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閑話 第一六二回 王立魔導学院 学内武術競技会 -四年次- 第8話

閑話、四年次の武術競技会編 第8話です。

 数週間が過ぎ、いよいよ武術競技会の開催日を迎えた。


 朝の澄んだ空気はひんやりと肌を撫で、競技場全体を覆う結界が淡く脈動しながら外界の音を柔らかく遮断しており、踏み固められた地面には夜の冷気が残って薄く霜が張り付いていることで、足を動かすたびに微細な音が連続して響き、静寂の中に緊張を積み上げていた。


 観客席にはすでに多くの学院生が集まり始めており、抑えられたざわめきが低く広がる中で視線だけは中央の舞台へと集中しており、その場全体がこれから始まる戦いに備えて呼吸を合わせるようにゆっくりと張り詰めていく。


 最初に開催されるのは、魔術部門である。


 魔術部門は、探索者育成部、魔術部門、そして学術部門の三部門から、それぞれ自身の判断でエントリーした者たちが参加する形式となっており、純粋な魔術戦としての技量と応用力、そして戦闘構築の完成度がそのまま試される場となっていた。


 舞台の中央に立つ参加者たちは軽装のまま一定距離を保ち、互いの魔力の流れを探るように静かに対峙しているが、その内側ではすでに術式の構築が始まっており、見えない層が幾重にも重なり合うことで空間そのものがわずかに歪み始めていた。


 ルールは明確に定められている。


 接近戦は不可であり、戦闘はあくまで遠距離で行われることが前提となっているため、術者は距離を維持しながら魔術のみで攻防を組み立てる必要があり、その範囲内であれば攻撃、補助、制圧、干渉を問わずあらゆる魔術の使用が認められている。


 ただし例外として、精神や魂へ直接干渉する呪いや死霊系の魔術のみは安全上の理由から明確に禁止されており、術式の構造段階で検知された場合は即座に失格とされる厳格な制御が敷かれている。


 使用可能な武具も限定されている。


 許可されているのは学院が用意した旧式の魔導ライフルのみであり、魔力コンデンサーを搭載しない構造となっているため、術者自身の魔力によって形成した魔力弾を直接撃ち出す形式となっており、外部補助を排した純粋な魔力量と制御精度がそのまま戦闘力として反映される。


 観客席の一角から声が上がる。


「旧式ってことはコンデンサー無しか、それだと完全に自前の魔力頼りになるし制御も誤魔化せないから、単純な火力よりも構築の精度が問われる試合になるな、それでもあえて持たせるあたり学院の意図が見えるよな」


 別の席から応じる声が重なる。


「それに軽量アーマーもあるしな、剣術部門と同じで三つ外されたら終わりってことは、ただ撃つだけじゃなくてどこを取るかの精度も必要になるし、無駄撃ちしてる余裕なんてないだろ」


 さらに別の学生が視線を舞台へ向けたまま続ける。


「魔術部門って言っても撃ち合いだけじゃない、空間制御とか干渉系も全部ありだから、下手すると撃つ前に崩される可能性もあるし、純粋な出力よりも“成立させる力”の勝負になるな」


 その言葉通り、舞台上ではすでに見えない攻防が始まっている。


 さらに。


 剣術部門と同様に、学院が用意した軽量アーマーを装備することが義務付けられており、三箇所に設定された判定部位のうち三つすべてが外れた時点、あるいは術者が戦闘不能と判断された時点で試合は終了となる。


 勝敗の条件は単純である。


 だが。


 そこへ至る過程は、魔術という不可視の干渉が絡み合うことで極めて複雑に変化し続ける。


 結界がわずかに震える。


 審判が前へ出る。


 視線が両者を確認し、空間そのものが一瞬だけ静止したかのように張り詰める。


 そして。

 次の瞬間、すべてが動き出す準備を整えていた。



 アリスもレティアも順調に勝ち抜いていた。

 魔術部門は一戦ごとに難度を増しながらも安定して通過し、対戦ごとに異なる構成へ適応していくことで崩されることなく勝ちを積み重ね、その結果として周囲の視線は自然と二人へと集まり始めていた。


