異世界におけるマナーの重要性_私の言うことを聞かなかった妹は破滅する
ソフィアが15歳の時、妹が増えた。
名前はセリン。父がメイドに生ませ市井に囲っていたのを、母親であるメイドが死んだからと家に引き取ってきたのだ。
我がウィルソン伯爵家には、嫡男であるお兄様と他の伯爵家との婚約が決まった私が既にいる。お兄様は寄親の侯爵家からお嫁さんを貰ったし、私だって王宮魔術師団に勤めている婚約者デイビットがおり地盤だってしっかりしている。政略結婚の駒だとしても必要ではないだろう
お父様は何を考えているのかしら援助だけしてそのまま市井に放っておけば、のびのびと自由にさせてあげられたのに。そのメイドの姉…セリンの叔母だって彼女を引きとるつもりだったという
彼女はもう13歳…13歳と言えば、普通であればひと通りの"貴族としての教育"が終わり、公の場所に出る社交などに始める年齢だ。
今からではどう頑張っても付け焼き刃になってしまうし、急ピッチで礼法を習得しなければならないのも苦労するだろう
執事が言うところによると、早々家庭教師から逃げだしてしまいガゼボでお菓子を食べているらしい
父の浮気に思うところがないで訳ではないけれど、セリンが悪い訳ではないわ、せっかく家族になったのだし年長者として導かないととソフィアは意気込んだ
中庭のガゼボに近づくと、ウッドチェアに腰掛けた少女が振り返る。テーブルにはさっきまで食べていたのか、焼き菓子のカケラが散乱している
ピンク色の髪に、クリクリとした桃色の瞳、庶子として苦労したのだろうか小柄な体と相まって大変可愛らしい少女であった。
父譲りのシルバーの髪にコバルトの瞳、キリッとして冷たい印象の顔立ちのソフィアとは大違いだ
「セリン、アトキン先生がお待ちしているわよすぐに行きなさい」
「嫌だわあの先生きびしいんだもの」
「貴方のためよ淑女として必要なことです。最低限のマナーが出来なければ貴族として生きていくことはできないわ」
「お父様は辛いならやめていいよって言ったわ。表情を変えちゃいけなかったり、足音立てないとか背を向けない歩き方なんてバカみたい!アタシには要らない、お姉様のそれは嫌がらせよ!」
セリンは私を睨みつけると、逃げるようにその場を去った
ソフィアは嘆息した。貴族の礼法というのは中々窮窟だし、幼い頃からの下地がないセリンには難しいものだろう。けれど、貴族としてやっていくためには必要なものなのに、お父様もあのように甘やかせて。
テーブルをよく見ると、ソフィアの刺繍したハンカチが広げられていた。焼き菓子の入れ物に使われたのかシミが付いてしまっている。最近小物がよくなくなると思ったら…ソフィアはもの悲しい気持ちになった
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待ちぼうけをくらったアトキン先生は大変ご立腹されたようで、慇懃にもう来ないと言った。貴族の家庭教師というものはすぐ見つかるものではない、まだ成人したばかりのソフィアにツテはなく次の家庭教師が来るのに何ヶ月もかかる。
ソフィアは謝り倒しなんとか家庭教師を続けてくれないかとお願いしたが「本人にやる気がないようでは意味がないでしょう」と言われると返す言葉もなかった。
その事を伝えるために、父の書斎を訪れると。父は古めかしいアンティークのアームチェアに腰をかけ、ゆったりと珈琲を楽しんでいるところだった
「お父様、セリンが家庭教師を放置してガゼボに行ってしまいました、アトキン先生は次から来られないと」
「ソフィア、気にすることはない。アトキン先生には私からも謝罪を入れておこう。家庭教師はもうよい、セリンは可愛いんだからそれで十分だ」
「マナーを身につけなければ、貴族としてやっていけません!甘やかしてはあの子のためになりませんわ」
「セリンに礼法は要らぬよ。この話はこれでお終いだ」
ガチャリと音がすると、書斎にセリンが入ってくる。まったくノックもできないなんて!ノックは相手の領域入る承認を得る作法…他所でも同じことをやって"高貴なお方"の興味を引いてはまずい
「セリン!ノックをしてから部屋に入りなさい、また返事を待たずに部屋に入ってはなりません!」
セリンは私をバカにしたような目で見ながら横を通り過ぎると、父に抱きついた。
「パパ!新しいお洋服買ってちょうだい!」
「おおいいとも私の可愛いカナリア」
父はセリンの頭に手を当て、まるで猫でも可愛がるかのように髪をくしゃくしゃにした。
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ある日の晩餐の席。
兄は王宮に出仕しておらず、母も父の浮気の結果であるセリンを視界に入れたくないようで、父とソフィアとアトリの三人だけの晩餐だった
テーブルにはローストビーフと生ハムを使ったミートパイにスパイスの効いた鶏肉のスープといった豪華な料理が並んでいるが、二席分の空白が無関心と嫌悪を表していた。
父がとても優しげにセリンを、今度王宮で行われる社交会に誘った。
「セリン、今度王宮でダンスパーティーが行われるのだが来てみないかい?"蒼の貴公子"がおいでになられるよ。この国に最近新しくやって来たお方で、金色の御髪に宇宙のように蒼き瞳を持ったこの世のものと思えないほど美しい"高貴なお方"だよ」
「王子さまなのね!かわいいアタシにピッタリだわ!」
「かわいいセリンならきっと見初められるだろうね」
ソフィアは慌ててセリンが"高貴なお方"との社交にでるのを止めようとした
「セリン、ダンスパーティーはお断りなさい貴方にはまだ早いです。それにあそこは煌びやかだけではないのよ、礼法が守れてないものにとって"高貴なお方"は恐ろしい存在よ」
「あらお姉さま、王子様を狙っているの?嫉妬?醜いわ」
セリンはクスクスと笑っている、彼女は完全にソフィアを敵対視してしまっている、ソフィアは途方に暮れた
父の方をみると、一見やさしげな表情をしていたが目は冷え切っていた。
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今日は待ちに待った王子さまとお会いする日
いっぱいおめかしして可愛い私は王子さまと恋に落ちるのよ!お父様もキレイなアクセサリーをいっぱいつけてくれたわ、お姉さまは誘引器だとか言って奪おうとしたけど全部守り抜いたの!
