11 聞いてもいいですか
二話同時投稿の二話目です。
前話がありますのでご注意ください。
祖父はいじけて仏壇の祖母に愚痴を述べています。
とりあえず興が乗っているようなので、そっとしておきましょう。
統合の事とか色々話しあいに来た筈なのに、組合の代表さんをお待たせして申し訳ない気分でいっぱいです。
当の本人の朔也さんは、全く気にせずお茶を飲んでますが。
「緋路さんは、今どうされているのですか?」
パンダ怪獣さんから助けてもらったのに、きちんとお礼が出来ていない。
朔也さんが訪ねてきた時に、もしかして緋路さんにも会えるんじゃないかって、期待してしまった。でも本当は、会うのが少しだけ気まずかったりもする。
私を守るのはお仕事だったのに、懐かれて本当は迷惑だって思っていたんじゃないかな。
嫌そうな顔をされたらどうしよう。
電話とメールをするのも躊躇ってしまって、結局なにもできていない。
「主犯はもう拉致監禁の容疑で警察に引き渡したんだけどさ。実は、君を昏倒させた奴が見つかってないんだ。
で、緋路は血眼になって捜してる。舞雪から緋路の要求が厳しすぎるって、苦情のメールが入ってたなあ。何があっても捕まえるだろうから、心配しないで待っててやってくれ」
それ、警察の仕事では……。
それとあいつの携帯飛び降りた時に壊れたらしい、と言われて焦った。あんな高さから飛び降りればかなりの衝撃ですよね。普通に私を担いで走っていたから頭からすっぽり抜けていました。
「緋路さん怪我したんですか!?」
「へーき、へーき、そんな事で怪我する様な可愛い奴じゃないからー」
朔也さん、軽いよ!
「大丈夫だよ姉ちゃん、あの後だってじいちゃんに代わって主犯締め上げてたし」
「龍弥ってば、いつ緋路さんに会ったの!?」
「そりゃあ、昨日からずっと現場の陣頭指揮は緋路さんが執ってたし」
そう言えばおじいちゃん、昨日からずっと私につきっきりで仕事してないっ!?
「お母さんも、娘さんを危険な目にあわせて申し訳ありませんって、謝罪してもらったわよ」
「は、初耳っー!?」
「円奈が検査してる病院に寄ってくれたのよ。そのまま捜索に行くみたいだったから、引き止めなかったけど」
「……何で私だけ、会えてないの?」
正体だって私だけ知らなかったよ。気づかなかっただけとも言いますが。
「だからさ、守りたい子に怪我負わせた奴を捕まえもせずには会えないって。
あと少しだけ待っててやって。な?」
朔也さんの言葉に頷くしかなかった。
・・・・・・・・・・
緋路さんがやって来たのは次の日の夕方でした。
朔也さんと舞雪さんも一緒です。
「円ちゃんっ! 無事で良かったぁー。すぐ会いに来たかったのに、緋路の奴が横暴で来れなかったのよぅ」
出会い頭、舞雪さんに鯖折りされました。がっつり締まってますよ、舞雪さん。くったりしてきた所で、慌てて緋路さんが引き離してくれました。お花畑でおばあちゃんとお父さんがジェンカを踊ってた。
誘拐犯の一人は私の高校の卒業生だった。
だからこそ校庭の人気のない場所や校内にも詳しかった。ずっと目立たない校舎裏で待機して、私を放課後に拉致するつもりだったらしい。
そうしたら、ゴミ捨てに獲物の方からやって来たという訳だ。運悪すぎませんかね。
私とクラスメイトはいきなり昏倒させられて、私だけが連れ去られた。目を覚ました生徒が学校に訴えて、漸く事件が発覚したのだ。うう、森下さん(一緒の当番でした)巻き込んでごめんよ~。
今犯人は警察に身柄を引き渡されている。舞雪さん情報によると、引き渡されることを泣いて喜んだそうだ。緋路さん、何したんですか……。
お茶を勧めて居間で二人きり、ではありません。全員集合です。
緋路さん、朔也さん、そして舞雪さん。母に弟までいます。
祖父は協会で事後処理中のはず。昨日小芝居に熱が入り過ぎたので、今朝はちょっぴり拗ねながら家を出ました。
「助けて頂きありがとうございました」
「いや、無事で良かった」
…………会話が続かないっ。沈黙が重いよ。
私は何故か緋路さんから目を逸らしてしまう。すっごく視線を感じます。
何を話したらいいの!? とりあえず、ここはあの件を謝っておくべきだよねっ。
「お父さんって呼んで、しかも涙と鼻水で服をべとべとにしちゃってごめんなさい!」
勢いよく頭を下げる。勢い付きすぎてテーブルにおでこをぶつけそうになった。
「お父さんは微妙だったが……いやいや、気にしてないからっ。歳が離れてるのは事実だし」
あ、気にしてるっ。ごめんなさいいぃ。
「お父さんっぽいとか、そういう意味じゃないんですっ! そうじゃなくって、父は私の一番のヒーローだったんです。それでこの前緋路さんに助けられて、まるで父の腕の中に居るみたいに安心できて。むしろ緋路さんの方が安心できるくらいで……って、何言ってるんですかね!?」