 そして。


 ついに準決勝。


 先に舞台へ上がるのはアリスである。


 結界の内側は変わらず冷たく乾いており、踏み固められた地面にはわずかに霜が残っていることで足運びのたびに微細な音が響き、その音が静まり返った空間に反射して遅れて返ることで、この場が完全に隔離された戦場であることを強く意識させると同時に、空気そのものが張り詰めているのが肌で感じ取れる。


 観客席のざわめきは抑えられているが、その内側には明確な期待と緊張が混ざり合っており、ここまで勝ち上がってきた者同士の戦いを見極めようとする視線が中央へと収束し、わずかな動きすら見逃すまいとする集中が場全体を支配していた。


 対戦相手は、魔術部所属の六年生――カイル・ヴェルグレイ。


 名はこれまでほとんど知られていない。

 少なくとも、目立った戦績や噂は表に出ていない。


 だが。


 その佇まいは明らかに異質だった。


 腰に下げられた魔導銃は旧式規格に合わせたものだが、手に取られる前からすでに魔力の流れが整っており、引き抜かれるより先に射線が構築されるような気配が空間に刻まれている。


 構えは低く安定しているが固定されているわけではなく、重心は常に流動しており、どの方向へも瞬時に移行できるように余白を残したまま維持されていることで、静止しているように見えて常に“動きの途中”にある状態を作り出していた。


 止まらない。


 撃つために立つのではなく、動きながら撃つ。

 射線を置くのではなく、通す。


 空間を“線”で切り裂く戦い方。


 無名。


 だが。


 それだけで評価できる相手ではない。


 観客席から小さく声が漏れる。


「……あいつ、カイル・ヴェルグレイっていうのか、聞いたことない名前だぞ、それなのにあの立ち方はおかしい、撃つ前から空間が歪んでるってどういうことだ……ただの射撃型じゃないぞ」


 別の席から低く応じる声が重なる。


「……線だな、点で撃つんじゃなくて移動と同時に射線を通すタイプだ、止まらない前提で構築してるから普通の回避じゃ間に合わない、あれは見てから避ける相手じゃない」


 さらに別の学生が息を詰めたまま呟く。


「……しかもあれ、まだ構えてないぞ、構える前から完成してる……あの距離でもう撃てる状態ってことか……」


 空気がわずかに重くなる。


 それでも。


 アリスは動じない。


 静かに相手を観察する。

 呼吸は一定。

 視線はぶれない。


 相手の足運び。

 重心移動。

 魔力の流れ。


 すべてを同時に捉えながら、その構造を分解していく。


(……点じゃない、線で取るタイプ、止まらない前提で射線を通してくる構造、つまり成立を許した瞬間に終わる……なら)


 思考が静かに定まる。


(……成立させなければいい、撃たれるかどうかじゃない、撃てる状態になる前に潰す)


 結界が淡く脈動する。


 審判が一歩前へ出る。


 視線が両者を確認する。


 空気が止まる。


 そして。


「――はじめ!」


 その声が響いた瞬間、張り詰めていた空気が一気に解放され、同時にカイル・ヴェルグレイの重心が沈み込むことで地面の霜が弾け飛び、踏み込みと同時に魔導銃が引き抜かれながらすでに構築されていた射線が現実の軌道として顕在化する。


 試合開始。


 カイル・ヴェルグレイは、視線と完全に同期した射線をそのままアリスへと通しながら、間を置かず連射を開始することで圧縮された魔力弾が連続して放たれ、一直線ではなく微細に軌道をずらしながら複数の角度で重なるように迫る。


 近距離戦が封じられている以上、アリスは迎撃ではなく回避を選択し、わずかな重心移動と最小動作のステップで左右へと流れるように位置をずらし続けることで直撃のみを正確に外しながら、射線そのものの構造を読み取ることに意識を割いていた。


 だが連射は止まらない。


 撃つというよりも“通し続ける”射撃は間断なく続き、回避の軌道を先読みするように配置された弾道が次の移動先へと重なることで、単純な左右移動だけでは徐々に逃げ場が削られていく。


(……速いだけじゃない、置き方がずれてる、逃げる方向に合わせて射線を重ねてくる……)


 アリスの思考がさらに一段深く沈む。


 その瞬間、カイルの魔力の流れが変わり、地上の射撃と並行するように上空へ別系統の術式が展開され、空気中の水分が一気に収束して無数の氷槍が形成されていくことで、視界の上方そのものが覆い尽くされる。


