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閑話 第一六二回 王立魔導学院 学内武術競技会 -四年次- 第10話

閑話、四年次の武術競技会編 第10話です。

第9話から続く回になります。


楽しんでいただければ嬉しいです。

 カイルが魔導銃の連射を維持したまま上空へ魔力を展開し、アイシクルランスとストーンバレットを同時に生成して連続的に射出することで三系統の攻撃が重なり合い、空間そのものを圧縮するような制圧構造が再び形成される。


 魔力弾が射線を埋め、氷槍が時間差で降り、土弾が落下軌道を潰すことで回避の余地が急速に削られていく中で、レティアは即座に足を止める判断を選び、防御ではなく空間分断による対処へと切り替える。


「……なら、通さない。《アース・ウォール》」


 短く切り詰められた詠唱と同時に足元から土が隆起し、横方向へ長く広がる城壁が形成されることで視界を遮断するだけでなく射線そのものを断ち切る物理的障壁が戦場を分断する。


 魔力弾が激突し氷槍が突き刺さりストーンバレットが叩きつけられることで城壁表面が激しく削られながらも、その厚みと密度によって貫通は許さず攻撃の勢いを受け止め続ける。


 レティアはその背後で即座に後退しながら次の魔力展開へと移行し、同時に視線と気配を完全に断ち切るための行動へと入る。


「……もう一枚重ねる、《アース・ウォール》」


 地面が再び震えながら二重目の城壁が後方に形成されることで単純な突破では届かない層構造の防御線が構築され、攻撃を受けながらも時間を稼ぐための空間が確保される。


「……さらに重ねる、《アース・ウォール》」


 三重目の城壁が間を置かず展開されることで一直線に並ぶ三層構造が完全な遮断帯として成立し、視界と射線と感知のすべてを一度切り離す形が完成する。


 同時にレティアは自身へ魔法を重ねる。


「……《サイレント・ステップ》……《エア・ブラインド》」


 足音を消し空気の流れへの干渉を遮断することで気配そのものを薄める術式を重ねることで、単なる視界遮断ではなく存在の認識そのものを曖昧にする状態へと移行する。


 そのまま身体を低く保ちながら右方向へ移動し、城壁の端へと滑り込むように進むことで位置を完全にずらし、視界と気配の両方から戦場上の存在を切り離す。


 城壁の向こう側では衝撃が連続して響き続け、カイルの連射は止まることなく一枚目の城壁へと集中して叩き込まれる。


 魔力弾が叩きつけられ氷槍が砕け土弾が削ることで一枚目の城壁は急速に削られていくが、その破壊速度は計算された範囲内であり完全な突破にはわずかな時間を要する。


 そしてその時間が意味を持つ。


 一枚目が崩れるがその先に現れる二枚目の城壁が視界を遮ることで攻撃の前提としていた直線的な制圧構造が断ち切られ、組み上げていた戦術の前提条件そのものが崩れる。


 カイルの視線がわずかに揺れ、その変化は想定とのズレを示しており再計算の必要が生じたことを明確に示す。


「……増えてる……?」


 小さく漏れるその言葉には確かな違和感が混ざり、構築していた攻撃構造の再調整が必要になったことが露呈する。


 視界は遮断され感知は曖昧になり攻撃の指向先が確定できない状態へと変化することで、カイルの連射は当てるための射撃から探るための射撃へと性質が変わり始める。


 城壁の向こう側でレティアはすでに右端へと到達しており、視線を静かに戻すことで戦場全体の構造を再把握しながら次の一手の完成度を高めていく。


 呼吸が整う。


 魔力が収束する。


 そしてその収束は次の一撃へと直結する形で組み上がっている。


 城壁の陰に身を潜めたままレティアは呼吸を整えつつ周囲へ意識を拡張し、乱流のように絡み合う魔力の流れの中から規則性だけを抽出することで一点に収束する存在を捉え、視界を遮断されていても位置情報だけを精密に特定していく。


(……そこ)


