほんと笑って
「師匠~、何やってるんですか」
と言うと、倒れ込んだメルテルの傍へ行き助け起こそうとしている。茶色い髪に、茶色い目。とても平凡な男の子だけれど、忘れようも無い、あの開封式で大騒ぎを起こしたあの男の子だった。
……師匠?
「アシュレイ……また学校サボって来たのか?」
「だってあの学校厭なんです。僕には合わないや」
「またロスタムに怒られるぞ」
「いつも怒っているので、大丈夫です。早く僕をファラフナーズへ入れて下さい」
カインは訳が分からず、リリスを見る。
「知り合いなのか?」
「ええ。貴方も覚えてない? 開封式で」
リリスがそう言うので、カインは頷いた。その間にも、男の子とメルテルは何やら言い合っている。そうしながらも、男の子は慣れた様子でキッチンの道具を扱って、手際よく料理を始めていた。どうやらここに来るのは初めてでは無く、頻繁に出入りしている様子が見て取れた。
「でも、どういう?」
「アシュレイはパデデフに通っているのだけれど、パデデフでは一年生から実技をしているんですって。でも、『剣』の先生がいないらしいの」
「『剣』……」
腰の印……。
「父さんの印も『剣』でね」
「そうなのか」
カインはそれにも驚いて、オッサンと子供を見る。
「ええ。だから父さんの弟子になりたいって。でも、この通り父さんほとんど学校のお仕事投げ出して名ばかりでしょ? なのに……。しかも折角名門にいるのに、やたらとファラフナーズへ入りたがるのよ」
「最初から入れば良かったんじゃないか」
「彼のお父様を知っているでしょ? パデデフを仕切ってる人の息子がパデデフに入学しないなんておかしいじゃない」
「……」
リリスはそっとカインに耳打ちする。
「でもね、多分アシュレイは自分の父さんを好きじゃ無いのよ。私の父さんを師匠にしたいのも『剣』だからじゃないわ」
「……? どういう?」
「嫌がらせさ」
と、メルテルがカインとリリスの間に文字通りグイグイ割って入って来た。
男の子―――アシュレイが「え~? えへへ」と笑って、ニコニコしている。
「僕とロスタムは仲が悪いんだよ」
「……そう、なんですか」
思っても見なかった情報に、カインは興味をそそられる。メルテルはというと、苦虫を噛み潰した表情だ。
「この悪ガキは最近それを知ってね。ロスタムへの嫌がらせにファラフナーズへ入校しようとしているんだよ! 素性を隠して僕に近付いて来たんだ! ロスタムの養子って知ってたら関わらなかったのに!」
「人聞きの悪い! 僕は兄の薬を探して、国で一番腕の良い貴方を頼っただけじゃないですか!」
「その時にやけに熱心に薬について興味を示すから、つい嬉しくて色々語っちゃって心を開いちゃったけど、真実を知った今既に門は閉ざされているぞ少年! 帰りたまえ。二度と来るな」
酷いなぁ、とアシュレイは大して動じた様子もなく、更にスープをよそったりといそいそと忙しく動いている。
「コラ、お前の分は無い!四人分よそうんじゃない!」
「いいじゃないですか。ほらほら~。師匠の好きなクジラ肉持って来たんですよ~」
アシュレイはそう言うと、ズボンのお腹へズボッと手を入れて、一塊の包みを取り出した。
「お前、どこに入れてるの!? 肉が腐る!!」
「揚げてあるから大丈夫です」
「揚げたの!? 煮たかった……」
「生は流石に持って来れませんでした。師匠に会えるか分からないし」
「むぅ……いいだろう。食べたら帰るんだよ」
「イヤイヤイヤ~、ツレないッスネ~」
アシュレイはニコニコしながら包みを開けて、大皿にクジラの唐揚げを並べると、リリスがその横に黒い塊を並べた。
「あれ、リリスまた焦がしたの?」
「焦げてないわよ?」
リリスが朝焼いたと言うパンは、実直に言うと焦げていた。でも、コゲを剥いて食べる類のパンなんだとリリスは言い張った。「はいはい」と笑うアシュレイに食って掛かるリリスを見て、カインはちょっとつまらなかった。急に現れたクセに、リリス親子の家族みたいな顔をしている様に思えたからだ。
リリスに紹介をされると、アシュレイは柔和そうな表情のまま、目だけでカインを値踏みする様に見た。カインがそうと感じ取る直前でサッと笑顔を顔に張り付けて「よろしく」と言うと、手を差し出して握手なんてして見せる。
「カインもファラフナーズ校なの? いいなぁ。今日は休み……じゃないよね?」
テーブルに一番に座りながら、アシュレイがリリスを見る。
「うん……。まぁ。私達早退して来たの」
リリスが濁して言うと、大して興味が無いのか「ふうん」と言って、コゲパンのコゲをちくちく取り始めた。
彼は何故だかチラッとメルテルを悪戯そうに見て、
「カインって凄くカッコいいね」
と言い出した。メルテルがピクッと身じろぎして、アシュレイを見る。リリスは不穏な空気を全く感じていないのか、うふふと微笑んだ。
「でしょう? 学校でもモテモテなのよ」
「イヤ……」
「だろうね! 男の僕でも見惚れちゃうよ!!」
殊更大袈裟に言って、アシュレイはカインを褒め称えた。
メルテルが唇を突き出してムスッとしているのに気付いている様子なのに、やたらと煽るではないか。彼のここでのこなれた様子からして、メルテルの性質を知っていない訳がなさそうなのに、どうもおかしいぞ、とカインは警戒した。
「イヤ、大した事無い」
とカインがアシュレイを止めたのに、リリスが
「成績もクラスでトップなのよ」と朗らかに言うので、カインは初めて彼女の空気を読まない性格を呪った。
「へぇ、凄いなぁ!! カッコいいなぁ! どんな女の子もメロメロだね!! ね? 師匠?」
「べ、べっつにぃ? どんな女の子もってワケにはいかないんじゃないかなっ!? 人には好みがあるしさ!!」
プルプル震えてムキになるメルテルがプイッと顔をそっぽ向けた一瞬、アシュレイが物凄く悪い顔で舌なめずりをした様に見えて、カインは驚いて瞬きをした。
「いやぁ、リリスだってカッコいいって思ってるんでしょ?」
「ええ、とってもカッコいいと思うわ」
リリス、止めてくれ。どうしてか分からないが、コイツは俺を罠にハメようとしている。完全に何かをキメようとしている!
