第十三部 第二章 第2話
数分後。
戦闘の余韻として残っていた魔力のざらつきも次第に薄れ、黒石に染みついた腐臭もほとんど消え去り、空間には再びあの不気味な静寂が戻りつつあった。
立ち直ったレティアが、ぼんやりと重たげな瞼を持ち上げる。
長い睫毛がかすかに震え、青い瞳に微かな焦点が戻った瞬間――。
アリスがすっと前に出た。
足音をほとんど立てることなく滑るように距離を詰め、流れるような動作で姿勢を整える。
片手を胸に添え、もう片方の手を背に回し、優雅に頭を垂れる。
その一連の所作は一切の無駄がなく、呼吸すら計算されたかのように整い、見る者に違和感ではなく“完成された動き”として映るほどだった。
「――お目覚めですか? お嬢様」
落ち着いた声色と所作は、まるで古城に仕える執事そのもの。
戦場の緊張を引きずった一行の中で、あまりに場違いな優雅さが一瞬の静寂を生んだ。
その静寂は一拍だけ続き――。
「なっ……ななな……なにその演出はっ……!」
レティアの顔が瞬時に真っ赤に染まる。
耳の先まで熱を帯び、一気に血が上ったのが分かるほどに赤くなり、口元をパクパクと開閉しながら視線を泳がせる。
「ちょ、ちょっと待って、状況が全然追いついてないんだけど……なんで起きたらいきなり執事対応なの……!? ここダンジョンよね!? 私どこでお嬢様扱いされる要素あったの!?」
普段の気品ある態度からは考えられないほど狼狽していた。
「大丈夫だ、レティア。ミレーネもさっき気絶してたから」
ラースが気安く口を挟む。
軽く肩をすくめながらのその一言は、場を和ませるつもり半分、からかい半分といった調子だった。
その言葉に、すぐ傍らのミレーネの肩がぴくりと震えた。
「よ、余計なこと言わないで……っ」
小動物のように肩をすぼめ、顔を逸らしながら耳まで真っ赤に染める。
「ちがうの……あれはその……不可抗力っていうか……完全に精神的ダメージで……別に怖かったわけじゃなくて……いや怖かったけど……っ」
声はどんどん小さくなり、最後はほとんど聞き取れないほどに消え入りそうだった。
「さ、さっさと移動しましょう! この場には一秒たりともいたくありません!」
レティアは誤魔化すように声を張り上げる。
頬を赤いままに真っ直ぐ前を向き、そのまま勢いよく足を踏み出す。
その歩幅は普段より明らかに大きく、動揺を押し隠そうとする意志がはっきりと現れていた。
ミレーネも同じく、顔を手で隠すように覆いながら慌ただしく後を追う。
「やだやだやだ、もうここにいたくない……なんかまた出てきそうだし……っていうかさっきのこと忘れてほしい……ほんとお願い……」
その足取りは軽い駆け足に近く、恐怖と羞恥の両方から逃げようとしているのが見て取れる。
「そっち、違う方向だけど」
冷静な声でザックが指摘する。
その一言は、あまりにもあっさりとした現実の修正だった。
二人の足が、ぴたりと止まった。
「え、うそ……っ」
レティアがゆっくりと振り返る。
「……そっちですか、そうですかぁ……!」
ぎこちない笑顔を浮かべたまま、目だけが完全に泳いでいる。
そのまま信じられない速さで踵を返し、ほとんど反射的に体を回転させると、今度は正しいルートへと一気に駆け出す。
ミレーネも一瞬遅れて同じ方向へと向きを変え、慌てて後を追いながら、顔を隠したまま小走りでついていく。
残された一行は、一瞬だけ呆気にとられ――。
やがて、抑えきれずに小さく笑みを零した。
その笑いは大きなものではなく、緊張の残る空間の中で自然にこぼれ落ちるような柔らかなものであり、戦闘で張り詰めていた神経をゆっくりとほどいていく。
緊張に包まれていた胸の奥が、わずかに軽くなる。
やがて数分の行軍ののち、暗く重苦しい墓標地帯を抜け出し、一行は開けた草原地帯へと出た。
