10 一件落着です
ヒーロー協会本部会議室。
「ごめんよ、円奈っ」
さっきからずっと、祖父に謝られ続けております。
「おじいちゃん、私こそごめんね。相変わらず怪獣に好かれてて」
「何を言うんだっ。寄ってくる怪獣が悪い! 円奈に近づく怪獣と害虫はこれからも、じいちゃんがばったばったと倒すから安心しなさいっ」
がしっと両手を掴まれる。
祖父はノリが良いので楽しいなぁ。でも害虫?
「おじいちゃんっ」
「円奈っ!」
久々の小芝居が出来て私は満足です!
戦ってる祖父はとっても格好良いけれど、家族に対してはいつも小芝居に付き合ってくれる、楽しい祖父だ。
おかげで私の中のパンダショックも落ち着いて、今はとっても冷静になれました。
あの時は、緋路さんに抱きついて本気泣きしちゃったからね。しかもお父さんって呼んでたし。まるで父に助けられた時の様に、安堵してしまったのだ。
事後処理のために、緋路さん達が外で動いてくれていて、良かったのかもしれない。今度会ったら謝らないと……。きっと緋路さんの服は、私の涙と鼻水でぐしょぐしょだ。
「でも、そろそろ離してほしいかも?」
かれこれ二十分はやってるもんね……。
「我慢しなさい。父さんてば、自分のせいで円奈を危険な目にあわせてしまったから、怖くって仕方ないのよ」
母も私の身体を抱き寄せながら、さっきからずっと頭を撫でてくれている。
こちらも二十分程、継続中。
「そういえばお母さん、あの豊海って人、お父さんの事を筋肉馬鹿って言ってたんだけど」
「…………へえ。どうしてあんな奴追放してなかったのかしらね?」
母の周りの温度が何度か下がった気がする。母の必殺技はブリザード系じゃなかったのになぁ?
うん、とりあえず誘拐犯は司法の手に委ねられるわけですが。
祖父にも何らかの措置が取られそうで、ちょっと怖い。
おじいちゃん、脂汗がすごいよ?
「姉ちゃんっ! 大丈夫!?」
バタバタとした足音と共に、弟が会議室に飛び込んでくる。抜け出して来てくれたみたいだ。
パンダ怪獣さんの現場から、私は検査のために直接病院に運ばれた。先程戻ってきたので、弟とは会えていなかったのだ。
祖父の両手をぺいっと引っぺがし腕を広げると、素直に飛び込んできてくれた。
うちの弟はやっぱり良い子です!
「大丈夫、今回も龍弥はばっちり間に合ったんだから。ありがとね」
「うん」
されるがままになっているその頭をグリグリと撫でながら、ずっと気になっていた事を聞く。
「龍弥、キジバト怪獣さんのお肉はどうなったの?」
「結局それかよ……今協会で血抜きしてるよ。ついでにパンダ怪獣の肉も切ってもらってる。これで満足かっ!」
グッジョブ、弟よ! もちろん満足ですとも。
龍弥が泣きそうな顔をしてこちらを見ている。
「大丈夫よ、検査の結果何も異常はありませんって言われたから。円奈のこれは、いつもの事だしね」
「わかってる、わかってるけど脱力する……」
母の答えに弟が深くため息をついている。
大好物の心配をするのは、普通の事ですよね?
・・・・・・・・・・
翌日、祖父の家にヒーロー組合代表が訪ねてきた。
私たち家族は今祖父の家に身を寄せている。
緋路さん達三人は組合のヒーロー。
舞雪さんの旦那さんである、此花朔也さんが組合の代表だったのだ。
怪獣誘導装置の件を巡って、協会と組合は共同で調査を行っていたらしい。
これからは緋路さんに祖父の補佐を任せ、数年かけて協会と組合の統合を図っていく予定だそうだ。
そして緋路さんには、放課後の私の護衛任務も任されていた。
やけに気前よく野菜をくれるし、優しいと思ったらお仕事だったんですね……。
知らなかったのは私と弟だけ。その弟も緋路さん達のフルネームを聞いて、正体には気づいたらしい。三人とも組合ヒーローとして、有名人だったそうです。
私だってどこかで聞いた名前だな~、くらいには思っていたんだよ。
朔也さんに会うのは、あのみんなで過ごした夕食以来だ。
今回の救出と怪獣退治においては、組合も総出で協力して当たってくれていたそうです。
今も緋路さんや舞雪さんは、研究者や協力者の確保と事後処理を行っている。
朔也さんから「今度は根ごと引き抜くから!」と笑顔で確約されました。
居間でお茶を出した後、朔也さんに頭を下げる。
「助けて頂いて有難うございます。そして迷惑をかけてごめんなさい。