 判断と同時に足元へ魔力を叩き込み地中へと流し込んだ力を一気に収束させることで、カイルの真下から突き上げるように土槍を発現させる。


「……《グランド・スパイク》」


 地面が爆ぜるように割れ、鋭く研ぎ上げられた土槍が真下から貫き上げることで死角からの一撃が成立し、そのまま回避不能の軌道でカイルへ直撃する。


 衝撃が跳ね上がり身体がわずかに浮き上がると同時に軽量アーマーの制御が反応し、有効打として認識された瞬間に装甲の一つが外れることで戦況に変化が生まれる。


 ――二つ目。


 カイルはそのまま崩れずに強引に体勢を立て直しながら横へと大きく跳ぶことで追撃を避け、同時に魔導銃の連射を一切止めることなく継続することで主導権を渡さない。


 射線が変わる。


 先ほどまでの城壁正面ではなく、レティアがいると推測される位置へと攻撃が移されることで視界外の存在に対しても圧が維持される。


 レティアの表情がわずかに揺れ、読み切ったはずの遮断構造が機能しきっていない事実を認識する。


(……今の位置、読まれてる……?)


 さらに三枚目の城壁が砕かれることで遮断の最終層が崩れ、攻撃密度が一段階引き上げられることで隠れているだけでは耐えきれない圧が空間を満たす。


 レティアは即座に移動するが位置をずらしているにもかかわらず射線と氷槍と土弾がわずかに遅れて重なるように追従してくることで、完全に外れていないことが明確になる。


(……追尾してる……? 隠ぺいを抜いてきてる……!?)


 隠蔽魔法をかけている自分に対して攻撃が寄せられる事実が前提を崩し、このままでは押し潰されるという判断が一瞬で下される。


「……《エア・ランス》」


 風を収束させた槍を正面へと射出することで攻撃の流れを断ち切ることを狙い、空間ごと押し返す形で圧を崩そうとする。


 カイルはそれを最小動作で回避する。


 無駄がない。


 その直後に攻撃が止まることで、それまで連続していた圧が途切れたかのような静寂が一瞬だけ生まれる。


 レティアの瞳が細くなる。


(……止まった……?)


 違和感が走るが同時に可能性が浮かび、あの密度の連続展開による消耗という仮説が瞬時に組み上がる。


(……魔力切れ……? あり得ないけどゼロじゃない……なら今)


 判断が確定する。


(……ここで決める……!)


 隠蔽を解き姿を現しながら踏み込むことで攻撃の主導権を奪い返そうとする。


 その瞬間にカイルの視線が完全に合い、すでに読まれていたという事実が遅れて理解として突き刺さる。


「……捕えた」


 低く確定の声音が落ちる。


 次の瞬間、圧縮された光が一直線に解き放たれることでレーザーのように収束した光線が空間を貫きながらレティアへ直撃し、回避不能の速度と密度で身体を捉える。


「……《ルクス・レイ》」


 光線は直撃しただけで終わらずそのまま持続的に貫き続けることで衝撃を重ね、逃げる余地を完全に奪いながら防御を削り取る。


 軽量アーマーの制御が連続して反応し、有効打として認識された瞬間に装甲が次々と外れていくことで耐久が急速に失われる。


 ――一つ目が外れ、続いて二つ目が弾け、さらに三つ目が排出されることで戦闘継続の条件が一気に崩壊する。


「――そこまで!」


 審判の声が結界内に響き渡り、光が収束することで戦場に再び静寂が戻る。


 一瞬の空白のあと観客席が爆発するようにざわめき、理解の追いつかない現象に対する驚愕と興奮が一斉に噴き出す。


「……今の何だ……光が貫いたまま止まらなかったぞ……!」


「……あの出力で持続照射ってあり得るのか……!?」


「……あれで決めたのかよ……!」


 混乱と熱狂が渦巻く中でアリスは言葉を失い、目の前で起きた一連の流れを理解しきれないまま視線を戦場へと固定する。


(……今の……何……止めたのも、誘ったのも……全部……)


 止まった理由も誘導も決定打もすべてが繋がっていることだけは理解できるが、その精度と組み立ての異常さに思考が追いつかない。


 視線の先には静かに立つカイルの姿があり、何事もなかったかのようにその場に立つその存在だけが勝者として場を支配していた。




 こうして魔術部門における武術競技会は最後まで張り詰めていた緊張と熱気を余韻として残したまま静かに収束していき、観客席に広がるざわめきと興奮がゆっくりと落ち着きを取り戻す中で結果だけが確かな形として刻まれる。


