第25話 【実験体】
馬車を手に入れるために商業の町タンガルが見える丘の上までやって来ると……。
「何か様子が変だな……」
商業の町と言うからにはもっと賑わっていてもおかしく無いし町の入口は頑丈そうな扉で閉ざされ兵士や冒険者が城壁の上にいるのが見える。
「師匠、何か変なんですか?」
「そうだな……、……これはっ!」
サーチで確認すると、魔物の大群が町に向かって来ていた。
「ふむ……リアンはわかるか?」
「う〜ん……何か風の流れが変ってる事くらいしか……」
「私はわかります……」
「はい、私も……」
「ん……これって……マシオ、魔物の臭いがする……」
どうやらライラとムーンさん、ルナはわかったようだ。
「魔物の大群が町に向かっている」
「ええ! それは大変じゃないですか!?」
「師匠! 早く魔物を倒さないと!」
「まてまて、少し考えてから行動するんだ。 こう言う時は2つ思い浮かぶ」
「2つですか?」
「そうだ。 魔物が何かに惹かれて町を目指している場合となにかに追われている場合だ」
「追われてるって……何にですか?」
「それはわからないが、あの大群が投げ出すほどの魔物だろう」
「それじゃどうすれば……」
「私がやってやる!」
「ルナちょっとまて、俺は魔物が逃げて来ている方に行ってみるからルナ達は町の人達を頼む」
「師匠、僕も行くよ!」
「ありがたいが、町の方が心配だ。 そっちを頼みたい」
「……わかりました……」
町の方を皆んなに任せ、俺は魔物が逃げて来ている方へ向かった。
「強い魔力を感じるな……」
何度か転移を繰り返して魔物が来た場所を目指していると強い反応がある。
「見えた……あれがそうか?」
なんだろう……肉の塊のようなブヨブヨとした巨大な物体。
見た目は悪いが強い魔力を感じるので、あれが魔物が逃げ出した原因だろう。
少し近くまで転移すると、転移した場所にブヨブヨとした魔物が体の肉を伸ばして捕まえようとして来た。
「うおっ! あぶね!」
なんだあいつは……まるで俺が転移する場所をわかって攻撃して来たみたいじゃ無いか?
そのブヨブヨの魔物をよく見ると、これまでに取り込まれたであろう魔物の溶けている顔が見え、かなりグロい。
こいつ……魔物を取り込んで成長してやがるのか……。
こんな事をされれば、そりゃ魔物も逃げるよな……。
「成仏させてやるか」
火炎魔法で勢い良くブヨブヨを焼くと肉の焼け焦げる臭いがしてくる。
ブヨブヨが真っ黒に焦げたので近寄ってみると、焦げた体が割れて中から肉の手を伸ばして来た。
瞬間、転移して躱したがその転移先で捕まってしまう。
「くそっ! やっぱりこいつ転移先の魔力を感知してやがるのか!」
ブヨブヨは体に俺を取り込もうとするが、多少のダメージは覚悟で魔法を発動させて肉の手を吹き飛ばした。
「くはっ……いてえ……」
爆発で俺も焦げてしまうが脱出は出来た。
このブヨブヨには魔法が効きづらいようだな。
「それなら斬り刻んでやる!」
蛇腹剣で攻撃してブヨブヨの肉を削り取って行く。
「随分スマートになったじゃねえか!」
だいぶ削り取ったので、ブヨブヨの体は細くなって来ていた。
しかし、ブヨブヨは体中から肉の手を伸ばして攻撃してくる。
蛇腹剣で自分の周りをバリアのように覆い肉の手を防ぐ。
「そんな攻撃じゃ俺には届かねえぞ!」
蛇腹剣は肉の手を斬り刻んでいるはずなのだが、ブヨブヨの体の体積が減らなくなっている。
「おかしい……」
一度空中に転移すると、ブヨブヨの背中からも肉の手を出して近くにいた魔物を取り込んでいた。
「ちっ! でももう近くに魔物もいなさそうじゃねえか! このまま押し切ってやる!」
蛇腹剣の速度を上げて斬る速度を上げた。
ブヨブヨの肉体を斬り落とすと、中心からは1人の人間のような姿が現れた。
「あれが本体なのか?」
その人型は全身真っ白く目も口も無い……まるでホルマリン漬けの生き物のようだ。
そいつは体に骨が無いのかヨタヨタと歩きながら近寄って来る。
「……今、楽にしてやる」
どうしてこうなったのか理由はわからないが、このままにしてはおけなかった……。
