わたくしたち生贄らしいですわ
はじめまして。初投稿でドキドキしてます。
突っ込みどころがあるかと思いますが、ふんわりスルーでよろしおねがいします。
こんなはじまりですが悪役令嬢ものではありません。
悪役?悪役令嬢ですって?
わたくしが?
なんということおっしゃるのかしら?このぼんくらは。
こっそりとここだけの話とする陰口ですら、ここだけの話にならず漏れ広がってしまうというのに、このぼんくらは開放感抜群の中庭で、堂々と声を潜めるでもなく言い放ちやがりましたわよ。
見てごらんなさい。
たまたま通りがかった女生徒が驚きで足を止めてしまっているではありませんか。
「わたくしが悪役令嬢ですの?」
まあ驚きますわよね。
ぼんくらが笑いながらこき下ろしている当人が真後ろを、これまたたまたま歩いているのですもの。
「リチア嬢。会話に入ってくるなど不躾ではないですか」
「まあ、それは失礼いたしました。ですが、わたくしの名前が出ていたようですので」
ぼんくらの側近が気まずさを感じさせずにこちらを責めてくるのは及第点ですわね。わたくしの心情は最悪ですけども。
「そう目くじらを立てるな、ちょっとしたお遊びをしてただけだ」
目くじら立ててませんけど?
こちらこそちょっと気になったから聞いただけですけど?わたくし態度も声のトーンも怒ってませんでしょう?
「お遊びですか?」
「そうだ。市井で流行っている話の配役をするなら誰がよいか、そんな他愛のないお遊びだ」
「さようでございますか」
市井の流行っている話。ああ、ありえない妄想を詰め込んだ玉の輿物語ですわね。
たしか、下位の令嬢が苦難に見舞われながらも健気にひたむきに生き抜き、それに王子様がコロッと……無責任に……うっかり?あら、いい言葉浮かびませんわね。まあ、あっさり心奪われ見初めるお話でしたわね。
その無能王子の婚約者が悪役令嬢でしたわね?王子ってぼんくらしかいないのかしら。
「まあ、ではぼん――王子様は、そのまま殿下が配役ですの?」
わたくしは彼と違って、公に陰口は言いませんのよ。たとえ誰もがぼんくら王子と思っていても。一応王子ですもの、敬っているという体は必要ですわ。
「そうなるな。そして、あの健気な主人公はユリになるな」
「ユリ?お隣にいらっしゃる方ですの?」
不愉快そうに顔を歪めてますが、わたくしが知るわけないでしょう?
「なぜ知らないんだ。下位の貴族は覚える必要もないということか?」
「……そんなぁ」
ユリとやら、うるうるお目めで傷ついたようにこちらを見るのやめていただけないかしら。
「そうですわね、必要がないとまでは言いませんが、覚えきれませんわ」
「そういう傲慢な態度が悪役令嬢にぴったりなんだ」
「まあ!では殿下は全ての貴族をそらんじていらっしゃる?」
ほらほら、ぼんくらが困ってますわよ。側近がフォローをして差し上げないと。
「……殿下は――」
「そのような些末なこと、私が覚える必要はないだろ」
お気の毒に、側近の方の顔色が悪くなってますわよ。
せっかくフォローしようと思ったのを遮って自身の言葉を否定するようなことをおっしゃるから。
ですがフォローしたところで、ぼんくらはぼんくらですもの。致し方ございませんわね。
「私は大局を見る必要があるのだ」
わたくしだけではございませんわね。
通りがかっただけなのに面白い出し物に足を止めてしまったままの令嬢も、更に新たに通りがかっている令息も、ぼんくらの側近さえも同じ顔しておりますわね。
『なに言ってんだ、こいつ』
そんなお顔を。
「大局?殿下が?なんのために?」
あ、するっと口から滑り出してしまいましたわ。
「どういう意味だ、リチア。私が大局を見ることに何の疑問があるというのだ」
側近、フォローを。フォローをしてちょうだい。
「ンん……リチア嬢は女性ですから、そのような目線を持つということがわからないのでしょう」
「ああ、賢らしいが所詮その程度か」
わたくし下げになったのは仕方ないですわね。
殿下を気持ちよくさせるためだけの側近ですものね。
睨まないでくださいな。余計なことを言ってしまったと申し訳なく思ってますから。
「ユリはわかるか?」
「もちろんですぅ。殿下は王子様ですもの、全体を見る必要があるのはわかるのが当然です」
「さすがだ、ユリ。賢さとは学業だけではないというのがよくわかるな」
え?わたくしぼんくらごときにしたり顔で納得されましたの?
側近も「マジか?」ってお顔なさってますわよ。
ユリ、おまえも……殿下には慈愛の笑顔、わたくしには悪魔の顔でねめつけるなんて器用ですわね。
「殿下、風が冷たくなってまいりました。そろそろ」
「風邪ひいちゃったら心配ですぅ」
「そうですわね。お話し中割り込んでしまい、申し訳ありませんでした」
三者三様、解散を促しますわ。
これ以上会話を進めると心の声がダダモレになってしまいますもの。
「そうか、では部屋に戻るとしよう。ユリは教室か?」
「はい。お昼からもお勉強頑張りますねぇ」
「私もユリと一緒に教室で学びたいな。……おい、どうにかならないか?」
護衛が真っ青な顔しておりますわよ?