 優勝は、魔術部六年 カイル・ヴェルグレイ。


 準優勝は、探索者育成部四年 レティア・エクスバルド。


 三位は、同じく探索者育成部四年 アリス・グレイスラー。


 結果が告げられたあとも場の空気はすぐには解けず、それぞれの戦いの記憶が観客たちの間で反芻されるように残り続ける。


 レティアはその場を離れて控え席の方へと歩みながら一度も振り返らずに足を進めるが、その背中には普段見せない硬さが残り続けていることで内側に抑え込まれた感情の強さが明確に表れている。


 アリスはそれを見た瞬間に立ち上がり、迷うことなく後を追うことで距離を詰めていく。


「……レティア。ちょっといい?」


 声をかけると同時に足音をわずかに緩めることで相手の反応を待つ。


 レティアの足が止まり、ゆっくりと振り返ることでその表情がこちらへ向けられ、その奥に抑えきれない感情が揺れていることがはっきりと伝わってくる。


「……悔しい。すごく悔しいよ、アリス」


 その言葉は静かに発せられるが感情は隠されておらず、押し込めていたものがそのまま表に滲み出ている。


 アリスは何も遮らずにそのまま受け止める。


 レティアは拳を握り、その力が指先にまで伝わるほど強く締められることで抑えていた感情が逃げ場を求めるように揺れる。


「……あと一手だった。読めてたはずだったし崩せてた流れだったのに、最後だけ全部持っていかれたのが悔しい」


 視線が一度落ちるがすぐに上がり、そのまま言葉が続くことで思考と感情が整理されないまま溢れ出る。


「……あそこで止まった理由も読めなかったわけじゃないのに読み切ったつもりで決めにいったのが一番悔しいし、完全に誘われたって分かってるのに踏み込んだ自分が納得できない」


 呼吸がわずかに乱れるが言葉は止まらない。


「……勝てた試合だったって思ってる。あれ、絶対に勝てたって思ってるから余計に悔しい」


 声は震えていないが、その奥にある感情の強さだけがはっきりと残る。


 アリスは一歩近づき、逃げ場を作らない距離でその感情を真正面から受け止める。


「……うん、惜しかったと思う。でもあれは最後だけじゃないよ」


 レティアの視線がわずかに動く。


 アリスは続ける。


「……あの人、最初から最後まで崩れてなかったし、レティアが崩した部分も全部含めて最後の一手に繋げてたと思う」


 少しだけ笑みを浮かべながら言葉を重ねる。


「……だから負けたのはレティアだけじゃないし、あの戦い方に対して私も含めてみんな一回は負けてるってことだと思う」


 レティアは一瞬だけ言葉を失うが、そのあと小さく息を吐くことで胸の中に溜まっていた圧がわずかに抜ける。


「……ほんと、そういう言い方ずるいよね。でも納得できるのが悔しい」


 苦笑が浮かぶが、その中に少しだけ軽さが戻る。


 視線が上がる。


「……でもだからこそ次は絶対に勝つ。あの構造も癖も全部見えたし、あれなら次は崩せる」


 拳を握る動きは先ほどよりも安定しており、その中に迷いは残っていない。


「……ちゃんと取り切る」


 その言葉には確かな芯がある。


 アリスは小さく頷く。


「……うん、やろう。次は一緒に勝つ側に回ろう」


 短く言い切るその声には揺らぎがない。


 レティアは一度だけ深く息を吸い込み、そのまま吐き出すことで残っていた感情を整理しながら視線を前へと向ける。


 その横でアリスも同じ方向を見ることで終わったはずの戦いがすでに次へ繋がっていることを互いに理解する。


 結果は変わらないが意味はここで終わらず、その確信だけが二人の間に静かに残っていた。





 二日後。

 

 剣術部門の武術競技会が開催されることが正式に告知され、魔術部門の熱気がまだ競技場に残る中で新たな戦いへの期待が徐々に高まっていく。


 観客席には再び多くの学院生たちが集まり、先日の激戦を語り合いながらもこれから始まる剣技のみの純粋な勝負に対して興味と緊張を混ぜたざわめきが広がっている。


 剣術部門のルールは明確であり、魔術による補助を完全に排した状態で純粋な技量のみを競う構成となっていることで、魔術部門とはまったく異なる緊張感が場に漂う。


 使用可能な武器は剣のみでありロングソードや短剣など学院が用意する模造剣に限定されることで、個人の武装差や特注装備の影響を排除し、純粋な技術差だけが結果へと直結する環境が整えられている。