 《アイシクルランス》。


 だが数が異常だった。


 単なる面制圧ではない。


 位置がずれている。


 密度が均一ではない。


 それぞれが独立した軌道を持つように配置されている。


「……上も来るのね、しかもこの数で制御してる、単純な範囲じゃない、全部別系統で組んでる……」


 観客席から驚きの声が上がる。


 次の瞬間、氷槍が一斉ではなくわずかに時間差を伴って射出されることで、回避のリズムそのものを崩すように降り注ぐ。


 アリスは即座に判断する。


 迎撃ではない。


 成立を崩す。


「……《エリア・ジャマー》」


 極薄の魔力を空間へと広げ、干渉ノイズとして術式の収束点へ差し込むことで構造そのものを崩壊させる。


 通常であればそれで終わる。


 だが崩れたのは一つだけであり、残りはそのまま維持され、軌道も密度も一切崩れない。


(……一つ……?)


 思考が止まる。


 氷槍はそのまま降り続ける。


 アリスは即座に身体を捻り、射線と落下軌道を同時に外しながら最小動作で回避を繋げることで直撃を避け続けるが、その最中でも意識は完全に別の方向へと向いていた。


(……違う、構造が一つじゃない、これ……全部、個別に完成してる……)


 理解が追いつく。


 《エリア・ジャマー》が効かないのではない。


 効いている。


 だが対象が“個別”であるため、一つにしか干渉できていない。


 つまりこの《アイシクルランス》は、“全てが独立した術式”。


 その事実にアリスの目がわずかに見開かれる。


「……個別詠唱……全部を独立させてるの……!」



 氷槍の降下は止まらない。

 時間差を伴った軌道が重なり、回避のリズムを崩すように角度と速度を微細に変化させながら降り注ぐことで、単純な左右移動だけでは処理しきれない密度へと変化していく。


 同時に、カイル・ヴェルグレイの魔導銃による連射も間断なく続き、視線と同期した射線が連続して通されることで回避先を先読みするように魔力弾が配置され、移動そのものを制限する形で空間を圧縮してくる。


 アリスは即座に魔力を引き上げる。


「……《クイックアクセル》」


 瞬間、身体能力と反応速度が一段引き上げられ、視界に入るすべての情報が細分化されて処理速度が加速することで、迫る射線と氷槍の落下軌道が分解されるように見える状態へと移行する。


 そのまま最小動作で回避を繋げる。

 重心移動と身体の捻りを組み合わせ、魔導銃の射線と氷槍の落下軌道を同時に外し続けることで直撃のみを排除しながら流れを維持し続ける。


 だが、その密度は異常だった。


 回避の最適解を選び続けているにもかかわらず、次の瞬間にはすでにその先へ射線が置かれ、さらに上空からの氷槍が時間差で重なることで“正解の軌道そのもの”が潰される構造へと変化していく。


(……速さで押し切れない、構造で潰されてる……!)


 思考が一段深く沈む。


 だが、そのわずかな遅れが致命的な隙へと変換される。


(……間に合わない……!)


 次の瞬間、数本の氷槍が軌道をずらしながら死角へと滑り込み、そのまま肩口と側面へ同時に突き刺さることで衝撃が遅れて身体へと伝達される。


 ――ドンッ。


 鈍い衝撃が内部まで響き、体勢がわずかに崩れることで次の動作へ繋がる流れが一瞬だけ途切れる。


 直撃。


 軽量アーマーの制御が即座に反応し、判定部位への有効打として認識された瞬間に装甲の一つが自動的に外れて弾けるように空間へ排出される。


 ――一つ目。


 乾いた音が結界内に響く。


 観客席がざわめく。


「……入った……今の、当てたのか……!」


「……違う、あの速度でも避けきれない、回避先を全部潰してる……!」


 アリスの足が止まる。


 ほんの一瞬。


 だが確かに、これまで崩れなかった流れがわずかに乱れ、内部処理の連続性が切断される。


(……被弾……今……?)