「なりません、殿下」
「王子たる私が望んでおるのにか?」
「……わたしっ!」
あら、ユリさん。おっとりした雰囲気が消し飛ぶほどの勢いあるお声ですわね。
「わたし、殿下のお部屋見てみたいですっ」
「そうか。なら今から来るか?」
「行きますっ!」
まあ!殿下の腕に腕を絡めて、胸部を押し付けるなんて業前ですわね。
「シュウメイは来なくていい」
「しかし令嬢と二人というのは……」
「護衛もメイドもいる。二人だけではない。私が不埒な真似をすると思っているのか?」
思ってますわよ。側近だけではありませんよ。
見てごらんなさい、あの殿下のデレデレのにやけた顔を。
「シュウメイ様。失礼ではございませんこと」
先程のお詫びにフォロー返しをいたしますわ。
「殿下は聡明で高潔なるお方ですのよ」
自分で言って笑ってしまいそうですが、そういう場合ではございませんわね。
「たとえ御令嬢と二人だけだとしても、間違いなど起こるはずございませんし……護衛やメイドがいればなおのこと。閉ざされた密室でも決して秘め事にはならないと存じてるに決まってるではありませんか」
「そ、そうですね。人がいる以上絶対周りに漏れることぐらい、聡明である殿下がわからないはずありませんでした」
「殿下はぁ私が嫌がることなんてしませんよぉ、ですよね、殿下?」
「も、もちろんだ」
胸を押し当てておいて釘を刺すなんて、なかなかひどいですわね。
皆様方が立ち去るのを頭を下げて見送りますわ。
「リチア嬢」
ああ、そうですわね。側近様はお残りですわよね。
「気持ちはわかりますが、押さえてください」
「申し訳ございません。わたくしの名前が聞こえたので、つい」
だってあのぼんくらから名前が出るなんてロクなことじゃございませんでしょう?
「ありもしない婚約で、卒業パーティで婚約破棄などとのたまわれたらどうしたらよいのか……」
「大丈夫です。殿下はあなたが婚約者だと思っておりません」
「ですが、幼少のころからわたくしとシュウメイ様しか傍におりませんでしたでしょう?本当に勘違いしておりませんの?」
この学園に入る十六の年までは関わりのある同年代は私たち二人だけ。
「大丈夫ですよ、たぶん」
「たぶん、ですか……あの殿下が配役を決めていたお話、読まれてます?」
「一応。まさかあの話通りに婚約破棄をすると?そこまでおろかでは……愚かでしたね」
「別にされても痛くもかゆくもございませんが……わたくし、令嬢にあるまじき大笑いをしてしまいますわよ」
更に令嬢にあるまじき暴言を口にしてしまいそうですわ。
「それに、ユリ、さん?報告を受けてませんが」
「ああ。他に興味を抱かせないための餌ですので、わざわざ報告の必要はないかと」
「なるほど。それでわたくしは学園では殿下につきっきりでなくていいとなったのですね」
「羨ましい限りです」
「シュウメイ様はつきっきりですものね」
側近という文字通り、側で近くにいらっしゃいますもの。プライベートゼロですものね。
たしかあなたの趣味は雲の形や壁の模様でいろいろ妄想するという生産性ナッシングのものでしたわね。
あのぼんくらの戯言をずっと聞いてないといけないなんてお気の毒ですわぁ。わたくしこれほど女に生まれてよかったと感謝したことはございませんことよ。
「殿下が十八になるまでの辛抱……ああ、卒業パーティのことは心配無用ではないですか」
「まあ、本当ですわ。わたくしとしたことが失念しておりましたわ」
「卒業パーティでの婚約破棄なんて婚約しててもしてなくても、殿下にはその機会が来ないのですから」
「ええ。秋、でしたかしら?殿下のお誕生日は」
「そうです。豊穣の月、十二日です」
まあ、ではあと二年とちょっとですのね。
「後それだけとなるとあのぼんく――殿下にも愛着がわきますわね」
「本当にそう思ってます?」
「いいえ?まったく」
呆れないでくださいまし。ほら、一応淑女としての取り繕をしようと思っただけですわ。
愛着などわいてしまったらつらいのはわかってますでしょう?
なんとも言えない空気になったので、頭を下げあってお互いその場から立ち去りましたわ。
王城にくるのは久しぶりですわね。
学園に入学してからはサッパリでしたのに、呼び出しなんて穏やかではございませんわね。
あら?シュウメイ様も?
ますますいい予感いたしませんわ。
「ごきげんよう。リチア様、シュウメイ様」
あらまあ、ユリじゃございませんか。
いくら殿下のお気に入りとはいえ、王城の、それもこんな奥まったところにまで入れるなんて、手練手管が素晴らしいですわ。
「ごきげんよう、ユリ……さま?」
「私のことは、呼び捨てでかまいません。平民ですので」
あの学園に平民は入学できませんわよ。
「なぜ呼ばれたか、おわかりですよね?」
シュウメイ様と思わず目が合ってしまいましたわ。
あ、ほら!シュウメイ様、あの模様女性が笑ってるみたいに見えませんこと?
……ええ、ええ。わかってますわ。現実逃避もここまでにいたしますとも。
「昨日の中庭の件でございましょうか?」
「自覚があってなによりです」
おっとりした雰囲気が霧散しておりますわよ。人物設定がブレブレですわ。
あ、わたくしたちにはそんな必要はない?そうですわね。
「殿下が戯言を言うのはいつものことでしょう!なにを心の声そのまま口に乗せてるのですか」
「申し訳ありません」
「私だって突っ込みたいのを我慢しているんですよ」
「おっしゃる通りです」
「リチア様は公爵家の令嬢でしょう?自覚を持っていただきませんと」
「はい。この国の貴族として、いたりませんでした」
ひどいですわ。わたくしが怒られているのに横でシュウメイ様は存在を消して空気になってますわ。
側近でしょう?フォロー、フォローしてくださいませ。
あ、殿下の側近で、わたくしの側近ではない?そうですわね。
「ひとごとのような顔をされていますが、シュウメイ様もですよ」
「私もですか?」
「リチア様の失言とはいえフォローが遅かったです」
「大局を見るだなんて壮語言われたので少々パニックになりまして」
「雲眺めてましたわよね?」
おほほほ!道連れですわよ。
「見て……ましたけど、話はちゃんと聞いてましたよ」
「気を抜きすぎです」
「……すみません」
恨みがましい目で見られても気にしませんわ!