"蒼の貴公子"はいったいどこの国の王子様かしら?でもお父様の言った感じならすっごいイケメンよね!
お父様が誰よりも早く会いなさいと言って王子様の控室を教えてくれたの
急いでダンスパーティーの会場から抜け出して、ガチャリッと王子様の控室を開けると
そこにいたのはまるで物語から出て来たように美しい金髪碧眼の王子様だった、とびっきりの笑顔でアタシの可愛さをアピールする
「王子さま」
「こんにちわ、可愛らしいお嬢さん。私は恋に落ちてしまいました」
私の唇に王子様の口が重なる
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ソフィアがセリンが居ないのに気付いて、"蒼の貴公子"の控え室を訪れた時にはもう手遅れであった
セリンは口付けを交わしていた
神々しく煌めく金色の触手で作られた柱に、数え切れないほどの無数の白く濁った蒼き瞳が埋め込まれている。正気を保てないほど美しい怪物と
セリンの小さな口には金色の触手が何本も突き刺さり、触手の柱に伸ばされた腕は絡め取られてドレスの端さえ見えない
さらにセリンを包み込む触手が増えると、彼女は触手の柱に飲み込まれて見えなくなった
おぞましくも目を奪われる光景だった、セリンの蕩けたように幸せそうな顔が目に焼きついて離れない。ソフィアはそこからどう家に帰ったのか覚えていない
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「セリン・ウィルソンの記録をとるぞ。まず入室時の反応からだ。」
「入室前に反応はない。部屋の外は領域に含まれていないようだ」
「それは上等だな、禁忌行為はなにか分かったか?」
「やたらとバタバタ足音たてるのにも反応していたがまぁ、最後のトリガーを引いたのは笑顔で話しかけること…つまり"愛着"だな"蒼の貴公子"は"愛着"を示されるとああなるようだ」
「ゲェッ、体は完全に触手に溶けちまって顔しか残ってねぇのに、薬キメタみたいに幸せそうだぜ」
「おおかた、王子様とイチャイチャしてる夢でも見てるんじゃないのか。まぁ正気を保っているよりマシだろう」
「まぁこの娘のおかげで"蒼の貴公子"も人間を喰れて満足したようだし取扱礼法も確立できそうだ感謝しないとな」
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父の書斎
父は古めかしいアンティークのアームチェアに腰をかけ、ゆったりと珈琲を楽しみながら機嫌が良さそうに言う。
「礼法研究局から連絡があったが、"蒼の貴公子"に対する作法も確立出来たらしい。"蒼の貴公子"も我々の骨身を削った接待を受けてご機嫌であるとのことだ」
ソフィアは何も言えずに俯いた、セリンへの哀れみと無力感で胸が締め付けられた。
王宮から礼法研究局の知らせを持って来てくれた、婚約者のデイビットが優しく抱きしめる
「君は十分頑張ったさソフィア。ウィルソンに来るという選択をしたのもマナーを身につけなかったのも彼女自身だ君は悪くないよ」
我々貴族の役割は、高貴なお方々のお相手をして様々な助力を得ることだ。マナーとは"事故"を起こさないための、身を守るための技術である。高貴なお方々は人間が大好きだけれど、彼らの好意は理解できない場合が多い
セリンは"蒼の貴公子"に対するマナーを開発するための生贄だったのだ。
みてくださってありがとうございます!
この世界ではSCPみたいな高貴な方がいっぱいいます
ノックしないと侵入者だし可愛がってもいいよね!と思われ
背中を向けると好意(物理)を示してきたりもします
INTを高めると化け物が見えて、低いと美少女美少年に見えます
ざまぁでマナーの話とかよく出てくるけどそんなに重要だろうか?時流や国によっても変わると思うし、身分か高貴な人の寵愛でもあればなんとかなりそうだと思いました。本当に命にかかわるほど重要性ならどんな世界なのかというお題でざまぁ書こうとしたらホラーになりました。