 それ以外の武器や自分の剣の使用は一切認められず、装備の統一によって公平性が徹底されていることがこの競技の特徴として際立っている。


 さらに身体強化系の魔術行使は完全に禁止されており、瞬発力や反応速度すら魔力に頼ることができないため、日々の鍛錬によって積み上げられた身体操作と剣技の精度だけが問われることになる。


 戦闘時の装備として学院が用意する軽量アーマーが支給され、それを装着した状態で試合が行われることで安全性を確保しつつも実戦に近い形での攻防が再現される。


 このアーマーには特殊な判定機構が組み込まれており、打撃ポイントに有効打が入った場合や一定以上の衝撃が加わった場合に該当部位の装甲が自動的に脱着することで、視覚的にも戦況が明確に把握できる仕組みとなっている。


 三つ以上のアーマーが脱着した場合には戦闘継続不可能と判断され試合終了となり、それに加えて気絶や戦闘不能状態、さらには使用している剣そのものの破損や重大な損傷が確認された場合にも安全基準に基づいて即座に試合が打ち切られる。


 特に剣の破損は致命的な判定となり、その時点で試合継続は不可能と判断されるため、破損した側が敗北となるという明確なルールが設けられている。


 この徹底した安全管理のもとで行われる剣術部門の武術競技会は、魔術を排した純粋な技と読み合いの戦場として位置づけられており、誰もがその一瞬一瞬にすべてを賭ける戦いへと身を投じることになる。



 剣術部門の武術競技会が開始されてから時間が進み、幾度もの試合を経て会場の熱気がさらに高まっていく中で、アリスとレティアはそれぞれ危なげのない戦いを重ねることで順調に勝ち上がり、観客席からの視線を集めながら準々決勝へと駒を進める。


 魔術を封じられた純粋な剣技の舞台においてもその実力は揺らぐことなく、アリスは無駄のない踏み込みと精密な剣筋で相手の防御を崩し、レティアは間合いと呼吸を支配することで試合の流れそのものを掌握することで、それぞれ異なる戦い方で確実に勝利を積み重ねてきた。


「……ここまでは順調だけど、ここからが本番って感じだね」


 アリスが小さく呟きながら剣の柄に触れ、その感触を確かめるように指先へ意識を集中させる。


「……うん、ここから先は一つの判断ミスがそのまま決定打に繋がるから、油断はできないね」


 レティアが静かに応じながら視線を前へ向け、その瞳にはすでに次の試合への集中が宿っている。


 そして迎える準々決勝。


 レティアの対戦相手は、予定通り騎士部六年のフレイド・グレイスが相手となった。


「……来たね、フレイド・グレイス」


 アリスが低く呟いた瞬間に観客席のざわめきがわずかに沈み込み、その名が呼ばれたことで会場の空気が一段引き締まる。


 騎士部六年主席であり剣術において学院内でも頂点に位置する存在として知られるその実力は広く認識されており、これまでの試合でも圧倒的な安定感と完成された技量を見せつけてきたことで対戦相手にとって明確な壁として立ちはだかる。


「……強いよ、あの人。無駄がないし、崩れない」


 アリスが視線を競技場へ向けたまま静かに言う。


 レティアは一度だけ目を細める。


「……うん、分かってる。でもだからこそ、崩しがいがある」


 その言葉には恐れではなく、明確な意志が込められている。


 レティアは呼び出しの声に応じて静かに立ち上がり、手にした模造剣の重さを確かめるように一度だけ握り直すことで意識を切り替え、そのまま試合場へと向かう。


「……行ってくるね」


 振り返らずにそう告げる。


「……うん、見てる。思い切りやってきて」


 アリスが短く返すその声には迷いがなく、背中を預けられる確かな信頼が込められている。


 レティアの歩みには迷いがなく、その奥にはこれまでとは明確に異なる強度の集中が宿っている。


 アリスはその背中を見送りながら小さく息を吐き、これまでとは明らかに異なる試合になることを理解した上で、その一戦を見届けるために視線を競技場へと向ける。


 結界の光がゆっくりと立ち上がり空間が整えられることで、対峙する二人の間に張り詰めた静寂が落ちる。


 そしてその中心で、これまでとは明確に異なる格の戦いが始まろうとしていた。


 結界の内側に張り詰めた静寂が落ちたまま時間が引き延ばされたかのように感じられる中で審判の合図が響いた瞬間に空気が一気に弾けることで試合が開始され、張り詰めていた緊張が一瞬で実戦の圧へと変換される。