カインはもう食事どころでは無かった。アシュレイと空気の読めないリリスだけが、キャッキャッと楽しそうに口に食べ物を運んでいる。
カインとメルテルは、それぞれ別の雪山で吹雪に合っている状態だった。
アシュレイがとうとう邪気の無い笑顔で、全邪気をぶち込んで来た。
「リリスも可愛いし、二人はとってもお似合いだね☆」
ダイニングで、一瞬ピタリと間があった。
アシュレイはスプーンを咥えて椅子の背もたれに悠々ともたれ、とぼけた様子で皆の顔を眺めている。
リリスが不思議そうに小首を傾げて、時が再び動き出す。
「え? 何言ってるのアシュレイ?」
「え? なになに? 付き合ったりしてないの?」
テーブルに乗り出すアシュレイのデコを、リリスが軽く叩いた。
「馬鹿ね。そんなんじゃ無いわ」
「え~、すっごくお似合いだよ! 付き合っちゃえよ、ひゅーひゅー」
「もうっ、アシュレイったら相変わらず面白いわね!」
バアン! と激しくテーブルが揺れた。メルテルがテーブルに両手を打ち付けて、中腰になっている。遅れて、彼の座っていた椅子が後ろに倒れて虚しい音を立てた。
「『ひゅーひゅー』じゃ・なーーーーーーーい!!」
「し、師匠!? どうしたんデスカ!?」
アシュレイは驚いて見せている。とても白々しいのだが、錯乱状態のメルテルには見抜かれていない様子だった。
「僕は二人を認めない認め◆〇☆□×◎▽~!!」
「な、何だってぇ~!? 師匠は二人を認めていないんですか!?……っく、そうとは知らず、すみませんでした! 大丈夫です師匠!! 僕をファラフナーズ校へ入れて下さい! 卒業までしっかりと二人の邪魔をしますから!!」
パッとメルテルが、涙で汚れた顔を上げた。
「ア、アシュレイ君……」
呼び捨てにされていたハズのアシュレイ君は、メルテルに力強く頷いた。
「大丈夫です師匠! 僕もイケメンは絶滅すればいいと思っています! イケメンだけかかる疫病とか流行ればいいのに! 僕達は仲間なんです!」
あんまりではないか、とカインは思ったが、どうやらアシュレイの矛先が自分ではない様だったので、少しだけホッと胸を撫で下ろした。
「ア、アシュレイくぅ~ん……」
「よ~しよし、辛かったですね。たった一人で……。………ファラフナーズへ、入れて頂けますね?」
「……考えておく……というか、手配しとく」
にっやぁ~、とアシュレイが笑って、カインに両目をバチンと閉じて見せた。後日、あれは片目だけを瞑れない彼なりのウインクだという事が判明したが、かなりどうでも良かった。
「でも、父さんが反対するんじゃないの? どうやって学校をやめるの?」
カインと違って、アシュレイを歓迎する気満々のリリスが聞いた。
アシュレイは朗らかに微笑んで言った。
「退学しろって言われれば良いんでしょ? それに、ロスタムの弱みを握ってるんだ。使い捨てのネタだけどね」
どうやら、後はファラフナーズ校の入学許可だけが必要だったらしい。
そうしてアシュレイは、まんまとファラフナーズ校へと転校して来たのだった。学年が上る区切りのいい時期とかを一切考えずに、即座に転校して来たので、カインは驚いた。同時に、メルテルのリリスへの執着の強さにウンザリしたのだった。
* * * * * * *
本当に、今思い出しても非常に疲れる思い出だ。
カインは溜め息を吐いて、黙々と街を歩いた。
家に帰ったら酒でも煽って寝てしまおう。
二日後には、厭な仕事が待っている。
しかしそれは、自分の目指す未来を背負った仕事だ。
歌子のフリを強情に貫いた娘の顔を思い出し、自分に向けられた怒りや憎しみの表情を心から締め出した。それから、リリスの悲しそうな顔も、頭を振って掻き消した。
俺がモテる? 呆れてしまう。
優しくしようとすればする程、スルリと滑り落ちて行くじゃないか。
ふと、記憶の中の少年ののほほんとした笑顔が脳裏を過ぎった。
カインにとって、憎らしいだけの笑顔だ。
でも、ついつい聞きたくなってしまう。
なぁ、お前なら、どうする?
過去編が長引いて申し訳ありませんでした。
この三人+変なおじさんはまた出て来ますが、その時はまたよろしくお願い致します!!
さて、ようやく次はヒロインが出せそうで嬉しいです。次回もよろしくお願い致します!!