 理解が遅れる。


 その事実が初めてであることが、思考の一部を一瞬だけ停止させる。


 視線が落ちる。


 外れた軽量アーマーが地面に転がっている。


 その光景を認識した瞬間、アリスの表情がわずかに揺れる。


「……っ……!」


 ほんのわずかに。


 だが確かに、焦りが走る。


 これまで崩されなかった前提が初めて崩されたという事実が、遅れて実感として押し寄せる。


(……初めて取られた、この段階で……?)


 思考が一気に加速する。


 だが同時に、空気は止まらない。


 次の射線と氷槍はすでに重なっている。


 アリスは判断を切り替える。


(……避けきれないなら受ける、ここで流れを切らせない……!)


 両手をわずかに引き寄せ、魔力を同時に展開することで二層構造の防御を瞬時に構築する。


「……《魔術障壁》……《物理障壁》」


 魔術干渉を弾く層と物理的衝撃を受け流す層を重ねることで二重の防御を形成し、降り注ぐ氷槍と迫る魔力弾の双方を同時に受け止める。


 氷槍は魔術障壁に干渉した瞬間に構造を崩されて砕け散り、魔力弾は物理障壁に弾かれて軌道を逸らされることで直撃を防ぐ。


 成立している。


 だが、その中にわずかに異質な一発が混ざっている。


 見た目は同じ。


 波長も近い。


 だが内部構造が違う。


 カイルが魔力弾の流れに紛れ込ませた圧縮土属性弾――《ストーンバレット》。


 アリスはそれを魔力弾として認識する。


 ゆえに魔術障壁で受ける。


 次の瞬間。


 ――鈍い衝撃。


 魔術障壁は干渉には強い。


 だが純粋な物理圧縮には対応していないため、ストーンバレットはそのまま障壁を貫通して軽量アーマーの判定部位へと直撃する。


 ――ドンッ。


 衝撃が身体へ伝わる。


 軽量アーマーの制御が即座に反応し、有効打として認識された瞬間に装甲の一つが自動的に外れて弾けるように空間へ排出される。


 ――二つ目。


 乾いた音が再び結界内に響く。


 観客席がどよめく。


「……今の、通したのか……!?」


「……違う、仕込んでる、魔力弾の中に別の弾を混ぜてる、完全に読まれてる……!」


 観客席のざわめきは一気に大きくなり、先ほどまでの予想を裏切る展開に誰もが目を見開いていた。


 その中で。


 レティアもまた言葉を失っていた。


 視線は一点に固定され、戦場の全体構造を読み取ろうとしながらも、その精度と組み立てに対して明確な驚愕を隠せない。


(……何あれ、射線で動かして氷槍で潰して、その上で混ぜてる……? あの短時間でそこまで組めるの……?)


 呼吸がわずかに乱れる。

 それほどまでに異常だった。


 そして、当のアリスは呼吸が乱れ、視線がわずかに揺れている。

 二つの軽量アーマーが外れたという事実が、明確に思考へ影響を与えていた。


(……二つ……もう二つ……?)


 焦りが走る。


 これまで崩されなかった前提が完全に崩れ、想定していた戦闘の枠組みそのものがずれていることを認識する。


(……違う、押されてる、完全に主導権を取られてる……!)


 思考が加速する。


 だが、カイルは止まらない。

 次の射線はすでに通っている。

 氷槍も再構築されている。


 氷槍の降下と魔導銃の連射は途切れない。

 空間そのものが圧縮されるように射線が重なり続け、回避の余地はわずかに残されているだけで、そのわずかな隙間も次の瞬間には埋められていく。


 アリスは崩れた体勢を即座に立て直す。

 二つの軽量アーマーが外れた事実を理解しながらもそれを引きずる余裕はなく、流れを断ち切るために強引にでも反撃へ移行する必要があると判断する。


(……このまま受け続けたら終わる、ここで切る……!)


 回避の流れを維持したまま魔力を一気に収束させる。


「……《レイ・スパーク》」


 詠唱と同時に上空へと収束した魔力が一瞬で臨界へ達し、空間を貫くような高密度の雷撃が一直線に落下することで、回避を許さない速度と範囲でカイルを捉えにいく。


 ――バチィィィィィィィッ!!