「リチア様もですよ!」
「……はい」
勝ち誇った顔で見るんじゃありませんことよ。勝ってませんわ!お互い負けてますのよ、怒られてますの。
「たしかにあの方を立てるのは辛くて面倒で疲労困憊でしょうが、あれはぼんくらですが役立たずではないんですよ?わかっていますか?」
「はい」
「もちろんです」
ユリさん、溜まってますわね。
あれにずっと「すごぉい」って言い続けるなんて。お仕事とはいえ哀れみ……尊敬いたしますわ。
「なんとかお二方のおかげで、殿下もここまで無事成長されました。あと二年ちょっとです。さらに気を引き締め臨んでください。もう失敗は許されないのですから」
「そう、ですわね」
「たしか前回は、成らなかったと聞いてます」
「はい。そのせいで国力が落ち、いまだに周辺国から侵略の危機にさらされてます。どこも手出しができぬと言われた我が国がたった百年程でこの有様です」
強国と言われていたのは、今は昔ですわね。
わたくしが物心ついた時にはもう、国境で小競り合いが頻発しているのが日常ですもの。
「ですから殿下にはなにがなんでも儀式を成功してもらわなければなりません」
「承知しております」
「そのためにはお二人の、いえ……国民すべての協力が不可欠なのです」
重々しく頷きますわ。失敗は許されませんもの。
「殿下が十八になった時、無事生贄の祭壇に立てれるようにバックアップするのが私たちの使命です」
「建国王様のご加護を得るために」
「一丸となって臨みますわ」
何度聞いても、生贄が必要なご加護なんて建国王様ってスパルタすぎると思いますわ。
怒られてしょんぼりですが、王家御用達のお茶を飲ませていただけたからチャラですわ。
公爵家である我が家でさえ滅多に飲めない逸品ですの。
これぐらいの役得ないとやってられませんわ。
「そもそもなぜ前回は失敗したのかしら?」
「生贄になる我が子に情をかけるのが辛いと、ひっそりと離宮で世話係だけおいて育てていたらしいのですが、生き延びなかったそうです」
「まあ、ご病気?」
「いえ、どうも生命維持だけでは人は生きられないようです」
「たまたまではなくて?」
「三人亡くなったそうなので」
それは因果関係がありそうですわね。
「王と王妃の子でなければならないため、王妃が子を産めなくなったために儀式失敗です」
「まあまあ!なぜ王は王妃と離縁して新たな王妃を求めなかったのかしら」
たしかに子を産むには期限がありますけど、王妃そのものを挿げ替えればよろしいでしょうに。
「我が子を三人も亡くした王妃を捨てることなどできぬ。と、のたまったそうですよ」
「のたまってますね」
「ええ。さすがぼんくらのご先祖様ですわね」
別に捨てなくてよろしいのではなくて?
形だけの王妃で。国の存亡がかかってますのよ?なにきれいごとをぬかしてやがるのかしら。
「儀式は100年以上間を開け、王と王妃の子を必ず十八で贄の祭壇に送る、ですからね。すでに十八を過ぎていた兄殿下が今の陛下のお父上になります」
「ではなぜ陛下は生贄にならなかったのかしら?」
「ああ、一人しか生まれなかったからですね。初めに生まれた子は王家を継ぐために生かされますから」
三代に一回。結構頻繁な回数ですわね。
100年以上だから、別にもっと間を開けてもよろしいのでは?
……無理ですわね。人の欲はそこまで制御できませんもの。
「そのために私たちが?」
「そうです。幼き頃から情緒を育てるためにお二方が」
いい迷惑ですわ!
別にわたくしたちである必要はないのではなくて?世話係が情緒でもなんでも育めばよろしいのでは?
「存じてます?わたくし殿下よりふたつも上なのに学園にしれっと通ってますの。シュウメイ様なんて四つも上ですのよ」
「まったくだ。殿下と同級生になるために。私なんて親が宰相という理由だけですよ、選ばれたの」
「それならわたくしだって、家が公爵家というだけですわ」
同級生がみんな年下ですのよ!
ユリさん、あなたはよろしいわよね。学園にいる間だけでいいんですから。わたくしたちは幼少の頃からずっとですのよ、ずっと!物心ついたときから赤ん坊の殿下の傍におりますのよ。
少々気を抜いてしまったからと言って説教されるいわれございませんわ。
「私は今年25になりますが?」
そうですわね!気を抜いたら駄目ですわよね。
……まだ十代で良かったですわぁ。
「シュウメイ様。先ほどのお話、知ってました?」
「ユリ嬢が25歳ってこと?」
「それもですけど」
驚きましたけど!
25にもなってあのアホ丸出しな演技を強要されるなんて人道にもとりますわよ!
そうではなくて!
「前回の儀式の失敗のお話ですわ」
「ああ。以前ちょっと気になって調べたけどわからなかったな。あっさりユリ嬢が教えてくれたから驚きましたね」
「調べてましたの?」
「リチア嬢。物事を分からないように育てられてるのは殿下だけではないかもしれませんよ」
ですが、わたくしたちは普通に学園に年をごまかしてとはいえ通えて、普通に授業を受けられていますわ。
知識を制限されているとは思いませんけど。
「では、先ほどのユリ嬢の話を聞いてどう思いました?」
「……大変名誉ある――」
「本心を」
「なぜ子供であるわたくしが王家の尻拭いを?」
大人の役目でございましょ?
