閑話 第一六二回 王立魔導学院 学内武術競技会 -四年次- 第20話
「面白くなってきたな」
「同感だ」
短く言葉を交わした直後、フレイドとクラウスがほぼ同時に地面を蹴った。
先ほどまでとは違い、今度はクラウスも待ちに徹することなく、自ら間合いを詰めていく。
フレイドが右足へ重心を乗せた瞬間には、その先から剣が来るより早く、クラウスの剣先が踏み込みを阻む位置へ差し込まれていた。
フレイドは踏み込みを途中で止め、空いた左手をクラウスへ向ける。
魔力が集まり始めるが、術式が完成するより先にクラウスが横へ半歩ずれ、その射線から身体を外した。
「……やっぱり、そこまで見てるか」
フレイドは魔法を発動せず、集めていた魔力を霧散させると、そのまま身体を沈めた。
先ほど止めた右足ではなく左足から踏み込み、予想していた軸とは逆方向から剣を走らせる。
クラウスは咄嗟に防御術式を展開し、迫る刃の軌道を外側へ逸らした。
その瞬間、フレイドの左手へ再び魔力が集まり、クラウスの視線が僅かに動く。
魔法が来ると判断して身体を射線から外そうとするが、今度も術式は現れなかった。
「っ!」
フレイドは魔力を集めただけで発動せず、クラウスが自ら動いた方向へ一歩踏み込む。
下から跳ね上がった剣が脇腹を狙い、クラウスは身体を捻りながら自分の剣を差し込んだ。
甲高い金属音が響き、押し込まれたクラウスの足が石畳を滑る。
「……そう来るか」
距離を取りながら呟いたクラウスに、フレイドが口元を緩める。
「前を見るんだろ?」
「ああ」
「なら、見せるものを増やせばいい」
「簡単に言ってくれる」
先ほどとは立場が逆転したような言葉に、フレイドの笑みが僅かに深くなった。
控え席から二人を見つめていたアリスも、その変化に気づいている。
「……やっぱり変えてきた」
「魔法を撃つふり?」
「それだけじゃない。踏み込みも剣も、たぶん全部」
クラウスが読み始めたのは、攻撃が生まれる直前の重心と魔力の動きだった。
ならばフレイドは、その情報自体を本物の攻撃と偽物の攻撃へ混ぜ始めている。
右足へ重心を移したからといって、必ず右から踏み込むとは限らない。
左手へ魔力を集めても必ず魔法を発動するとは限らず、攻撃の前兆だったはずの動きそのものがクラウスの判断を誘導する手段へ変わっていた。
「……嫌な戦い方」
「レティアが言う?」
「私はあそこまで性格悪くないわよ」
「本人に聞かせない方がいいと思う」
そんな二人の会話をよそに、試合場では再び剣と魔法が交錯する。
フレイドが左手を突き出した瞬間、正面へ三つの術式が展開された。
放たれた三発の魔力弾は中央の一発だけが僅かに速く、残る二発はクラウスが左右へ逃げた場合の進路を塞ぐように遅れて迫る。
クラウスは中央の魔力弾へ剣を合わせるが、そのまま斬ることはしなかった。
刃を斜めへ傾け、接触した瞬間だけ魔力を纏わせることで軌道を上へ逸らし、続く右側の一発には薄い防御術式をぶつける。
さらに角度を変えた魔力弾を左側から来た一発へ衝突させ、二つの魔法を空中で爆発させた。
魔力の光が視界を覆い、その向こうからフレイドが飛び込んでくる。
「そこか!」
クラウスが振り向きざまに剣を横へ振り、フレイドの剣と正面からぶつかった。
甲高い金属音とともに火花が散るが、フレイドは押し合うことなく先に力を抜き、クラウスの剣を前へ流す。
空いた肩口へ剣が走るものの、クラウスも身体を半回転させ、迫る刃を紙一重でかわした。
その回転の途中で左手をフレイドへ向け、細く絞った魔力の光条を一直線に放つ。
「っ!」
フレイドは反射的に剣を立て、その前へ防御術式を重ねた。
光条が術式へ激突して薄い防壁を大きく歪ませ、衝撃に押されたフレイドの身体が後方へ滑る。