あれ? 何かこれ、違うっ。うぎゃーってなって、一人心の中で頭を抱えてしまう。
「と、とにかく! 父が、歌った私を助けてくれた時の事を思い出してしまったんです。素敵なヒーローだったんですよ?」
「ああ、龍一さんの事は俺も尊敬していた」
顔を上げて目を合わせた緋路さんは、やさしく笑ってくれていた。
私が今、父の事を思い出していた様に、緋路さんもまた当時の父を思い出してくれているのだろうか。
ぎこちない雰囲気が取れた所で、緋路さんが意を決したように居住まいを正す。
私も深呼吸をひとつして、背筋を伸ばす。
「すまなかった。
君を守るのが俺の務めだったのに、きちんと守れなかった。遅くなってしまったが、君を傷つけた男を見つけ出さないと、会って謝る事も出来ないと思ったんだ」
どうしてそんな辛そうな顔をするんですか。
「緋路さんが謝る必要なんてありません! ずっと守って頂いて感謝してるんですよ。ピンチに助けてくれたのだって緋路さんです。有難うございました。
……お仕事なのに、まとわりついてごめんなさい」
緋路さんに向かって再度頭を下げる。これを一番最初に言わなきゃいけなかったのに、中々勇気が出ずに言えなかった。
顔を上げて笑うのはちょっと勘弁してください。笑える気がしないんです。
どうしてこんなに胸の奥が苦しいんだろう。
緋路さんにとってはお仕事で、その上必要もないのに謝ってまでくれたのに。
「こらこら。そうやって勝手に決めつけるな」
人の気配がしたかと思うと、すぐ側に影が落ちて思わず顔を上げる。緋路さんがグッと私の顔を覗き込む。無理やり合わせてきた目線は、真剣な色。緑がかったこげ茶の瞳は今日も綺麗だ。そこに嫌悪や呆れは見えない。
「緋路さん?」
「最初は確かに仕事だった。でも毎日顔を合わせるうちに、俺も円奈に会える時間を楽しみにしていた。護衛の付く意味を悟らせる訳にもいかないから、名乗れないのがもどかしかったんだ」
「私だって、名前を知りたくて仕方なかったです。緋路さんに会える毎日が、とっても楽しかったんです」
そう告白すると、緋路さんは頭を撫でてくれた。
「ショッピングモールで鉢合わせた時、誘導装置の捜索をしている途中だったから、君があの場に居ることには焦ったよ。舞雪のことは誤解されるし。
その上警報が鳴って、『これから俺が怪獣を何とかしてくるから安心しろ』なんて言う訳にもいかなかったから、悔しかった」
そう言えば、私はあの時も早合点してたなぁ。
「スライディングをかけた時、トラ怪獣さんの動きが一瞬止まった気がしたんです。緋路さんが凍らせてくれたんですね?」
「ああ、本当は君の弟や先輩みたいに堂々と助けたかった。俺の名前を叫んで欲しかった」
意識を失う前に聞こえた声は、幻聴じゃなかったんだ。
「パンダ怪獣さんの時に現れたのが緋路さんで、ものすごく安心したんです。その声を聞いたら、もう大丈夫って思えました」
「もう誰にも譲る気はなかったから。君の弟や先輩、草薙総帥にもね。
これからだって譲るつもりはないよ、それこそ龍一さんにだって」
「緋路さんは、今だって父に負けていないと思いますよ?」
パンダ怪獣さん相手に先陣を切るなんて、正に憧れのヒーローだ。
「ヒーローとしても、超えたいとは思うけど。でも、そうじゃなくて」
緋路さんは私の両肩に手を置いた。
「……以前円奈は、じゃがいもが大好きだって言っただろう? 俺も好きだって、返した」
「確かに言いましたね?」
んん? どうしてここでじゃがいもの話? 私は疑問符でいっぱいです。
「でも俺はじゃがいもなんてこれっぽっちも好きじゃない。というか、実は野菜全般嫌いなんだっ!
だから、あの時から俺が好きだったのは……」
頭が真っ白になる。
「まさかの野菜嫌いっ!!」
言葉を遮り思わず突っ込んでしまった。
「姉ちゃん、相変わらずスタンスぶれねえなっ」
「告白っ……遮られるってっ! 緋路、おまえっ」
「ふっくくくくくっ、円ちゃん最高っ!」
「それでこその円奈よねー」
「孫はまだまだ嫁にはやらんっ!」
振り向くと居間の入り口におじいちゃん。いつの間に帰って来たの。
視線を戻すと「外野が居るの忘れてたっ」て緋路さんが真っ赤な顔をして呻いていた。
「とりあえず、家庭菜園の件から説明お願いします」
さっきのお話の続き、聞いてもいいですか?
子供の頃、お父さんに教わったヒーローの条件。
頑丈であること。
必殺技を持つこと。
守りたいものがあること。
緋路さんにとっての『守りたいもの』は私でした。
これにておしまいとなります。
怪獣にヒーローというどこに需要があるんだという話に、最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。