「我が子を生贄にするのが辛いのはわかります。だから会わないようにする。これもまだいいでしょう。愛情を持って接しないと生きられない。だから子供をあてがう。納得できます?」
「おかしい、ですわね」
「それも公爵令嬢と宰相の息子なんて。そういえば偶然でしょうがお互い跡継ぎではないですね?」
「ええ……わたくしには兄と姉がいますわ。シュウメイ様も」
「はい。兄二人に姉もいますね」
「……捨て駒、なのでしょうか?わたくしたち」
「さぁ?まだわかりません」
ここまで言っておいてわかりませんの?
意味深に不安煽っただけじゃありませんの。
まさか先程のお返しじゃないでしょうね?
「ただ、あの殿下の傍にいることを不満に思いながらも覆そうとは思わなかった」
「それはそうですわ。国の行方がかかっていますもの」
「私たち子どもの肩に?」
「……ええ。わたくしたち子どもの肩に、ですわね」
シュウメイ様は確か二十歳ですからもうこどもというのは、差支えがありそうですわね。
わたくしも十八ですわ。ギリギリですわぁ。
アウトかセーフかはご想像にお任せしますわ。
驚きましたわ。
調べてもなにもわかりませんことよ。
「わかっていることを教えてくださります?」
わからないならわかっている方に聞けばよろしいのですわ。
「何か懸念を持ってらっしゃるのでしょ?わたくしにも教えていただきたいのですわ」
「まだなにもわかってないのです」
「ではなぜ調べようなんておもいついたのかしら?」
わたくしは全く疑問なんて持ちませんでしたわ!
「なにも、ですか?」
「ええ、なにも。これっぽっちも思いませんでしたわ」
「本当に?」
この方はなかなかねちっこいですわね。
さすが特異な趣味をお持ちの方ですわ!陰湿ですわよ。
早々に言いたいことがあるならおっしゃればよろしいのに。
「べつにあれが趣味なわけじゃありません。ただ他にすることがないからしているだけです」
「それは失礼いたしました」
その割には楽しそうに雲を眺めてますわよ。
「建国王、おかしいって思ったことありませんか?」
「まあ、自分が作った国の繁栄のために自分の子孫を生贄にするなんてなかなか厳しいことをなさるとは思いますわ」
「ご加護というより呪いみたいですよね」
「……そこまでは……スパルタだとは」
「まるで生贄を捧げなければ国の存続を許さないようだ、とは思いませんか?」
実際、今、危ぶまれていますわね。
「建国王の言い伝えがなさすぎると思ったのが最初です」
この国を作った尊き方なのに、なぜ逸話一つ残ってないのか?
ただ建国王とそれを支えた王妃が聖女であったということのみ。
二人は幸せに暮らしましたとさ。しかない。
こんなものは針小棒大に書き連ねるものなのに。
「そこで、王妃である聖女の方を探ってみました」
「聖女、様ですか?」
手をかざしただけで傷を癒し、祈りを捧げれば病をも癒す。
言祝ぎすれば、幸福が訪れる。
そんなおとぎ話の存在ですわ。
「まさか、本当に王妃様は聖女でしたの?」
「……わかりません」
なんですのぉ!結局わからないですの?
「ですが本当に聖女であるならば、建国王が建国できたのも納得できます」
神の御使いである聖女様が本当に存在したのならば、そうですわね。
「ですがおとぎ話の聖女様は神の御業である奇跡を広く多くの人々に与えるため、決して一個所にとどまらなかったはずですわ」
「そうです。神の御業を特定の個人のものにしないため、巡礼の旅をしていた、と」
「……まさか」
神の御業を、人々に与えるはずの奇跡を。
一人占めしようとする者がいたとしたら?
「建国王は、一体なんの力で建国できたのでしょうね?」
もしも本当に王妃が聖女様だとして、聖女様は本当に自らの意思で建国王の元にいたのかしら?
無理矢理国に縛り付けていたのだとしたら、それはきっと――恨むでしょうね。
時間だけが過ぎていきますわ。
もう一年を切ったというのに、なにもわからないままですわ。
シュウメイ様もあれ以上の情報はなにも掴めていないようですし、困りましたわ。
「もう少しリチアにも可愛げがあればよいものを」
「可愛げ、ですか?」
「そうだ。ユリのようにたまには甘えたらどうだ」
まあ、ぼんくらになにを甘えろっておっしゃいますの?
ぼんくらに甘えてもぼんくらな結果になるのが完璧に予想できますのに。
「リチア様が甘えたら、殿下はぁ私のことなんてどうでもよくなっちゃうじゃないですか」
あ、すみません。真顔になっておりましたわね。
ユリさん、そんなにわたくしだけ睨むのはやめていただけませんこと。
「そんなことはない。所詮リチアが甘えたとてリチアだしな」
言ってくれるじゃありませんか。
プロフェッショナルのユリさんに負けず劣らず可愛げの権化である母と姉がいるのですよ。そんな母の娘であるわたくしが可愛げがないわけないじゃないですの。
「リチア嬢は可愛いというより美しいですからね」
まあ側近!良いフォローです。
たしかに社交界のすずらんと言われた母と違い、わたくしは社交界の薔薇と呼ばれていますもの。ジャンルが違うのですよ、ジャンルが。
「なんだ、シュウメイはリチアみたいなのが好みか」
「客観的な美醜を述べただけで、好みとはこれっぽっちも言ってません」
ユリさん、ユリさん、こいつ殿下のお言葉に歯向かいやがりましたよ!説教かましてくださいな。
「好みならリチアを下げ渡してやろうと思ったのだが」
「は?」
仲良くシュウメイ様とハモってしまいましたわ。
ぼんくらにわたくしの婚姻をどうこうする権利などございませんことよ!