完全には受け止めず、途中で術式の角度を変えることで光条を斜め上へ逃がした。
逸らされた魔力が競技場上空へ伸びて消えるより早く、クラウスはすでに追撃へ移っていた。
剣を右上から振り下ろしながら左手に二つの術式を浮かべ、フレイドが剣を受けようとした瞬間、二発の魔力弾を低い軌道で左右から足元へ撃ち込む。
「そう来るか!」
フレイドは受けるはずだった剣を引き、後方へ跳んだ。
クラウスの斬撃が胸元の直前を通過し、二発の魔力弾が着地点を追う。
フレイドは空中で左手を振り、二つの小さな術式から魔力弾を撃ち返した。
一発は正面から衝突して相殺され、もう一発は僅かに軌道を変えながらフレイドの左側を掠め、石畳へ炸裂する。
爆発の衝撃で着地が僅かに乱れたところへ、クラウスが一気に踏み込んだ。
だが、フレイドも待ってはいなかった。
着地した足を踏ん張るのではなく、そのまま衝撃へ身体を流してクラウスの正面から外れる。
同時に左手を石畳へ向けて術式を発動すると、小さな衝撃波が足元を走り、クラウスの踏み込みを下から崩した。
「なっ――!」
クラウスの身体が僅かに浮いた瞬間、フレイドが一気に距離を詰める。
右から放たれた横薙ぎをクラウスは剣で受け流し、そのまま返そうとするが、フレイドの左手はすでに胸元へ向けられていた。
至近距離から放たれた魔力弾へ、クラウスは咄嗟に防御術式を挟む。
魔力弾が障壁へ激突して白い光が二人の間で爆ぜ、その光を突き抜けるようにフレイドがさらに踏み込んだ。
クラウスも退かず、互いの剣がほぼ同時に振るわれる。
魔力の残光の中で二度、三度と刃が激しく衝突し、その隙間を縫うように小さな魔力弾が至近距離から撃ち込まれた。
フレイドが魔力弾を剣で弾き、クラウスが返された魔力弾を防御術式で逸らす。
逸らされた魔力弾がフレイドの背後へ着弾し、爆ぜた衝撃が背中を押した。
フレイドはその力へ逆らわず、前へ押された勢いをそのまま踏み込みへ変えてクラウスの懐へ飛び込む。
クラウスが剣を差し込むより早く、その根元へ自分の刃をぶつけて軌道を外し、そのまま肩を入れて身体を押し込んだ。
体勢を僅かに崩したクラウスへフレイドが剣を返し、横薙ぎの刃が腰へ装着された軽量アーマーを捉える。
乾いた音が響き、一つ目の軽量アーマーが石畳へ転がった。
「……取った」
レティアが思わず呟く。
観客席から大きな歓声が上がる中、フレイドは追撃せず、一度距離を取った。
クラウスも落ちた軽量アーマーへ一瞬だけ視線を向けたあと、すぐに剣を構え直す。
「一本目だな」
「ああ」
「まだ二つある」
「分かっている」
クラウスの表情に焦りはなかった。
むしろ、一つ失ったことで何かを確かめたように、フレイドの足元から左手、剣先へとゆっくり視線を動かしている。
フレイドが再び左手へ魔力を集める。
今度も発動するかどうかは分からないが、クラウスは魔力そのものには反応せず、フレイドの腰が僅かに沈んだ瞬間だけ剣先を動かした。
フレイドが踏み込むと同時に魔法が放たれ、正面から魔力弾が迫る。
さらに僅かに遅れて右側から剣が走り、二つの攻撃が異なる軌道からクラウスへ重なった。
クラウスは魔力弾を避けず、左手を正面へ突き出して薄い防御術式を斜めに展開する。
魔力弾が術式へ触れた瞬間、その軌道が大きく横へ変わった。
逸らされた魔力弾が向かった先には、踏み込んできたフレイドがいる。
「なっ……!」
自分の魔法を返されたフレイドが、咄嗟に踏み込みを止める。
その僅かな停止を逃さず、クラウスは剣を受けるのではなく、自ら前へ出た。
フレイドの横薙ぎが完成するより先に懐へ入り込み、剣を振るために開いた脇腹へ自分の剣先を滑り込ませる。
乾いた音が響き、フレイドの一つ目の軽量アーマーが外れて石畳を滑った。