背後に残した石柱群と淀んだ魔力の気配が徐々に遠ざかり、足元の黒石がいつしか柔らかな地表へと変わり、踏みしめるたびにわずかな弾力と草の感触が伝わってくる。
夜闇の空の下、青白い草が風もないのにゆるやかに揺れ、空間に漂う光粒が星のように瞬いている。
その光は墓地の陰鬱な気配とは違い、どこか幻想的で静謐な印象を帯びており、先ほどまで張り詰めていた神経をわずかに緩めていく。
「はあ……やっと、空が見えた……」
リゼットが大きく胸いっぱいに息を吸い込み、肺の奥まで冷たい空気を取り込むようにしてゆっくりと吐き出しながら、肩から力を抜いた。
「さっきまでの場所と全然違う……空気が軽いっていうか、ちゃんと呼吸できる感じがする……あっちはずっと息止めてたみたいだったもん……」
張り詰めた空気が少しずつ溶けていき、再び進むための活力が仲間たちの間に戻っていった。
その先――遠くの丘陵の向こうに、巨大な建物の影がぼんやりと浮かび上がってきた。
黒い石を積み上げたような直線的な外観。
天を突く尖塔がいくつもそびえ、鋭く空を切り裂くような輪郭を描きながら、まるでこの領域の支配者のように存在感を放っている。
窓らしき開口部からは淡い青白い光が漏れている。
その光は生気を感じさせるものではなく、どこか冷たく無機質で、内部に何かが“在る”ことだけを静かに主張していた。
周囲の草原とは不釣り合いなほど威圧的で、見る者に「ここから先は異界だ」と告げているかのようだった。
「あの建物の先に出口があるようだ。方角的に、座標の位置と一致している」
ザックが端末を確認し、淡々とした声で告げる。
その声には迷いがなく、既にルートは確定しているという確信が滲んでいた。
しかし、その言葉を合図にしたように、アリスを除く女性陣の足が同時にぴたりと止まった。
「……いやいやいや、あんなの絶対いやな予感しかしない……」
ミレーネの声が震える。
彼女の瞳はすでに涙目で、視線は建物から逸らせずにいるのに、同時に見たくないという拒絶も強く現れていた。
「さっきの墓場であれだったのに……あの建物、絶対もっとひどいやつでしょ……見た目からして“ボス戦会場です”って言ってるようなもんじゃん……無理……ほんと無理……」
「ねぇザック、本当にそこ通らなきゃだめ? ほんのちょっとでいいから、別ルート探してみよ?」
リゼットが必死に両手を組んで祈るような仕草をし、視線で懇願する。
「お願い……お願いだから……さっきのでだいぶ心削られてるの……もうちょっと優しいルートない……? 草原とかこのまままっすぐ行くとか……なんとかならない……?」
「お願い、すがるから……!」
レティアまでが腕を掴むようにして迫り、普段の落ち着いた様子からは想像できないほど切実な声音を漏らした。
「せめて、あの建物を避けるルートがあるかだけでも確認してほしいの……あの雰囲気、どう考えても何かあるわ……それも相当厄介な類の何かが……!」
三人の視線が集中するなか――
「どうしても、です」
ザックは一切の迷いを見せず、無慈悲にきっぱりと言い切った。
端末を握る手に迷いはなく、彼の声には現実を突きつける重さがあった。
「座標は完全一致、周囲に分岐ルートは存在しない……ここを通らない限り出口には到達できない、残念ながら選択肢はない」
「……よし、わたしが守るから行こう!」
アリスが一歩前に進み出て、軽く拳を握りながら、まっすぐに仲間たちを見据える。
その姿勢は揺るぎなく、先ほどの戦闘を経てもなお余裕を感じさせる強さがあった。
「大丈夫、ああいう場所ほど構造は単純なことが多いし、落ち着いて進めば問題ないわ、ちゃんと全員守るから安心して」