ユリさん、睨まないでくださいってば。
「私はもう心を決めたのだ。幼き頃から尽くしてくれたリチアには悪いが、すでに私の心はユリに染まってしまった」
勝手に染まってらっしゃいませ。
……お待ちになって。わたくし、もしかして、もしかしてですが……ぼんくらにフラれましたの?
どういうことですの!?
殿下のお言葉にすべて「イエス」ということが尽くしたことになりますの?
というか、フラれましたの?おほほほほ!面白いことをおっしゃりますわぁ!わたくしたち、幼馴染なだけですのよ?
ぶん殴って差し上げますわ!
「せめて同じく尽くしてくれた無二の友であるシュウメイと一緒になれば幸せだろうと思ったのだが」
シュウメイ様、顔!顔!
ええ、一緒にぼんくらをぶん殴りましょうね!
……ユリさんがすっごい顔で睨んでますわ。
「わたくしは殿下が幸せであればよいのです。わたくしのことはお気になさらず」
「そうです。私を……無二の友と呼んでくださる殿下だからこそ、殿下の幸せを一番に願いたいのです」
本当にぼんくらはぼんくらですわね。こんな三文芝居で感動して涙ぐみますの?
もう少し疑うということを覚えた方がよろしくてよ?
ああ、覚えないように育てられたのでしたわ。
なんとかほっこりムードに持っていきましたけど、やっぱり呼び出されましたわぁ。
またユリさんの説教ですわね。
滅多に飲めないおいしいお茶も味がしませんわぁ。
ユリさん、怒りすぎじゃございませんこと。せっかくのかわいいお顔が台無しですわよ。
「あと八か月なんですよ!気を抜きすぎですお二方とも」
「申し訳ございません」
「いくら殿下が私にメロメロになっているとしても、どこから不審に思うかわからないんですからね」
ご自分でおっしゃいますか。メロメロって。たしかにメロメロですけども。
「甘えて見せる真似ができなくても、拗ねてみせるとか私に対抗して殿下の取り合いをするとか、なんとでもできるでしょうが」
む、無茶振りが過ぎますわぁ!
「ところでユリ嬢、儀式の段取りって知っていますか?」
「ええ、もちろんです。殿下が抵抗をした場合に備えて、私が共に祭壇に上がることになってますから」
「……それは、ユリさんも一緒に生贄になる、ということでしょうか?」
「そうですよ。国の為です。一個人の命を惜しんでいる場合ではありませんから」
まあ!ただのハニトラ要因じゃございませんのね。
プロフェッショナルですわ!
「私たちもそのように言われてます。ね、そうですよねリチア嬢?」
「…………ええ」
説明なしに急なアドリブ放り投げてくるのやめていただけます?
「ああ、やっぱり。従者が知らないわけないですよね。ともにこの国のため最後まで気を抜かず頑張りましょうね!」
「ええ、もちろんですわ」
わたくし、うまく笑えてますかしら?
「ぼんくらとゆかいな生贄仲間でしたわね」
全く愉快ではございませんけど!
「ユリさんの言葉で気づきましたの?」
「確信したのは今日ですが、疑念は薄々と」
「まあ!教えてくださればよろしいのに」
あなたまさかお一人だけ生贄仲間から一抜けたするつもりですの?
「リチア嬢のお母様は社交界のすずらん、でしたっけ?」
「そうですわ。今は姉がそう呼ばれてますわね」
「一方リチア嬢は社交界の薔薇と呼ばれてますよね?」
「そうですわ」
「リチア嬢は家族の誰と似てますか?」
「……父方の曾祖母に似ているそうですわ」
だって、ジャンルが違いますもの。
「私も家族の誰とも似てないのです。ちなみに父方の曽祖父に似ているらしいですよ」
まあ、シュウメイ様もジャンル違いですの?偶然ですこと!
「……ユリさんは、無理でしょうね」
「ええ、あの方は忠実な狂信者です」
「殿下は?」
「今更放っておけます?」
「困りましたわ。少々愛着がわいてしまったようですわ」
「私も無二の友、ですからね」
三人でどこまでできるかしら。
あ、ぼんくらはなにもできませんわね。実質二人ですの?えぐいですわぁ。
計画はシュウメイ様が任せろというからお任せですわ!
わたくしはせっせとバレないようにアクセサリーを換金中ですわ。
なにをするにも先立つものがいりますもの。
ああ、ドレスではどこへも行けませんわね。
もっと目立たない平民の服も手に入れないといけませんわ。
下男と下女の服を拝借いたしますわ!返しませんけど。
一枚や二枚なくなったところでバレませんわよ。
改めて家の中を見るとあからさまでしたわ。なぜ気が付かなかったのかしら。
家族の肖像画にわたくしだけ、少し離れたところに描かれてますわね。
家族の中に描かれていても、お兄様とお姉さまは肩に手を置いていたりしているのに、わたくしには一切触れているものがありませんでしたわ。
あとから消すためなのかしら、なんて思ってしまいますわね。
だって赤ん坊の時肖像画ですら、抱かれることなくクーハンに入れられて足元に置かれてますもの。
ひいおばあさまの肖像画が見たいって言ったらどうなさるのかしら?
慌てて描かせるのかしら?いやお父様はそんなに馬鹿じゃないですわ。とっくにいつ言われてもいいように用意されているのでしょうね。
以前は殿下の十八の誕生日が待ち遠しかったですけど、今は時間が足りませんわね。
全くぼんくらはどっちに転んでも手間をかけさせますわね。
「だめだ。殿下が納得してくれない」
「はあ?」
なんですの?計画って馬鹿正直に殿下に言うことでしたの?
計画でもなんでもございませんわ!