「――はじめ!」


 その声と同時にレティアが先に踏み出し、間合いを一気に詰めながら右から鋭く一閃を放つことでフレイドの右肩口から胸部へかけてのラインを断ち切るように狙い、初動の主導権を奪いにかかる。


「……先に行く!」


 だがフレイドは右足を半歩引くことで身体の軸をわずかに外しながら剣の背でレティアの刃を斜め上へと滑らせ、受け流しと回避を同時に成立させたうえで体幹を崩さずに残すことで反撃へ繋がる姿勢を瞬時に完成させる。


「……いい踏み込みだが、浅い」


 踏み込みと同時に腰がわずかに回転し、その回転が肩から腕へと連動することで刃に加速が乗り、レティアの左脇腹から肋骨のラインへ向けて水平に振り抜かれる一閃が間合いの内側で完成することで回避の余地を与えないまま直撃する。


 衝撃が側面へ叩き込まれた瞬間に軽量アーマーの制御が反応し、有効打として判定されたことで左側部の装甲が外れる。


 ――一つ目。


「……っ!」


 レティアの表情が歪み脇腹へ入った衝撃で呼吸が一瞬乱れるが、そのまま足を止めずに後方へ跳ぶことで距離を取り直しながら剣を胸の前へ引き寄せて構え直し、崩れかけた体勢を強引に立て直す。


「……まだ、終わらない!」


 フレイドはその動きを逃さない。


「……次はこちらから行く。今の一撃で流れは見えた」


 静かな声で告げると同時に踏み込み、間合いを詰めながら剣を振り上げることで次の攻撃の起点を作り、そのまま連続した剣撃へと淀みなく移行する。


 初撃は上段からの振り下ろしであり、レティアの頭部から右肩へかけてを断ち割る軌道で落とされることで防御を強制する一撃として機能する。


「……っ!」


 レティアはそれを剣で受け止めるが刃同士が噛み合った瞬間にフレイドは押し込まずに力の向きを変え、接触した刃を滑らせることでレティアの剣を右側へ流しながら次の動作へと移行する。


「……流された……!」


 横薙ぎが続く。


 狙いは右脇腹から腹部のラインであり、先ほどの被弾部位を意図的に外しながらも防御の選択肢を限定する軌道で振り抜かれる。


 レティアは身体を引くことで回避するが、その動きに合わせてフレイドは刃を返しながら軌道を変え、下から斬り上げることで左太腿から腹部へ抜けるラインを切り裂くように狙う。


「……読まれてる……!」


 レティアは跳ぶことで回避するが着地地点はすでに読まれており、踏み込みと同時に繰り出される突きが胸部中央を正確に貫く軌道で放たれることで次の選択肢を封じる。


 レティアは身体を捻りながら剣で弾くことで軌道を逸らすが完全には切れず、間合いの近さによって流れが途切れないまま連続性が維持される。


「……くっ……近い……!」


 フレイドは突きを引かず弾かれた反動を利用して剣を内側へ滑り込ませ、防御の隙間へ侵入することで刃を寝かせながら左肩から胸部へかけてのラインを斜めに斬り抜く。


「……間に合わない……!」


 防御がわずかに遅れる。


 その一瞬の遅れを刃が通り抜けることでレティアの左肩から胸部にかけての装甲へ直撃し、衝撃が身体へと叩き込まれる。


 軽量アーマーの制御が即座に反応し有効打として認識された瞬間に該当部位の装甲が外れる。


 ――二つ目。


「……っ……!」


 レティアの身体が揺れ肩口から伝わる衝撃で重心が崩れることで次の防御への繋ぎが一瞬だけ途切れ、その隙をさらに広げるようにフレイドは間合いを詰め直しながら剣を構え直す。