「おおおおっ!」
競技場を揺らすような歓声が上がる。
「……やり返した」
「それだけじゃないわね」
アリスは小さく頷いた。
クラウスはフレイドが見せる前兆の真偽を、すべて見抜こうとすることをやめていた。
本物か偽物かを判断するのではなく、どちらだったとしても対応できる位置と距離を選び始めている。
偽の前兆に反応させられるなら、最初から反応しない。
本物の攻撃が始まった瞬間だけ、その結果として生まれる軌道を利用する。
「……また変えたんだ」
「たぶんね。全部読むのを諦めたんだと思う」
「それでフレイド先輩についていけるの?」
「全部読むよりは、たぶん」
アリス自身、剣術部門の決勝でフレイドの変化へ対応し続けたからこそ分かる。
相手のすべてを読もうとすれば、一度でも予想を外された瞬間に後手へ回る。
ならば読む範囲そのものを狭め、本当に攻撃が始まった瞬間だけを見る。
クラウスは自分の得意な迎撃へ戻りながら、その迎撃を一段階変化させていた。
フレイドも、それに気づいたらしい。
「今度は読まないことにしたか」
「正確には、必要のないものを見ないことにした」
「なるほど」
フレイドが剣を肩の高さまで持ち上げる。
「だったら――これはどうだ?」
次の瞬間、フレイドの周囲へ六つの術式が同時に浮かび上がった。
「えっ?」
レティアが目を見開く。
それまでフレイドが使っていた魔法は、剣撃の途中へ差し込む一発か、数発の魔力弾が中心だった。
だが今度は正面だけでなく左右にも術式が展開され、明らかに一度の迎撃だけでは処理できない数の魔力弾が形成されていく。
クラウスも剣を下げ、左手を前へ向けた。
「来い」
フレイドの術式が一斉に輝き、六発の魔力弾が放たれた。
正面から二発、左右からそれぞれ一発、残る二発が僅かな時間差をつけ、クラウスが最初の攻撃を回避した先へ重なる。
クラウスの前へ三枚の薄い防御術式が展開された。
一枚目へ正面の魔力弾が激突するが、障壁は破壊される直前に傾き、魔力弾の軌道を隣の一発へ向ける。
二発の魔力弾が衝突して爆ぜ、その衝撃へ左右から来た魔力弾が巻き込まれて軌道を乱された。
クラウスは右側の一発を剣で弾き、左から迫った一発を身体を沈めてかわす。
最後の一発が正面へ迫ると、クラウスは左手を振って魔力弾を撃ち返した。
二つの魔法が正面から衝突し、激しい光が弾ける。
その中心を突き破るようにフレイドが飛び込んできた。
振り下ろされた剣へクラウスが防御術式を展開し、刃が術式へ食い込む。
表面を滑ったことで軌道が僅かに外れるものの、完全には逸らしきれず、剣先がクラウスの肩口を掠めた。
そのまま軽量アーマーへ刃が触れ、乾いた音とともに二つ目が外れる。
「……あと一つ」
レティアの声から、先ほどまでの余裕が消えた。
フレイドは二つ、クラウスは一つ。
残る軽量アーマーの数だけを見れば、フレイドが明確に有利だった。
だが、アリスはそう簡単には考えなかった。
「まだ分からない」
クラウスが大きく距離を取り、フレイドも追わずに剣先を下げたまま相手を見る。
互いに呼吸が僅かに荒くなり、これまで使い続けた魔法と激しい近接戦闘が確実に体力を削っていた。
それでも、二人の目から集中は失われていない。
先に仕掛けたのはクラウスだった。
左手を横へ振ると四つの術式が扇状に展開され、放たれた魔力弾はフレイドへ直接向かわず、左右へ大きく広がった。
その中央を、クラウス自身が一気に駆け抜けていく。
「……?」
フレイドが僅かに目を細め、迎撃しようと剣を構える。
その瞬間、左右へ広がっていた魔力弾が緩く軌道を変え、斜め後方から挟み込むようにフレイドへ迫った。
「曲げたか!」