背筋を伸ばし、仲間たちを安心させるように柔らかな笑みを浮かべた。
「アリス……惚れ直した! 今すぐ結婚して!!」
レティアが歓声を上げ、勢いよくアリスに抱きつく。
その動きは迷いがなく、完全に感情のまま飛び込んだような勢いだった。
「さっきの執事ムーブといい、この頼もしさといい、もう完全に落ちたわ……無理、これはもう好きって言うしかない……!」
その瞳はキラキラと輝き、頬は朱に染まっていた。
「わ、わたしも……!」
リゼットも耳まで赤く染めながら、アリスの腕にしがみつく。
「だってあんなの見たあとに“守るから大丈夫”って言われたら……もう信じるしかないじゃん……っ、安心感が違いすぎる……!」
「アリス様ぁ……!」
ミレーネまで涙ぐみながら抱きつき、三人が同時にアリスを取り囲む形になった。
「もう離れない……このまま一緒に行く……絶対離れないから……!」
突然の“アリス争奪戦”に巻き込まれた当の本人は、両手をわたわたと動かしながら体勢を保とうとする。
「ちょっ、ちょっと待って! 一回落ち着いて!? 動けないんだけど!?」
バランスを崩しかけながらもなんとか踏みとどまり、三人をどうにか宥めようとするが、その勢いはなかなか収まらない。
「……アリス、モテますなぁ……」
ラースが遠い目をしながら、ぽつりと呟く。
「いやこれ、完全に勝ち組だろ……戦闘能力高くて頼りになって、そのうえこの人気とか……ちょっと分けてくれない?」
「まったく、羨ましい限りだ」
隣のザックも深く頷き、真顔で言い切った。
「理論上の最適解だな……戦力的にも精神的にも中心に据えるべき存在だ、まあ本人は大変そうだが」
そのやり取りに、緊張感に包まれていたはずの一行から、ついに笑い声が漏れる。
その笑いは小さく、それでも確かな温度を持って空気に広がり、先ほどまでの恐怖を薄く上書きしていく。
重苦しい空気を引き裂くような一瞬の和やかさが、次に待つ建物の不気味さを、かえって際立たせていた――。
三人にしがみつかれたままのアリスは、やや困ったように眉を下げ、体勢を崩さないようにバランスを取りながら、視線だけを滑らせるようにザックへと向けた。
彼女の頬にはまだわずかな赤みが残り、抱きつかれている状態をどう処理するか迷っている様子が、その微妙な表情に滲んでいた。
「……ザック、周囲の状況、どう?」
声は落ち着いていたが、ほんのわずかに助けを求めるような色が混じっている。
「大丈夫。周囲に魔力反応はないし、結界反応も安定してる。このエリアなら、小休止は問題ない」
ザックは端的に応じ、端末に映る数値を確認しながら、草原の縁や遠方の丘陵にまで視線を巡らせ、死角となり得る位置を一つひとつ潰していくように観察したのち、わずかにうなずいた。
「さっきの墓地帯みたいな濃い干渉もないし、少なくとも“待ち伏せ型”の反応は検知できていない、この状態なら短時間の停止はリスク低い」
「……じゃあ、ここで小休止にしようか」
アリスが宣言すると、ようやく女性陣は彼女から離れ、体を引き剥がすようにして距離を取り、それぞれが肩で大きく息を吐いた。
そのまま壁際や岩の上に腰を下ろし、緊張が抜けた反動で力が抜けるように座り込む。
張り詰めていた糸が切れた瞬間のように、全員の表情には安堵と疲労が入り混じっていた。
「……もう21時か」
ザックが腕の端末を確認しながら低く呟く。
その声に、皆の間に「そんなに時間が経っていたのか」という重たい実感がゆっくりと広がり、思考の奥にじわりと疲労が押し寄せてくる。
「夕飯、食ってないよな」
ラースも剣を鞘に収め、鍔に指を掛けたままぽつりと口にする。
その声音には単純な空腹というより、戦闘と緊張の連続で胃が締めつけられるような感覚に近い疲弊がにじんでいた。