「……まだ崩れる、次で決まる」


 圧が増す。


 間合いが固定される。


 連続した剣撃の流れが途切れることなく重なり続けることでレティアは完全に守勢へと押し込まれ、戦場の主導権は完全にフレイドの手に渡っていた。


 結界の内側で火花を散らすような激しい剣戟が絶え間なく続き、刃と刃が打ち合わされる高音が連続して空気を震わせることで戦場の密度がさらに高まり、レティアは一撃ごとに身体へ伝わる衝撃を受け止めながら完全に防戦一方へと押し込まれていく。


 フレイドの剣は一切の無駄を含まず、振り下ろしから横薙ぎ、さらに突きへの移行まですべてが最短で繋がることで攻撃の流れが途切れず、その連続性によって防御の隙間を削り続ける構造が完成している。


「……まだ、受け切れる、ここで崩れたら終わる……!」


 レティアは歯を食いしばりながら刃を合わせて受け流すが、打ち合うたびに伝わる衝撃の重さと軌道の正確さによって防御するたびに体勢がわずかに押し込まれ、その積み重ねによって足元がじりじりと後退していく。


 フレイドは一歩も緩めない。


 間合いを固定したまま圧をかけ続けることで回避の選択肢を削り取り、受けるしかない状況を維持したまま斬撃を重ねていくことで完全に主導権を握り続ける。


「……逃がさない、このまま詰め切る」


 低く告げるその声と同時にフレイドの剣がわずかに角度を変え、これまでと同じ流れに見せかけながら軌道の終点だけを微細にずらすことで防御の読みを外す構造へと変化する。


 レティアの防御が一瞬遅れる。


 その遅れはほんのわずか。


 だが。


 致命的。


「……っ、ここで……!」


 刃が内側へ滑り込む。


 胸部から側面へ抜ける斬撃がこれまで蓄積された防御の歪みを突き抜ける形で叩き込まれ、受け止めきれなかった衝撃がそのまま身体へと伝達される。


「……っ――!」


 鈍い衝撃が走る。


 軽量アーマーの制御が即座に反応し、有効打として認識された瞬間に最後の装甲が弾けるように外れ、そのまま空間へと排出されることで勝敗が確定する。


 ――三つ目。


 同時に審判の声が結界内に響き渡り、張り詰めていた戦闘の流れを強制的に断ち切る。


「――そこまで! 勝者、フレイド・グレイス!」


 剣戟の連続が一瞬で止まる。


 静寂が落ちる。


 レティアはその場に立ったまま剣を握り続けるが、全身に残る衝撃と圧の余韻によってすぐには動けず、乱れた呼吸を整えながら必死に意識を戦闘から引き戻していく。


「……終わった……今ので……全部……持っていかれた……」


 小さく呟くその声には悔しさが滲むが、同時に戦い切った実感も確かに残っている。


 フレイドはゆっくりと剣を下ろす。


「……いい剣だった、だがまだ足りない、届くにはもう一段必要だ」


 静かに告げるその言葉には感情の起伏はなく、ただ事実だけが淡々と並べられている。


 レティアは顔を上げる。


 悔しさが滲む。


 だが視線は逸らさない。


「……はい、まだ届いてませんでした、でも次は……必ず届かせます」


 その声は静かだが確かな意志を帯びている。


 フレイドは一瞬だけ目を細める。


「……その意志があるなら問題ない、次に当たる時を楽しみにしている」


 短くそう言い残す。


 観客席が遅れてどよめく。


 圧倒的な完成度の剣技と一切の隙を見せない連続攻撃、そして反撃の余地すら与えない支配力に対する驚愕が波紋のように広がり、会場全体へとその余韻が染み渡っていく。

どうだったでしょうか。

少しでも楽しんでいただけていれば嬉しいです。


今回のお話は、第9話から続く回ということもあり、

ある程度書き進めていたものを本日仕上げて投稿した形になります。


このストーリーは予約投稿は行わず、出来上がり次第、

そのまま投稿していきますので、投稿時間や日時は未定となります。


次のお話も、これから書いていきます。

少しずつの更新になりますが、気長にお付き合いいただければ嬉しいです。


本編も引き続き、よろしくお願いいたします。

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