蛇腹剣で貫くと、その人型は眼球の無い瞳から涙を流し皮膚を破って口を作り笑って溶けて行った。
誰がこんな虫唾が走る事を……考えられるのは魔族だろうな……。
「こっちは倒したし、町の方が気になる。 早く戻るか」
転移して戻ろうとした時、急に背後に悪寒が走った。
バッと後ろを見るとブヨブヨが溶けた場所に誰かがいる。
「おーおー、私の可愛い実験体よ……こんな姿になってしまうなんて……やはり失敗作は使えんなあ……しかし……こいつを倒せる奴がいるとは……」
「お前がこいつを作ったのか!?」
目の前に転移して見ると、背の小さなそいつは鳥のような顔をしており魔女の帽子に黒いローブを羽織っている。
明らかに魔族だ。
「……お前が私の可愛い実験体を壊したのか?」
「……そうだ」
俺は剣をローブに隠していつでも引き抜ける準備をしている。
「そうかそうか……お前が……お前があああ! わだじの実験だいをおおお!!」
な、なんだこいつ……。
鳥顔の魔族は空に叫ぶと俺の方を向いて手に持っていた杖をかざして来る。
「失敗作だど!? ゆるざん! ゆるざんどおおおお!!」
「俺は言ってねえ! お前が失敗作って言ってるじゃねえか!?」
「失敗作? じっばいざぐだどおおお! それはわだじが決めることでお前じゃない! ない! ないーー!!」
「こ、こいつ狂ってるのか?」
「ハァハァ……私は冷静だ。 いつでも冷静だ! だから今度は貴様で実験をしてやる! 実験! じっげんだあああ!!」
杖の先に魔法陣が現れると、透明な魔力の腕が伸びて来る。
さっきのブヨブヨと似た攻撃だ!
すかさず蛇腹剣を伸ばし透明な腕を攻撃するも……。
「斬れ無いだと!」
蛇腹剣は腕を素通りしてしまい、俺は腕の攻撃を回避するのが精一杯となってしまう。
「よげるなっ! わだじの実家体となれ゛!!」
「はいなりますなんて言うわけないだろ!」
俺は蛇腹剣を引っ込めると火炎魔法を圧縮させた火球を飛ばすが……。
透明な腕は火球を掴み遠くへ投げ飛ばしてしまった。
投げ飛ばされた火球は轟音と共に大爆する。
「こいつ……俺の魔法を……」
「つまらん……つまらんがあの獣人よりは面白い実験が出来そうだ……」
鳥顔の魔族は透明な手を引くと、杖を掲げ空に巨大な魔法陣を発言させた。
「さあ出ておいで……私の可愛い作品よ……」
魔法陣から現れたのは無数の目と口がある緑色をした球体の化け物。
さっきのブヨブヨも気持ち悪かったが、こいつはまた気持ち悪りぃ……リアンが見たら卒倒しそうだ。
「よしよし、あいつの動きを止めるんだよ……その間に私が体の破損を少なくして殺すからね……」
作戦が聞こえてるぞ……動きを止めるって事は何かしらのそう言った能力があるって事か……気をつけないとな……。
俺はさっきより強めの火球を目玉が沢山ある化け物に飛ばすが、鳥顔の発動した透明な手によってまたしても防がれてしまう。
そして目玉の魔物の口が開くと紫色の禍々しい霧を吐く。
咄嗟に転移で空中にいる目玉の上に移動して剣を取り出し振りかぶった瞬間、無数にある目玉は俺を捉えて無数にある口の一つが開き超音波のような高周波を放って来た。
「がっ!」
見えない超音波をもろに受けてしまい地上に落ちた。
「ぐぅ……」
動けないまま落ちた衝撃で左肩がイッたか……、……多分砕けてる……。
ちょっと動かしただけでも激痛が走る。
回復魔法をかけるが、痛み止めにしかならない……だけど今はそれでいい……。
空中にいる目玉の化け物と鳥顔の魔族の攻撃を左肩を押さえながら回避するのが精一杯だ。
まずいな……このままだとジリ貧だ……いつかは捕まってしまう……せめてどちらかの攻撃が止めば……魔剣が使えるんだが……。
ダクスをリアンに渡すんじゃなかったか……。
町に向かった皆んなを守るためにダクスをリアンに預けてしまっていたのが裏目に出たようだ……。
「キー! ちょこまかと! さっさと動きを止めろ! 止めろ!!」
目玉の化け物は無数の口を開くと、全ての口が魔法の詠唱を始めた。
その魔法は少し威力のあるファイヤーボールだが……。
無数に降り注ぐファイヤーボールの雨を今の状態で避け続けるのは無理だ!