ユリさんに伝わったらどうしますの?間違いなくわたくしたち監禁コースですわよ。
「ユリ嬢には言わないでくれと頼んだ」
まあ、殿下なら言わないでしょうね。ぼんくらでも素直なぼんくらですもの。
「リチア嬢からも説得してくれませんか?」
「よろしいですけど、どこまで言いましたの?」
「三人で一緒に逃げようと」
「……他には?」
「それだけですが?」
なんですの!ぼんくらが増えましたわよ!
理由も言わず逃げようなんて、誰も逃げてくれませんわよ。
理由を言うのがかわいそう?そうですわね。言わないと生贄一直線で確実にもっとかわいそうですわよ。
まあずいぶん久しぶりですわ、殿下のお部屋にくるのは。
幼い頃は毎日来ておりましたわね。
……家に帰ってませんでしたわ。王城にわたくしのお部屋がございましたもの。児童虐待ですわね。
扉の外の護衛に頭を下げて、部屋に入りますわ。
この部屋だけですのね、三人だけになれるのは。わたくしたちの信頼関係を築くために呼ばない限り護衛もメイドも席を外してくださるのね。まだ従順な殿下の守り人と思われていますのね。節穴ですわ。
「久しいな、そなたがここに来るのは」
「そう、ですわね」
まあ、殿下も同じことを思ってらっしゃったのですか。まさかぼんくらとわたくしが同じ思考をしているなんて、屈辱ですわ。
「そなたも説得か?」
ちらりとシュウメイ様を見て、わたくしを見てきましたわ。
「私は逃げぬ」
「まだ理由を言ってませんよ」
「どんな理由でも、だ。ユリを置いてはどこへも行かぬ」
「そんなにユリさんがお好きですか」
さすがハニトラのプロですわ。がっちり殿下の心をわしづかみしてますわ。
「ユリはな、ただ一心に私を求めてくれる。なんの濁りもない純粋な思いでただただ私を必要としてくれてるのだ」
純粋、かしら?まあ、狂信者ですもの、純粋ですわね。
「だから私は逃げない」
「そう、ですの……でも」
「だが、おまえたちは逃げてもいい」
「え?」
「おまえたちまで散らす必要はない。私とユリ、二人で十分だ」
なにを?なにを口走ってますの、このぼんくらは。
「抵抗はするつもりない。でも一人は寂しいだろ?だからユリと二人ならいいかな、と」
「……なん、で」
「人がいる限り、決して秘め事になどならぬのだろう?」
そうですわね。口に乗せたらそれはもう秘密ではありませんわ。
まったく、知っているなら知っていると言えばいいものを。
「リチアもシュウメイも泣くな」
「……泣いて、ませんわ。わたくしがぼんくらの前で涙を見せるわけありませんでしょう」
「うん、リチアはそれでいい」
「私も、泣いておりませんよ」
「シュウメイ、おまえは無理だ」
そうですわよ!大号泣しておりますもの。
わたくし?眠たい話を聞いてあくびが出ただけですわ!
「おそらく私が抵抗せずにいれば、おまえたちは大丈夫だと思うが……一応逃げてくれ。この王家は信用できぬからな」
「ぼんくらが信用できないって……どれだけぼんくら王家ですの」
「リチア嬢、先ほどから殿下をぼんくら呼びされてますよ」
あら。つい、うっかりしてましたわ。
「失礼いたしました、殿下」
「今更だろ、リチア」
「まあそうですが、一応体裁というものがございますから」
社交界の薔薇ですのよ、わたくし!淑女中の淑女ですの。
「いつからご存じでしたの?」
「そう、だな……きっかけは宝物庫、だな」
「あの王家の血筋でないと開くことのない、あの宝物庫ですか?」
「あら、殿下は宝物に興味ありましたの?」
欲を持たないように育てられてたはずですのに。
「いや、宝物庫前の護衛がな、私を使って開けようとしたんだ」
天才的発想ですわ!素直な殿下なら疑うことなく開けてくれそうですわ。
「まあ、開けてしまったんだな」
本当に開けてしまいましたの!?やっぱりぼんくらですわ!