 閃光と轟音が結界内を焼き、空気が震えて白く塗り潰されるように視界が一瞬消し飛ぶ。


 だがカイルは止まらない。


 魔導銃の連射を維持したままわずかな重心移動だけで雷撃の直撃ラインを外し、そのまま横へ滑るように位置をずらすことで回避を成立させる。


 しかも連射は一瞬も途切れていない。


 回避と同時に射線が更新され、次の瞬間にはすでにアリスの回避先へ魔力弾が通されている。


 観客席がどよめく。


「……避けた、いや違う、撃ちながら避けてる……!」


「……あの雷撃を見てから動いてるのに連射が一切止まってない、どうなってるんだ……!」


「……普通は一度止まるだろ、詠唱に反応して構え直すはずなのに、なんで撃ちながら処理できる……!」


 レティアも息を呑む。


 視線は完全に固定され、その挙動の一つ一つを追いながらも理解が追いつかない部分に対して明確な驚愕が走る。


(……止まってない、回避と射撃が分離してない、同時処理してる……そんなこと可能なの……?)


 アリスもまた同様だった。


 雷撃が外れたことではない。


 問題はその後。


 回避されるのは想定内。


 だが撃ち続けている。


(……止まらない……!? 今のタイミングで止まらないの……!?)


 射線が消えない。


 むしろ増えている。


 回避の軌道に合わせて更新され続けることで、逃げ場がさらに削られていく。


 アリスは再び回避へと移行する。


 だがその動きの中で確実に理解してしまう。


(……この人、攻撃の手を止めない、止める前提で組んでない……!)


 戦闘の前提が違う。


 通常は攻撃と回避は切り替える。


 だがカイルは違う。


 撃ちながら避ける。

 避けながら撃つ。


 その両方を同時に成立させている。


 観客席のざわめきはさらに大きくなる。


「……なんだあれ、ずっと撃ってるぞ……!」


「……止まらない、連射が途切れない……!」


 戦場の空気が変わる。

 それは単なる優勢劣勢ではない、戦い方そのものが違うという認識。


 その中心に立つアリスは歯を食いしばる。


(……違う、まだ崩されただけ、ここから組み直す……!)


 だが射線はすでに通って、氷槍も再び構築されている。



 魔導銃の連射は止まらない。

 視線と同期した射線が連続して通され、左右だけでなく前後の回避までも制限されることで、空間そのものが逃げ場のない通路へと書き換えられていく。


 アリスは回避を繋げる。

 だが混ざる弾が問題だった。


 単純な魔力弾に見えるが内部に《ストーンバレット》が紛れ込んでおり、見た目と波長が一致しているのに性質が違うため識別が追いつかず防御選択の時間が奪われる。


(……識別が間に合わない、障壁を出す余裕がない……!)


 判断が制限されることで選択肢が削られ、結果として回避しか選べない状況へと追い込まれる。


 アリスは歯を食いしばる。

 流れを切るため反撃へ移る。


「……《イグニス・ダーツ》」


 炎弾を複数同時に形成し拡散射として空間全体へ放つことで、面制圧によって射線を崩す狙いで展開する。


 だが成立しない。


 次の瞬間、魔力弾が正確にぶつかる。


 ――バシュッ、バシュバシュッ!!


 炎と魔力が衝突しすべて相殺されることで火球は一つも残らず消し飛び、反撃は成立する前に消滅する。


(……全部……相殺された……?)


 視線が揺れる。

 処理精度が異常すぎる。


 連射は止まらない。

 むしろ密度が増している。


(……魔力……尽きないの……?)


 違和感が確信へ変わり、通常ではありえない消耗のなさが現実として成立している。


 カイルの魔力が上空へ展開される。

 連射を維持したまま別系統の術式が構築される。


 無数の土塊が形成され圧縮と収束を経て整然と配置されることで、《ストーンバレット》が層として並ぶ。


 それが即座に射出されることで回避の余地を削り取る。


 間を置かず次の術式が発動される。

 空気中の水分が収束し氷槍が形成される。


 《アイシクルランス》。


 形成と同時に発射される。

 さらに再構築されて即座に次が放たれる。


 連続であり途切れない。


 魔導銃の連射とストーンバレットの降下、さらにアイシクルランスの展開がすべて同時に成立する。


 しかも止まらない。

 一瞬の空白も存在しない。


 観客席がざわめく。


「……なんだあれ、撃ちながら三系統回してるぞ……!」


「……ありえない、全部同時ってどういうことだ……!」


 レティアの視線が鋭くなる。

 だがその奥には明確な驚愕がある。


(……同時処理じゃない、全部独立してる……制御の次元が違う……!)