「うーん、ここで火は使えないし、携帯食でもいいかな」
アリスが視線を周囲に巡らせ、草の揺らぎや導標光の配置、視界を遮るものの少なさを確認しながら慎重に判断を下す。
淡い導標光が彼女の頬を青白く照らし、その表情に残る緊張の色を際立たせていた。
「それしかないでしょ。……この雰囲気でのんきに調理なんて無理」
ラースが肩を竦めつつ、遠くにそびえる墓標群の残影をちらと見やる。
骨の影が風もないのに揺れるたび、彼の口元には自嘲気味の笑みが浮かび、その奥に残るわずかな警戒が消えきっていないことを物語っていた。
「……食欲なんて、あるわけないでしょ……!」
レティアが顔をしかめて訴える。
その声には、普段の余裕ある気品は影を潜め、吐き出すような嫌悪感だけが残っていた。
ミレーネとリゼットも力なく頷き、それぞれ視線を伏せる。
ミレーネは膝を抱え込むように小さく丸まり、先ほどの恐怖を思い出さないようにするかのように目をぎゅっと閉じている。
リゼットは携帯食の包みを手にしたまま、しばらく封を切ることすらためらっていた。
――が、その直後。
「……ぐぅぅぅ……」
静寂を切り裂くように響いた音に、全員の視線が一斉に向けられる。
音の発信源は――リゼット。
「~~っ! ち、ちがうからっ……これは、その……音であって空腹では……!」
顔を真っ赤に染め、両手を必死に振りながら弁明する彼女。
その声は裏返り、言葉が追いつかないまま空回りし、さらに耳まで赤く染まっていく。
「ほんとに違うの……さっきの緊張でその……お腹が変な音鳴っただけで……今食べたいとかそういうんじゃなくて……いやちょっとはあるけど違うの……!」
次の瞬間、アリス、ラース、ザックの三人は思わず吹き出した。
「ははっ、いや、完全にバレてるぞ」
「リゼットさん、無理に言い訳しなくても……」
「ふふ……」
笑い声が草原の静寂に溶け込みながら小さく反響し、張りつめていた空気をふっと和らげていった。
「ふふ……じゃあ、スープだけでも飲もうよ」
アリスは柔らかな笑みを浮かべながら、《インベントリア=ゼロ》へ手を伸ばす。
掌を軽く動かすだけで空間が歪み、そこから次々と取り出されたのは、温かな蒸気を立ち上らせる簡易スープ容器だった。
三つを手際よく分け、自然な流れで仲間たちへと手渡していく。
「……はぁ~……生き返るぅ……」
ミレーネが両手でカップを包み込み、湯気を顔に受けながら瞳を細める。
その温もりが指先からじんわりと伝わり、強張っていた体を内側から解きほぐしていく。
レティアもリゼットも、最初は無言でカップを見つめていたが、やがて意を決したようにそっと口をつける。
熱が舌に広がると、こわばっていた肩が自然に緩み、胸の奥に溜まっていた緊張がゆっくりと溶けていく。
「……温かいって、こんなにありがたいのね」
レティアがぽつりと呟くと、リゼットもこくんと小さく頷いた。
やがて、リゼットがためらいがちに《インベントリア=ゼロ》から自分の携帯食を取り出し、封を切る。
カサリとした音が夜の静寂に響く。
その姿に釣られるように、レティアとミレーネも互いに目を見合わせ、苦笑を浮かべつつ、そっと自分の携帯食を取り出して加わっていった。
湯気の立つスープをすすりながら、アリスはふと隣に腰を下ろしていたラースとザックへと視線を向けた。
「ねえ、眠気は? そろそろ疲れも溜まってると思うけど」
問いかけに、ラースはカップを傾けながらにやりと笑い、ちらっと女性陣――レティア、ミレーネ、リゼット――のほうへ目を流した。
その視線の意味深さに、彼女たちは即座に眉をひそめる。
「眠気? いや、ある意味……最高に元気かも」
にやついた口元に、アリスは一瞬きょとんとし、ザックは苦笑を浮かべて肩をすくめる。