「学園に入るまでは私に四六時中張り付いてる護衛はいなかっただろ?昼はおまえたちがいるが夜が暇でな、一人城の中をうろうろしてたんだ」
徘徊してないで寝ればよろしいでしょう。
「そこで目をつけられたんだろうな」
「ぼんくらですわね」
「否定できませんね」
殿下、今度わたくしと城内ツアーいたしませんこと。護衛は撒いて。
「宝物庫の中に更に部屋があってな、護衛が宝漁ってる間その部屋に入ったんだ」
「宝を漁っているのを止めるのが先では?」
「欲しいなら好きなだけ持っていけばいいと、あの時は思っていたからなぁ」
「ぼんくらですわぁ」
でもぼんくらに育てたのは王家ですもの、仕方ありませんわね。
「そこに禁書があった」
「禁書、ですの」
「そうだ。建国王の真実、だ」
「やはり建国王の逸話がないのは、あえてなのですね」
うなずいてぼんくらが語りはじめましたわ。ぼんくらはぼんくらのくせにいい声してますのよ。とても耳障りのいい声ですわ、内容は最悪ですけど。
巡礼の旅をしている聖女を無理矢理囲い込み、無理矢理、子を作った。
子を人質に聖女を縛り続け、国の繁栄を祈らせる。
一度くだされた言祝ぎは取り消すことができない。
二代目まではよかった。聖女の子が王となり、国は栄えた。
建国王の本当に愛した女が産んだ子は王になれなかった。
だが、更にその子。建国王から見ての孫は可愛くて仕方がなかった。どうしても我が孫に王位を。
所詮聖女はこの国の繁栄のための道具。なにをその子孫にまで気を使わねばならぬ。ただの人質だった奴が王などと。さらにそのこまで王になるなど許せぬ。
毒を飲ませ、病に倒れたと、その子を廃した。
『恨みます、恨みます。私がいてなぜ病気になったりいたしましょうか?この国の繁栄、祈りましょう。末永く、いつまでもいつまでも。その子をあの子と同じ時に命を捧げるのなら。なにもしなくても、富むように。なにもしなくても守られるように。
この国に呪いを、私の命と引き換えに!』
「そうして、聖女様は建国王の前で首を掻き切って呪いを成就させた」
「まあ、ずいぶんアグレッシブですのね」
ですが、聖女様の気持ちもわかりますわ。そのようなときになったら、きっとわたくしも……。
あら、わたくしならクズを道連れにしますわね。
「なぜ聖女様はご自身の命を懸けてしまったのでしょう。そんな気概があるならクズと、その家族をやってしまえばよろしいのに」
「クズって建国王?」
「そうですわ。聖女様には同情いたします。ですが、孫を殺された腹いせに子孫を生贄にするなんて」
「それだけ恨みが深かったんだよ」
わかりますわよ。本人を直接攻撃するより、周りを攻撃した方が辛いというのは。ですが……。
「そのせいでぼんくらが生贄だなんて……わたくしは聖女様を恨みますわ」
「リチア……」
「ねえ殿下。そんなクズが興した国のために生贄になる必要がありますか?」
「……民を、民を守らなければ。私はぼんくらだが、王家の者だからな」
まあ!このぼんくら自覚がございましたのね。
ぼんくらはなかなか強情ですわ。
このわたくしが誘ってあげているというのに、首を縦に振らないなんて。どういうことですの?
「もう、ひと月もない。おまえたちはなにをのんびりしている」
「一緒に行くと言わないからですわ」
「そうですよ。殿下が残るなんて言うから、私たちは出ていけないんですよ」
わたくしたち、きっと、殿下が抵抗しなくても一緒に生贄にされますわ。
だって、わたくしの誕生日は殿下のふた月後ですのよ。
例年なら今の時期にはパーティの段取りをしてましたわ。今年は一切、お話が出ませんもの。
お父様に聞いても「サプライズを用意しているから」と言われましたわ。
本当かしら?
わたくしの次の誕生日が来ないのが決定してるのではないかしらね?
「だから、もう他人ごとではございませんのよ。わたくしたちとユリさんは、生贄仲間に決定されていますわ」
「わかっているなら早く逃げろ」
「そのままお返しいたしますわ」
「……ユリはどうなる?」
「ユリ嬢一人いても儀式はできませんからね。どうにもならなんじゃないですか?」
どうあがいてもユリさんは逃げることはない、とぼんくらなりにわかっていますでしょう?
濁りのない純粋な気持ち?
ぼんくらへの想いじゃございませんわよ。愛国心ですわ、ただの。
「私が逃げたら……この国は、どうなる」
「周辺諸国と同じ、ただの国になるだけですわ」
「え?」
あら?わかってませんでしたの。さすがぼんくらですわ。
「強国?ただのズルですわ」
「聖女の力を使った卑怯な裏技です」
「そうですわ。そのうえその聖女の力さえ、不正に得たものですのよ?」
「……ずる……ひきょう……ふせい?」
「なにもしなくても富む?なにもしなくても守られる?本来王家の仕事ですわ!」
神の御業ではなく、人の手でするべきことですわよ!
「聖女の力が消えたとしても、それは逃げた生贄のせいじゃなく、今までなにもしなかった王家、貴族、そして民草すべての責任ですわ!」
わたくしたちだけに押し付けるなんて、図々しいですわ。
前回の失敗から百年以上の時間があったのに、なにも手を打たなかった王家がぼんくらなんですわ。
「逃げるとしても……私はこの部屋以外一人になることは、ない」
「護衛ですか」
「そうだ。それに、うまく逃げれたとしても私たち三人でどうやって生きていく?ぼんくら三人だぞ?」
え?ええええ?わたくし?わたくしもぼんくらですの?
ぼ、ぼんくらからぼんくらと思われていたなんて……っ!!
「ぼんくらはしょせんぼんくらですわね!例え野垂れ死んだとしても、他人の思惑で死ぬよりマシじゃございませんこと?」
まあわたくしは死ぬつもりはこれっぽっちもございませんけど!泥水すすっても生き延びてやりますわぁ!
「……リチアはやっぱり格好いいな」
「本当に、リチア嬢は男らしいですね」
わたくし、社交界の薔薇ですのよ!バ・ラ!
淑女中の淑女に、誉め言葉を間違えてますわ。やっぱりぼんくらですわね。
あら、困りましたわ!
脱出計画がなにも思いつきませんことよ。
もしかして、本当に私もぼんくらなのかしら?
……いいえ!断じて違いますわっ!
「お買い物に行きますわよ!」
「どうした急に」
「なにをのんびりしてますの!もう十日ですのよ!」
「のんびりしているわけではありませんよ。きちんと私が計画を立てて――」
「待てませんわっ!!」
そしてぼんくらその2のシュウメイ様も信じられませんわ!
「……ちなみに買い物へ行ってどうするのです?」
「内緒ですわ」
気になりますでしょ?でも内緒ですわ!
ぼんくら二人に教えてしまったら、気付かれてしまう可能性がございますもの!