 アリスは息を呑む。

 視界のすべてが敵になる。


 逃げ場が消える。

 回避だけでは足りない。


 防御も成立しない。

 攻撃も通らない。


(……何これ……どこから崩すの……!?)


 思考が揺れる。

 戦闘の前提が完全に崩れる。


 だが止まれない。

 次の射線が来ている。


 次の氷槍が降る。

 次の土弾が落ちる。


 戦場は完全に支配されていた。


 魔導銃の連射は止まらない。

 視線と同期した射線が連続して通されることで左右への回避だけでなく前後の選択肢までもが削られ、空間そのものが逃げ場のない通路へと書き換えられていく。


 その上から圧が重なる。

 ストーンバレットが降り、アイシクルランスが時間差で重なることで層構造の攻撃が形成され、連続展開によって回避の正解そのものが消されていく。


 アリスは回避を繋げる。

 だがすでに流れは完全に崩されており、最適解を選び続けても次の瞬間にはその先が塞がれることで連続性が維持できなくなる。


(……足りない……!)


 速度も判断も対応もすべてが一歩ずつ届かず、処理の遅れが積み重なることで状況そのものが押し潰されていく。


 次の瞬間。


 魔導銃の射線に追い込まれた回避先へストーンバレットが落ち、そのさらに先へアイシクルランスが重なることで完全に逃げ道が塞がれる。


 逃げ場がない。


(……ここ……無理……!)


 踏み込みが一瞬遅れる。

 その遅れが致命的な隙へと変換される。


 ――ドドドッ。


 複数の衝撃が同時に重なる。


 魔力弾とストーンバレットと氷槍が同時に判定部位へ到達し、衝撃が連続して身体へ叩き込まれることで完全に体勢が崩れる。


 ――ドンッ。


 最後の一撃が決定打となる。


 軽量アーマーの制御が即座に反応し、三つ目の装甲が自動的に外れて弾けるように空間へ排出される。


 ――三つ目。


 同時に。


「――そこまで!」


 審判の声が結界内に響く。


 試合終了。


 静寂が落ちる。


 一瞬だけ誰も言葉を発せず、空気そのものが凍りついたように動きを止める。


 そして次の瞬間。


 爆発する。


「……え……終わった……?」


「……嘘だろ……アリスが……あのアリスが……!」


「……こんなにあっさり……? いや違う……あれは……!」


 言葉が続かない。

 理解が追いつかない。


 観客席はざわめきではなく混乱へと変わり、誰もが目の前で起きた現実を受け止めきれずに視線を彷徨わせる。


 その中心でレティアは立ち尽くしていた。

 視線は戦場から動かず、その奥で思考だけが完全に停止している。


(……負けた……? 今……?)


 理解が遅れる。


 だが見ていた。

 すべてを。


 あの連射と同時展開と混合弾が常識の外にある挙動として成立しており、それが一切の隙なく連続していたという事実を確実に捉えていた。


(……違う……簡単に負けたんじゃない……あれは……戦い方が違いすぎる……!)


 呼吸が乱れる。

 それほどまでに圧倒的だった。


 観客席からも声が上がる。


「……魔力……尽きてない……あの密度でずっと撃ってたぞ……!」


「……しかも三系統同時だ……魔導銃と土弾と氷槍が全部止まってない……!」


「……何なんだあいつ……六年で無名ってレベルじゃないだろ……!」


 驚愕は広がる。

 理解が追いつかないまま波紋のように拡散していく。


 ただ一つ、確かなことだけが残る。


 アリスが敗れた。

どうだったでしょうか。

少しでも楽しんでいただけていれば嬉しいです。


このストーリーは、予約投稿は行わず、出来上がり次第、即投稿していきます。

そのため、投稿時間や日時は未定となります。


次のお話も、これから書きます。

少しずつの更新になりますが、気長にお付き合いいただければ嬉しいです。


本編も引き続き、よろしくお願いいたします。

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