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第一部 第四章 第5話

 リナの声には焦りと怒り、そして仲間を失う恐怖が混じっていた。


 しかし――彼女の瞳には、すぐに決意が宿る。

(今は……アリスさんを案じるより、この魔獣を止めなければ……!)


 リナは一気に息を吸い込み、喉が裂けそうな勢いで野営地の全員に叫んだ。

「――魔導ライフルをやめて、属性付与魔法で攻撃して!

 特に土と氷の物質召喚型魔法を全力で放って!!」


 その声が夜気を切り裂いた。

 焚き火の炎が揺らめき、兵たちの影が地に走る。


 混乱していた魔術師たちは、一瞬息を呑んだ後、杖を握り直し――次々に詠唱を開始する。


 重なる声が空気を震わせ、魔力が渦を巻く。

 周囲の温度が一気に下がり、霧のような冷気が地表を這った。


「《ストーンバインド》――!!」

「《アイスアロー》ッ!!」


 詠唱の終わりと同時に、地面が唸りを上げた。

 大地がうねり、鋭い岩塊が牙のように隆起して巨獣の脚を絡め取る。

 岩の鎖がギチギチと締まり、巨体の動きを鈍らせた。


 上空では、氷の矢が数百本、夜空に光の尾を引いて放たれた。

 白い軌跡が幾筋も交差し、次々にバロール・ビースト亜種の外殻を撃ち抜く。


 ――ガキィィンッ! ズガァァッ!


 鋭い氷の矢が硬質な外殻を砕き、赤く脈打つ瘤を次々と破裂させた。

 そこから滲み出た黒紫の魔力液が蒸気を上げ、腐食音を響かせる。


「命中確認! 効いてる、確実に効いてるぞ!」

「もう一度だ、続けろッ!」


 叫びが飛び交い、詠唱が再び重なった。

 地面を叩くような振動と、風を裂く魔力音が入り混じる。


 ――その中でリナは、鋭い目をして状況を見極めていた。

 巨獣の体表を覆う黒い殻は確かに傷ついている。 

 だが、脈動する瘤が次々と再生を始めていた。

 光る筋が走り、壊れた殻の隙間がゆっくりと閉じていく。


(……やっぱり……再生速度が速い。通常の魔術じゃ押し切れない……)


 リナは歯を噛みしめ、瞬時に次の指示を出した。

「上位詠唱組、準備でき次第――《アイシクルランス》を!

 狙いは関節部と首の付け根! 止めるつもりで撃ちなさい!!」


「了解――!」

「詠唱開始ッ!!」


 6人の上位魔術師が杖を天に掲げた。

 彼らの周囲に青白い魔法陣が幾重にも展開し、冷気が霜のように地表を覆っていく。


「――《アイシクルランス》ッ!!」


 轟音が夜を裂いた。

 天を突くような氷槍が無数に生み出され、その先端が凍てつく青光を放ちながら、流星のように落下した。


 ――ドオォォォォォン!!


 氷槍が外殻に突き刺さり、硬質な殻が砕けると同時に、冷気が亜種の体内にまで侵食していく。

 赤く脈動していた瘤が凍りつき、次の瞬間、破裂するように砕け散った。


「効いている……! 確実に通ってるぞ!」

「もう一撃いける! 詠唱急げッ!」


 歓声に似た声があがるが、その隣でリナの表情には焦燥が滲んでいた。

 杖を握る手が震える者、魔力を使い果たして膝をつく者――それでも彼らは、立ち上がり、再び詠唱を続ける。


 だが、空気の中に漂う魔力の密度が限界を超え始めていた。

 息を吸うだけで肺が焼けるように熱い。


「くっ……このままじゃ、持たない……!」

「回復班、魔力補助を――!」

「だめです、全員限界近い!」


 叫びが飛び交う中、リナは唇を噛みしめた。

 額に汗が流れ落ち、呼吸が荒くなる。


「……まだ足りない。

 このままじゃ押し切れない……!」


 バロール・ビースト亜種の咆哮が夜空を震わせた。

 巨体を揺らし、外殻の氷を砕きながら、ゆっくりと首をもたげる。

 その単眼が再び紅く輝き、狙いをリナたちに定めた。


「来る……っ!」

「避けろ――ッ!!」


 閃光。

 瞬間、魔眼から放たれた紅い熱線が大地を貫いた。

 爆風が起こり、凍った地面が蒸発して吹き飛ぶ。

 魔術師たちは悲鳴を上げながら飛ばされ、幾人かが地に叩きつけられた。


「きゃあああッ!!」

「負傷者、治癒班急げ!」

「全員、散開しろ! 距離を取って!」


 リナは倒れかけた班員を支え、荒い息を吐きながらも声を張り上げた。

「――怯まないで! 攻撃を止めたら、今度こそ全滅するわよ!」


 その声に、倒れた者たちが再び立ち上がる。

 震える脚で、杖を構え直し、再び詠唱を始めた。


 リナは胸の奥で強く息を吸い込み、張り裂けそうな鼓動を押し殺して叫んだ。

「――騎士団員は魔導ライフルを実弾モードに切り替えて狙撃を!

 魔術師団員は属性付与魔法で援護して!

 特に、土と氷の物質召喚型魔法を全力で放って!!」


 鋭く響いたその声に、混乱していた兵たちが即座に反応した。

 魔導ライフルの安全装置が次々と外れる音が重なり、金属のスライド音と魔力コンデンサの低い唸りが夜の空気を震わせる。


「了解! 実弾モード、装填完了!」

「狙撃位置につけ! 距離50、照準安定――撃てッ!」


 銃身が一斉に光を帯び、夜の闇に閃光が咲く。


 ――ガンッ! ガガンッ! ドドドッ!!