パンダ怪獣さん出現は、私のせいなんです」
祖父を確認すると頷かれた。
私は自分の特異体質を説明した。近距離で発見されると必ず追いかけられること。
そして歌うと予防線を無視して、怪獣を呼んでしまうこと。
「もっとも歌ったのは十年ぶりですし、パンダ怪獣さんなんて大怪獣が来るとは思いませんでした」
「もしかして、君が緋路に抱きついて言っていた約束は、その事だったのかな?」
「聞かれてたんですか? そして見てました!?」
「いやー、円ちゃんが草薙総帥に引き剥がされるまで、ずっと泣いて謝っていたから殆どの人間は知ってるよ。何より緋路の渾名が昨日から『お父さん』になったしな!」
朔也さんは思い出したのか噴き出している。うわぁ、今こそ泣きたい……。
「だがこれで合点がいった。あいつらの装置にそこまでの力はないし、想定外だと聴取で述べている。あと、君が何の前触れもなく歌い始めたってね」
「反省はしていますが、後悔はしていません。どんな罰だって受けます」
真剣に朔也さんを見つめる。
「ああー違う違う、ただ確認がしたかっただけ。この件の処理はもう済んでる」
ひらひらと手を振る朔也さんの言葉に首を傾げる。
「大怪獣の出現は、装置の危険性の実証になった。そして人質の少女が歌い始めたのは、あまりの恐怖に自分を鼓舞するための行動だった――という事になってる」
……自分を鼓舞するための行動にモ○ラを歌う高校生。やだなぁ、もうちょっと最近の曲チョイスすれば良かった。
「誘導装置根絶には、おあつらえ向きの事件だったって訳だ」
朔也さんが二カッと白い歯を見せて笑う。
「う~……それで良いんですか?」
「いいんだよ、そもそも怪獣なんて自然災害みたいなものだ。台風の進路予測は必要だが、わざわざ呼び寄せる様なものじゃない。
そんな研究に予算回すなら、その分強固な予防線と余波計測の開発をした方が良い。
……君の歌声で大怪獣が呼ばれたのだって、装置の乱用で咎が貯まってたんだろうっていうのが、識者の見解ってやつだ。俺はその道の専門家じゃないが、狩る方は専門だから、最近の怪獣の偏りがやばいってのは肌で感じてた」
朔也さんの言葉に家族が頷く。
うん、みんなヒーローだもんね。お母さんだって元ヒーロー。
私?何も感じませんでしたよ。最近好みの怪獣のお肉が続いて、ラッキーッて思ってた。
「ところで此花君、円奈の護衛は君達に任せた仕事だったはずだ。やはりまだまだ若い者には危なっかしくて任せておけんな! 統合の件は考え直さなきゃならないだろう、うむ!」
うぉっほん、とワザとらしい咳払いと共に祖父が話し始める。
あれ、いつの間に小芝居始まったんですか。
まだまだ引退をしたくはなくて、ダダをこねている模様です。
「全く父さんてば。円奈、さあ言ってあげなさい」
お母さんラジャーです!
「おじいちゃん、そもそも私が攫われたのは放課後じゃなかったし、いつもはいるはずの石崎先輩がいない時を狙われたし、どう考えたって情報戦でおじいちゃんの負けじゃない?
と言う訳で、私の安全な学生生活の為にも、引退をお勧めします」
「たまに鋭いのは野生の勘……?」
龍弥は、ちょいちょい失礼だと思う。
祖父はガックリと膝をついて崩れ落ちている。
ね? 人のせいにしちゃいけないよ、おじいちゃん。
「確かに引退は、俺も賛成。効率重視だけでも嫌だけど、熱血一辺倒もどうかと思う」
「そうよー。そもそも協会内にあんな危険人物を放置して、見張りまで撒かれた父さんが悪いのよー」
おお! お母さんてば正論ですね。私もこくこくと頷く。
しおしおと祖父が萎れて行きます。
「おじいちゃんの体調だって心配なんだよ。もうすぐ七十歳になるんだから」
私たち家族は、そっと祖父の肩に手を添えます。
「おお、お前達……」
祖父が顔を上げたところで……。
「「「いいから早く引退しなさい!」」」
「うわ~んっ! 生涯現役なのにーっ」
祖母の仏壇に向かって部屋を飛び出す祖父。
少しやり過ぎたかな?
「良かったの?」
と聞きながらも朔也さんは笑い転げている。うーん、こんな所は舞雪さんと似た者夫婦。
「いいんです、無理をしていたのは本当ですから。祖母が亡くなってからの、この数年は特に」
本当は祖父だって、重圧から解放されたいと願っていたはずなのだ。
そんなおじいちゃんへの、家族三人阿吽の呼吸の小芝居でございます!