「ユリさんへのサプライズプレゼントを買うと言えば、ユリさんはついてこないでしょ?」
これで情報が漏れてもユリさんは邪魔をしに来ませんわ。
わたくしがよく利用していた貴金属店ですわ。
普段は自宅の方に来ていただいてますが、本日はお伺いしますわよ。
「……ユリにはどっちが似合うだろうか」
店の中で目を彷徨わせながら、わたくしを呼びましたわ。なかなか演技派ですわね。
「おい、ここからどうするつもりだ」
「裏口から出て護衛を撒きますわ」
こそこそと入り口付近に立っている護衛に聞こえないように内緒話ですわ。
ぼんくら二人が驚いてますわね。
ふふふ、わたくしの完璧な計画に恐れおののいてますのね。あがめてくださってよろしくてよ。
「……どうやって三人同時に裏口に向かうつもりだ」
「素人に撒かれる護衛はいませんよ」
あ、あら?
「だ、大丈夫ですわ。次の手がありますわ」
優秀なわたくしが二の作戦を考えないわけないでしょう。
「……ちなみに?」
「裏道でぶん殴りますわ」
邪魔なら倒せばいいのですわ!
「おまえがか?無理だろう」
「ご安心くださいませ。お父様の靴下を拝借いたしまして、その中に石を詰め込んでますわ」
ドレスの中は抜群の隠し場所ですのよ。少々重いですが、我慢ですわ。
「……りちあ」
「……りちあじょう」
あら?尊敬のまなざしではなく、なんか哀れまれてませんこと?
まあ、気のせいですわね。
さあ!店を出て裏道へ誘導いたしますわよ!
「殿下、このような裏道は治安が良くありません。できるだけ大通りをお通りください」
……こ、こまりましたわ!
殿下もシュウメイ様もひっやひっやの視線向けてきますわ!
もしかしてわたくし、本当にぼんくらなのかしら。
「リチア嬢。儀式の日までお待ちください、必ず助かりますから」
「……それに失敗したら後がありませんのよ?」
「ですがここで護衛を襲撃したら、もう二度とチャンスは訪れませんよ」
殿下が護衛の気を引いている間に作戦会議ですわ。
「いったいどのような計画ですの?」
「隣国にこの国の秘密をばらしました」
「っ!」
生まれてからずっと国境でいつも小競り合いをしている国に、ハリボテが剥げる日を教えた、ということですわね?
「……売国奴です、私は」
「国が先にわたくしたちを売りましたわ」
やられたからやり返しただけですわ!後悔する必要なんてございませんことよ。むしろざまあみろと正面切って笑ってやればよろしいのですわ。
「殿下、そろそろ城に帰還いたしましょう」
なにも、なにも……できませんでしたわね。
「あ、ああ……あと一軒だけ寄ってよいか?」
「それは」
「付き合ってくれたリチアとシュウメイに感謝の品を選びたいのだ」
「……一軒だけですよ」
このぼんくらは、なにを諦めきった顔をしてやがりますの!?
いいですわ。大通りだろうと、わたくしが護衛をぶんなぐって差し上げますわ。
しまったですわ!!!
スカートをめくらないと武器がとれませんわ!さ、さすがに往来でそれは―――…
…――—鐘が、鳴ってますわね?
「殿下、今すぐ帰還いたします!」
「な、なぜ」
「あの鐘は緊急を知らすものですっ」
ひ、ひとが波のように押し寄せてきてますわ。
遠くに見えるあの目立つ色は……隣国の兵士ですわっ!!
「失礼します!」
あ、ぼんくらを抱えてどこへまいりますの!?渡しませんわよ!
「――グッゥ…」
恥じらいなんて今だけ捨て去りましたわ!
お父様の靴下、素晴らしいですわね。護衛が見事にぶっ倒れてくれましたわ!
「逃げますわよ!」
ぼんくら二人の手を右と左に握って、走りますわよ!
途中財産を隠していた家に寄って、着替えをしましたわ。
服に対して、えらくお顔がキラキラしてますわね。仕方がないので、道端の泥をすくって掛け合いましたわ。
「なんでっ!儀式当日に襲撃する予定だったはずっ!」
「襲撃者が本当の期日を教えてくださりますの?随分ご親切ですわね」
嘘か真かもわかりませんのに。
シュウメイ様も、なんやかんやで素直な方ですものねぇ。
あ、八つ当たりで泥を投げるのはやめてくださる?
面倒ですわね。道に転がって汚しましょう。
ほら、二人とも呆然としてないで、転がるんですわ!
「あははははは!」
「どうしましたの?あなた気が触れましたの?」
せっかくうまく城門から抜け出せたのに。
「道端で転がっているのがおかしくて」
「仕方ありませんでしょう?あなたのそのきらっきらっの金髪は目立つんですのよ」
シュウメイ様もですよ!もちろんわたくしも。
「さあ、二人ともさっさと汚してもっと遠くに逃げますわよ」
起死回生の一手ですもの、あなたは。
「リチア……わたしは生きて、いいかな?」
「まあ!ぼんくら返上したと思ったらやっぱりぼんくらですのね」
「……いつの間に返上してたんだ?」
シュウメイ様も驚いてますわね?
「そんなの逃げだした時ですわ!」
「え?」
「ぼんくらが意思を持ったらぼんくらじゃございませんのよ!」
言われるままに生贄になろうとするなんて、ぼんくら以外なんと言いますの!
「そうか……そうだな……」
わたくしたちはぼんくら三人組なんかじゃありませんことよ。
「馬を調達しましょう」
「わたくし乗れませんわ」
「こんな格好で馬に乗ってたら目立つだろ」
歩きましたわ!
ひたすら、ただ歩きましたわ。
疲れて諦めて、いっそ倒れてしまいたかったですが、目の前の夕日がやけにきれいで頑張れましたわ。
背中方面も真っ赤に燃えておりましたわぁ。
ああ、あまり美しくありませんのね。
あ……ぼんくらの名前出すの忘れてましたわ!
評価していただけると嬉しいです。