 乾いた衝撃音が幾重にも重なり、火花が夜空を裂くように閃いた。

 弾丸は魔力を帯びながら一直線に走り、バロール・ビースト亜種の外殻を連続して叩き込む。


 鋼鉄の雨が黒い装甲を穿ち、破片と血液のような魔力液を撒き散らした。

 亜種の巨体がわずかに揺らぎ、地鳴りが森を震わせる。

 その咆哮は低音と高音が混ざり合い、空気そのものを震わせた。


「命中確認! 装甲、浅いが亀裂発生!」

「第2射! 関節部狙え――!」


 狙撃班の隊員たちは動きを止めない。

 素早くマガジンを叩き込み、薬室に弾を送り込む。

 空薬莢が金属音を立てて地に転がり、それが次々と連鎖して鳴り響く。


 同時に、リナの指示を受けた魔術師団員たちが杖を掲げた。

 空気は震え、魔力の奔流が大気を駆け抜ける。

 風が逆巻き、地面の砂が浮き上がった。


「《ストーンバインド》――!」

「《アイスアロー》!!」


 大地がうねり、鋭い岩塊が牙のようにせり上がり、巨獣の脚を絡め取る。

 氷の矢が雨のように降り注ぎ、外殻を突き刺した。

 赤く脈打つ瘤が次々と砕け、冷気が内部へと流れ込む。

 亜種の動きが一瞬止まり、低く呻く。


 その隙を逃さず、上位魔法を扱える数名の魔術師が立ち上がり、杖を高く掲げた。


「――《アイシクルランス》ッ!!」


 空気が一瞬で凍りつく。

 次の瞬間、天を裂くような轟音とともに、無数の氷槍が空を覆った。

 流星の雨のような青白い光が降り注ぎ、巨獣の外殻を撃ち抜く。


 ――ガキィィィン!!


 激しい音が轟き、黒い殻が音を立てて割れた。

赤い瘤が爆ぜ、濁った魔力液が地面を焼くように滴り落ちる。

 氷と蒸気が交錯し、夜が白く染まった。


「効いてる……! 確実に通ってるぞ!」

「狙撃班、いまのうちに撃てぇッ!」


 エルドが叫び、狙撃班の一人が魔導ライフルのスコープを覗き込む。

 照準の先、関節部の装甲が裂けている。


「関節部右下、裂け目確認! 撃つ!」

「行けッ、抜けぇぇぇぇぇッ!!」


 ――ガンッ!!


 閃光を纏った弾丸が唸りを上げ、亜種の右脚関節に突き刺さった。

 金属が砕けるような轟音とともに、破片が四散する。


「脚部の装甲破壊確認! 動きが鈍った!」


 歓声が一瞬、戦場を包んだ。

 だがリナの顔に笑みはなかった。

 その瞳は鋭く、ただ前方の巨影を見据えている。


「まだ足りない――撃ち続けて! 止めを刺すまで気を抜かないで!」


 その号令に呼応し、銃声と詠唱が再び重なった。

 氷槍が雨のように降り注ぎ、実弾が閃光のように貫く。

 魔力と硝煙、氷と火花が交錯し、夜空は白く明滅する。


 戦場は混沌そのものだった。

 耳を劈く轟音の中、誰かの叫びが遠くで聞こえる。


 負傷兵を抱えながらも、他の者は前線へ走った。

 硝煙の匂いと焦げた草の臭気が、肺に刺さる。


 それでもリナは立っていた。

 彼女の背筋は一分の揺らぎもなく、荒れる風の中で揺れる髪が戦場の光を受けて煌めいていた。


「……この戦い、絶対に終わらせる。

 アリスさんが立ち上がるまで、絶対に……!」


 その声が、焦げた風の中でもはっきりと響いた。

 それは決意というより、祈りにも似た叫びだった。


 ――だが、戦場の緊張はわずかも緩まなかった。


「……魔術師の数が足りない。やっぱり決定打には到底ならない!」


 リナの呟きが、爆音の隙間に漏れる。

 魔術師たちは連続で詠唱できず、魔力消耗も激しい。

 攻撃の手を緩めれば、再び敵は牙を剥く。


 焦燥と戦慄が、隊員たちの心に重く影を落とした。

 それでも誰も後退しなかった。

 怯えながらも、震える手で杖を握りしめ、また詠唱を始める。


 バロール・ビースト亜種は再び力強く剣を振り上げる。

 その動きは鈍ったように見えて――なお、絶望的な威圧を放っていた。


 ――ズガァァァン!!


 大地を砕く横薙ぎの一撃が炸裂し、隊員数名が悲鳴を上げながら吹き飛んだ。

 地面がえぐれ、石片が雨のように降る。

 風圧で火の粉が散り、光と煙が視界を覆った。


「くそ……!」


 エルドが叫び、再び魔導ライフルを構える。

 引き金を引いた――だが、銃は虚しく音を立てた。


 ――カチッ。


 マガジンが空になり、乾いたクリック音が響く。


「弾切れだ……! 予備装填急げ!」


 焦りの声が次々と飛び交い、銃を抱えたまま退避する者も出る。

 火花が散る中、リナは歯を食いしばった。

 視線を巡らせ、動ける魔術師たちへ声を飛ばす。


「……集中攻撃を続けるのよ! 絶対に諦めないで!」


 その声には、焦りと恐怖、そして強烈な信念が混じっていた。

 再び氷槍が放たれ、巨獣の外殻を貫く。

 亀裂がさらに広がり、赤い瘤が爆ぜた。


 吹き上がる冷気が夜気を裂き、視界が白に染まる。

 隊員たちの肩で氷片が砕け、魔力の閃光が散った。


 わずかではあるが、戦況に――確かな希望の光が差し込んだのだった。

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