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3 これが姉の通常運転(龍弥視点)

本日3話同時投稿です。

 俺の姉ちゃんは変だ。


 学校の成績は悪くないし顔だって可愛いと思う。一人にするとよくナンパに捕まるし、学校の連中は姉ちゃんに会うとみんなデレデレする。

 でも補って余りあるくらいに変だ。


「ただいまー」

「お帰りなさ~い!」

 玄関で声をかけると、台所から声が返ってくる。

 いつもは玄関まで迎えに来てくれるのに(主に肉を)今日は出てくる気配はない。


 台所を覗くと案の定というか何というか大変な事になっていた。

「……姉ちゃん、何してんの?」


「見てわかるでしょ? イカ怪獣さんと格闘中です!」

 姉は何故かイカの足に絡みつかれていた。


「一方的に負けてるよ!? ほとんど巻きつかれてるじゃんかっ」

 慌てて姉からイカ怪獣の足を引き剥がす。足一本が三メートル近くある。

 見た目は大王イカと大差ない。違うのは奴が地上を十本の足を駆使して歩行出来ることと、姉ちゃん好みの美味い肉ってとこだ。


「ふう。おかしいなぁ……、足一本だけなのに何故巻きついてくるのかな?

 トカゲのしっぽと同じ原理かねぇ?」

 などと言って、呑気に首を傾げている。


 いや、今結構危なかったと思うんだけど。ここは俺が叱るべきなの?


「このイカ怪獣どうしたんだよ」

 まあ大体想像はついているけど、一応聞いてみる。


「石崎先輩が届けてくれたんだよ、おじいちゃんからだって」


 ――じいちゃんは今出張中だ。沖縄でヒトデ怪獣の掃討作戦を決行している。

 沿岸部のイカ怪獣の討伐は剣十さんの担当だった。

 最近俺が無視ばっかりしてるから、じいちゃんが剣十さんを通じて姉ちゃんと連絡を取っているのは知っていた。だからじいちゃんの指示ってことも可能性としては、ある。


 でもきっと違うよなぁ……。

 何で自分からだって言わないんだろ、剣十さん。姉ちゃん鈍いから、察したりとかする機能付いてないんだけど。


「今度はもっと細かくしてくれる様に、剣十さんに頼んでおく」

 まさかイカの足一本渡したら、それに絡みつかれるなんて面白現象は想像してないだろう。

 俺とじいちゃんは知ってるけど。クラゲ怪獣の肉がバケツに一杯あれば、姉ちゃんは溺れられるんだ。

 姉ちゃんに怪獣の肉を渡す時は安全なサイズに! これ、我が家の暗黙のルールだ。


 姉ちゃんは獣系に異常に好かれる。

 怪獣の足にも絡みつかれてたが、猫や犬も寄ってくる。動物園とかは見やすくて良い。

 この辺りに引っ越してきた当初は、地域の動物達の姉ちゃん(もう)でが凄かった。一通り確認の御参りが終わって今は落ち着いている。毎日訪ねてくる信心深い(?)タヌキとかも居るけど。


「ちょっと遅くなっちゃったけど、家庭菜園の君から貰ったジャガイモが沢山あるから、今日はイカとジャガイモの煮物だよ!」

「ジャガイモ、袋一杯あるな……」

「うん! 新じゃが一緒に収穫したから」


 十七歳にもなってジャガイモ一袋でその笑顔……。

 いつの間に一緒に収穫なんてしてたんだ。


『家庭菜園の君』ってあだ名のセンスはどうかと思うけど、姉ちゃんはそいつに結構懐いている。一度は顔を拝んでおきたいと思うのに、俺が行くといつもタイミングが合わない。

 ほんとに居るのかそんな奴って感じだが、畑はあるし野菜は美味い。

 でもはっきり言ってかなり胡散臭い。


 姉ちゃんは食べ物にとことん弱い。

 怪獣の肉も、野菜も、調味料だって喜んで受け取る。タダより高い物はないってことわざ、姉ちゃんの辞書には載ってないんだろう。載ってても修正液で消しそうだ。


「姉ちゃん、何かおかしいと思ったら自分で対処しないですぐ俺に連絡だ」

 イカ怪獣のせいでネバネバしてる姉の肩に手を置いて真剣に言ってみる。

 怪獣よりも身近な危険から姉を守らねばと思う、今日この頃だ。



 ・・・・・・・・・・



 父さんが死んでから、俺たちは家族で支え合って生きてきた。

 俺が父さんと同じヒーローを目指すと決めた時、母さんはまだ早いと反対した。たとえどれだけ反対されようとも、俺は目指すことをやめるつもりはなかった。

 出て行く母さんに付いて行かない、そんな決断をしようと思うくらいに追い詰められていた。

 でも父さんに教わったヒーローの条件を思い出させてくれたのは、姉ちゃんだった。


 頑丈であること。 

 必殺技を持つこと。 

 守りたいものがあること。


 条件が大雑把なのはまあ、俺と姉ちゃんの父親だから仕方ない。

 前の二つは身も蓋も無いそのまんまだ。怪獣なんて人間離れした体力と必殺技を持っていないと倒せない。

 ちなみに俺は稲妻が出る。自分でもよく分からんが、稲妻が出るんだ。細かい事に拘ったりするとやっていけないから考えない様にしている。父さんは火が出たんだよなぁ。


『守りたいものがあること』

 俺は母さんと姉ちゃんを守りたいからヒーローになる。

 本当はたくさんの人を救う為とか、そんな大きなことを言えればいいのかもしれないけど、はっきり言って実感がわかない。俺にとっては身近にいる大事な人を守ることが目的だ。

 離れるんじゃ意味が無かった。父さんの分まで守るって決めたんだ。

 たとえ母さんに秘密を作ったって、傍に居て二人を守る方がずっといい。


「離れるか秘密を作るか、どちらも罪悪感を感じるなら家族一緒にいたほうが楽しいでしょ?」

 いつだって簡単に言う。勝手に追い詰められてた俺を救ったなんて思ってない。それが俺の姉ちゃんだ。


 恥ずかしいから絶対に本人に言うつもりはないけど。



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