「おまえ、表情がいろいろアウトだからな。誤解を招く」
ラースは取り繕うように頭をかきながらも、目尻にはまだ笑みが残っていた。
「じゃあ、ここで野営……」
アリスが提案しかけた、その瞬間だった。
「「「絶対やだ!!」」」
レティア、ミレーネ、リゼットの三人がほぼ同時に叫び声を上げた。
声が重なり、草原に響き渡るほどの勢いで空気を震わせる。
しかも三人とも目を大きく見開き、身を乗り出すようにしてアリスの言葉を完全に遮った。
「むしろ、ここで眠るくらいなら……!」
レティアが拳を握りしめ、真剣な顔で叫ぶ。
「一晩どころか、二晩でも三晩でも徹夜で進むから!」
ミレーネは肩で息をしながら必死に付け加え、顔は青ざめているのに声だけは限界まで張り上げている。
「とにかく、この層から出るまでは、寝るのも休むのも断固拒否!」
リゼットは両手を広げ、まるで全力で道を塞ぐかのように断固たる態度を示した。
三人が口々に叫び、しかも本気の顔でアリスに詰め寄ってくる様子に、ラースは耐えきれず吹き出した。
その必死さは冗談の域を完全に超えており、目の奥に残る恐怖の名残と、ここで止まれば再びあの悪夢に引き戻されるという本能的な拒絶が、その全身からはっきりと伝わってくる。
「ははっ……! おまえら本気すぎるだろ」
ラースは腹を押さえながら肩を震わせ、笑いを堪えきれない様子で三人を見渡す。
「いやいや、そこまで全力で拒否るとは思わなかったって……草原だぞここ? さっきまでの墓場じゃねえんだぞ? もうちょっとこう、段階踏んで安心してもいいだろ普通……」
その軽口に対し、三人の視線は一斉に鋭く突き刺さる。
ザックは眼鏡を押し上げ、小さくため息をつく。
その動作には呆れと理解が半々に混じっており、視線は冷静に状況を俯瞰したままだった。
「……いやまあ、気持ちはわからんでもないが。寝床が墓場と同列じゃ、確かに精神衛生に悪い」
「さっきの環境を体験した直後で“ここで寝ろ”と言われても、脳が危険判定を解除できないのは自然な反応だな、合理性より感覚が優先されるフェーズに入っている」
「草原での野営まで拒否するとはな……よほど、さっきのゾンビがトラウマになったらしい」
ぼそりと続けるザックの言葉に、三人は一斉にビクリと震え、まるで反射のように耳を塞ぐ。
その動きは完全に条件反射であり、“ゾンビ”という単語そのものがトリガーになっていることが明らかだった。
「やめてやめてやめてその単語出さないで!! 思い出すからほんと無理!!」
「だってまだ頭の中で音残ってるんだもん……ずるずるって……あれ絶対夢に出るやつ……」
「お願いだから今はその話題封印して……今ここ平和だから……せめてこの空気だけは守らせて……!」
三人は必死に頭を振りながら、まるで音そのものを追い払うかのように耳を押さえ続ける。
アリスは困ったように笑いながらも、その反応があまりに素直で隠しようがなく、思わず頬を緩めてしまう。
夜の草原は静かで、青白い草がわずかに揺れ、漂う光粒が淡く瞬きながらその様子を包み込むように照らしていた。
先ほどまでの死臭と重圧に満ちた空間とはまるで別世界のようであり、その対比がなおさら三人の反応を際立たせている。
「……もう、仕方ないな。じゃあ、この層を抜けるまでは進み続けるしかないか」
アリスは軽く肩をすくめながらも、どこか楽しげな笑みを浮かべ、仲間たちの様子を受け入れるように結論を出す。
「無理に休んでも逆に疲れが取れないなら、進めるだけ進んだ方がいいしね、無理のない範囲でペース調整しながら行こう」
その言葉に、三人はほっとしたように力を抜き、ようやく耳から手を離す。
夜の冷たい風が吹き抜ける草原で、緊張と安堵と笑いが入り交じる一幕だった。