俺は結界を発動させてファイヤーボールの雨を防ぐ。
だが、鳥顔の透明な手は結界をスルッと抜けて中に入って来るのだ。
「なんだこの手は!」
今結界から出たらファイヤーボールの雨にやられる……結界内で無数の手を避け続けるしか無い。
回復魔法で肩の痛みを和らげているが、全く痛く無いわけでは無く痛みは走るし回避の仕方によっては激痛が走る。
そこを透明な手に狙われついに掴まれてしまった。
直ぐに引けばそこを剣でと考えていたが、鳥顔の魔族は捕まえた俺の左足を捻り、ブチブチと嫌な音が聞こえ激痛が走る。
すかさず回復魔法で痛みを軽減するが、掴まれたまま足を引かれてしまい激痛が全身を襲う。
これでは……攻撃が出来ない……。
結界から出ないように剣を地面に刺して必死に捕まるが、激痛で手を離してしまった。
「つーかまえた、捕まえた! お前、もう魔法はいい! さっさとこっちに来い! 往生際が悪いな! 早くこっちにいいいいいギャァァァァ!!」
鳥顔の魔族が叫ぶと透明な手が消えた。
「……ッ……なん……だ!?」
魔族を見ると、その腹に剣が突き刺さっている。
「まったく……俺の口上を聞けよな」
魔族の背後に誰かいる……。
「な……なにぃ者だ……げはい無かっだぞ……」
「お! 良く聞いた! よし、特別にもう一度やってやろう!」
そいつは魔族から剣を引き抜いて何も無い場所に剣を振るうと、空間が切れて穴が現れた。
その中に入り出て来た所は俺達より少し高い場所、そこに立つ。
そして剣を鞘に収めるとマントをひるがした。
「誰かの叫びが響く時 悪の笑いがこだまする 涙を流す人々の 魂背負ってやって来る 時も次元も飛び越えて 正義の証しを指し示す 正義の使者ラフィーレ ここに参上! とうっ!」
一回転しながら着地を決めると背後が爆発した。
回転しながら降りて来た時に何か投げたのか……、……いやいや、今はそんな事どうでもいい。
口上とか……こいつなんなんだ?
「…………はっ! キー! なんなんですかあなたは! 私の腹に穴を空けおって! お前は実験体にしてやらないからな! 殺してしまえ!」
目玉の魔物が動こうとした時、真っ二つに切れた。
いつの間に! 俺でも気が付かなかったぞ……。
「悪はもう貴様だけだ! 我が正義の剣を受けるがいい!」
「キー!! 私のがわいい実験体をおおお!! ごろず! ごろじでや……る……」
離れた場所から男が剣を振るうと魔族の鳥顔が胴体と離れる。
どう言う攻撃だ? 見えなかったぞ……。
「わ……わだじが……わだじがまげゆ……」
鳥顔の魔族は溶けてしまった。
「次は貴方ですが……」
ラフィーレと言う男が倒れている俺に剣を向けてくる……が……。
「どうやら怪我が酷いようですね……いいでしょう、今回は見逃します」
「お前はいったい誰なんだ……?」
「私はラフィーレ、今は裏ギルドの一員です。 貴方は手配書にあった方ですよね? 捕まえたい所ですが私は正々堂々がモットーなんです。 次にお会いした時は正々堂々戦おうじゃないか」
ラフィーレは剣を振るって空間を斬ると、中に入って行った……と思ったら出て来た。
「あ、これはポーションです。 全開とは行かなくても少しはマシになるでしょう。 こっちのは貼るタイプの薬草です。 それではお大事に」
また空間に消えた……。
わけわからないが、悪い奴では無さそうだ。
せっかくのポーションと薬草は使わせてもらおう。
「お、結構効くな。 よし、皆んなの元へ急ぐか……無事だといいが……」
転移を繰り返しながら、襲って来た魔族とラフィーレの事を考えながら町へと向かった。
読んで頂きありがとうございます。
頑張って書いていきますので、モチベを上げてあげようと思っていただけるようでしたらブクマや★評価をつけていただけますと作者が喜んで踊りながら遅い執筆も早くなると思いますので、どうぞよろしくお願いします。