フレイドは左手を後方へ向けて防御術式を展開し、右側から迫った魔力弾を受け止める。
左から来た一発は身体を沈めてかわし、残る二発には自ら魔力弾を撃ち返した。
二度の爆発が連続して起こり、魔力の光がフレイドの左右へ広がる。
だが、その間にもクラウスは止まらず、爆発の光を突き抜けて正面から剣を振り下ろした。
フレイドが剣で受ける。
クラウスは押し込まず、接触した剣を左へ滑らせながら足元へ小さな術式を展開した。
石畳へ叩きつけられた魔力が衝撃となって広がり、フレイドの足元を揺らす。
重心が僅かに浮いた瞬間、クラウスが剣を返した。
「っ!」
フレイドは身体を強引に捻って刃をかわし、そのまま後方へ跳ぶ。
クラウスが追い、フレイドは空中から三発の魔力弾を撃ち下ろした。
クラウスは一発目を剣で外へ弾き、二発目へ防御術式を斜めにぶつける。
真正面から迫った三発目には自らの魔力弾を撃ち返し、二つの魔法を空中で衝突させた。
爆発の衝撃が着地直前のフレイドを襲う。
フレイドは剣を石畳へ突き立てるようにして身体を支えるが、その瞬間にはクラウスが目の前まで迫っていた。
剣が走り、フレイドが受ける。
一撃目を受け流した直後には二撃目が迫り、さらにその隙間へ小さな魔力弾が差し込まれた。
フレイドも剣で受け、魔法で相殺し、防御術式で逸らしながら一歩も引かない。
剣と剣、魔法と魔法、そして剣と術式がほとんど間を置かずにぶつかり合い、二人の周囲では火花と魔力の光が絶え間なく弾け続ける。
フレイドがクラウスの剣を大きく外へ弾くと、同時に左手を向けた。
クラウスも左手を突き出し、ほぼ同時に放たれた二つの魔力弾が互いの間で激突する。
爆発の衝撃が二人を左右へ押し分けるが、どちらも倒れない。
フレイドは流された勢いを利用して回転し、そのまま剣を横へ振った。
クラウスは身体を沈めてかわし、低い位置から斬り上げる。
フレイドが剣で受けた瞬間、クラウスの左手が足元へ向けられた。
魔力が石畳で弾け、フレイドが横へ跳ぶ。
そこへクラウスの剣が追いかけるが、フレイドは空中で身体を捻り、剣の腹へ自分の刃を当てて軌道を外した。
着地と同時にフレイドが左手を向け、至近距離から魔力弾を放つ。
クラウスが防御術式を展開すると、魔力弾がその表面で爆ぜた。
その衝撃の中からフレイドが踏み込み、クラウスも同時に前へ出る。
二本の剣が交差し、互いの身体がすれ違った。
乾いた音が響く。
「……!」
フレイドの二つ目の軽量アーマーが石畳へ落ちた。
二対二。
競技場から爆発するような歓声が上がった。
「並んだ……!」
レティアが思わず身を乗り出す。
アリスも無意識に膝へ置いていた手へ力を込めていた。
残る軽量アーマーは互いに一つ。
ここから先は、たった一度の判断ミスで終わる。
フレイドがゆっくり息を吐き、クラウスも剣を下げることなく呼吸を整える。
「ここまで来るとは思ってなかった」
「俺もだ」
「どっちの意味で?」
「両方だ」
「そうか」
フレイドが笑い、クラウスの口元にも僅かに笑みが浮かんだ。
「じゃあ、最後だな」
「ああ」
二人が同時に構える。
フレイドの左手へ魔力が集まり、その周囲へ複数の術式が浮かび始める。
クラウスも左手を開き、防御術式だけでなく攻撃用の術式まで同時に展開した。
どちらも相手が何をするのかを待つつもりはない。
先に踏み込んだのはフレイドだった。
正面から二発の魔力弾を撃ち出し、それに応じてクラウスも二発を返す。
四つの魔法が空中で交差し、一組が正面から衝突して激しく爆ぜた。
もう一組は互いに軌道を外れ、そのまま相手へ向かう。
フレイドが迫る魔力弾を剣で弾き、クラウスは防御術式で逸らす。
その間にも二人は足を止めず、互いの間合いへ踏み込んでいた。
フレイドが剣を振り下ろす。
クラウスは剣で受けず、防御術式を斜めへ展開して刃を横へ滑らせた。
その瞬間、フレイドは左手をクラウスへ向ける。
クラウスも左手を上げ、二つの術式が至近距離でほぼ同時に完成した。
互いの魔力弾が二人の間で激突し、光と衝撃が視界を埋め尽くす。
その中でフレイドは最初の斬撃を自ら捨て、剣を引いて逆方向からの横薙ぎへ切り替えた。
同時に左手へ再び魔力を集め、クラウスが後退した瞬間に魔法を撃ち込めるよう準備する。
剣を避けて距離を取れば魔法が追い、魔法を防げば剣が届く位置だった。
だが、クラウスは後ろへ下がらなかった。
前へ出た。
「なっ――!」
フレイドの横薙ぎが十分な速度へ乗る前に、クラウスがその懐へ入り込む。
フレイドは左手に集めていた魔力をそのまま至近距離で解放し、クラウスも左手から魔法を撃ち返した。
二人の間で魔力が激突し、爆ぜた衝撃が互いの身体を揺らす。
それでもクラウスは止まらず、フレイドも退かなかった。
クラウスの剣がフレイドの脇腹へ向かい、フレイドの剣もクラウスの肩口へ迫る。
互いに最後の軽量アーマーを狙い、ほとんど同時に刃を振り抜いた。
魔力の残光の中で二人の身体が交差する。
乾いた音が二つ、ほとんど重なるように響いた。
「……え?」
レティアが目を見開く。
石畳の上を、二つの軽量アーマーが転がっていた。
フレイドのものと、クラウスのものだった。
観客席が一瞬で静まり返る。
二人も互いに背を向けたまま動かない。
やがて審判が駆け寄り、落ちた二つの軽量アーマーと術式による判定記録を確認する。
長く感じられる数秒のあと、審判が顔を上げた。
「判定――!」
競技場中の視線が集まる。
「クラウス・ヴァレンディアの攻撃が僅かに先!」
一瞬の静寂が落ちる。
「勝者――クラウス・ヴァレンディア!」
次の瞬間、競技場が割れんばかりの歓声に包まれた。
フレイドはしばらくその場に立ったままだったが、やがて小さく息を吐いて剣を下ろした。
振り返ったその表情には悔しさが滲んでいるものの、それ以上にどこか満足そうな笑みが浮かんでいる。
「……紙一重だったな」
「ああ」
「次は負けない」
「俺も、そのつもりだ」
二人は短く言葉を交わし、互いに剣を下げて一礼した。
大きな拍手が再び競技場を満たしていく。
控え席では、レティアが両手を握りしめたままクラウスを見つめていた。
その隣で、アリスは決勝の相手となった六年次の騎士を静かに見つめる。
「……勝ったね」
「うん」
「レティアの希望どおり」
「そうね」
レティアはそこで一度言葉を切り、ゆっくりとアリスへ顔を向けた。
「だから、お願い」
「……やっぱり私がやるの?」
「もちろん」
「さっき子供っぽいって言ったじゃない」
「それとこれは別」
アリスは呆れたようにレティアを見る。
「ずるくない?」
そう言いながらも、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。
やがてアリスは視線を試合場へ戻す。
クラウスは歓声を受けながら控え席へ戻ろうとしており、その姿を見つめるアリスの表情から、先ほどまでの柔らかさが少しずつ消えていった。
剣術部門では、フレイドに敗れた。
そして総合部門の決勝では、そのフレイドを破ったクラウスが待っている。
アリスは膝の上に置いていた剣の柄へそっと手を添えた。
「……今度こそ、勝つ」
総合部門最後の一戦を前に、その蒼い瞳が静かにクラウスを捉えていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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ありがとうございました!




