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村人Aとエルフ

はじまりの村というものが、冒険者ならだれでも通る村として存在している。そこでは、高確率で、勇者になるものが産まれ、聖剣という選ばれた者にしか抜けない剣が存在することが多い


ピロピロピロリン♪


「お疲れ様です」


時計の針は午前11時を指している。いつもの卸業者がくる時間ではない。


「こんにちは。お久しぶりじゃの、店員どの」


木で作られた大きな杖を持ち、白い髭を生やして、ツルツルに剥げた老人が、卸業者専用の裏口を通って挨拶してくる


「長老さん、お久しぶりです。今年は随分早いですね」

「ほっほ、今年もよろしく頼むぞい。今日は孫もつれてきたんでの」


そういうと老人は、背中の後ろに隠れていた孫を紹介する


「はじめまして、はじまりの村では村人Aと呼ばれています。今日は村の長老である祖父より取引現場を見学させていただきにまいりました」


村人Aは懐から名刺を取り出すと、深々と頭を下げ丁寧な挨拶と同時に名刺を両手で差し出してきた


「宜しくお願い致します。では、さっそくですが商品の査定をしていきます」

「今年は、とくに農作物が豊富での」


そういうと、老人は孫に杖で指示を出し、たくさんの農作物が詰め込まれた箱を台車から卸して店内の床に並べていく


「いつもより商品が多めですね」


「去年の勇者がバカで考えもなしに、聖剣を早く抜きすぎてのう。しかもはじまりの村の前にゲートも出現して、観光客も激変してしまったのじゃ。なので、次の勇者が産まれるまでに聖剣を作ってぶッ刺しておいて観光地にしたいのじゃが、費用が足りんくてなぁ。今回は多めに出荷としたのじゃよ」


「それは大変ですね。128500ペソになります」


「本当に去年の勇者はバカでのう、聖剣を抜いたのが嬉しすぎて村の外でブンブン振り回して自慢気に語るものじゃから、観光客も引いてしまって、もう一声!」


「それは、大変苦労をされたのですね。128900ペソで」


「本当にあのバカ者があと1年待ってから聖剣を

抜いてくれたなら、村も冬を越える前に観光客から稼いで冬支度の準備が整ったと言うのにのう。もう一声!」


午前11時32分、長老と孫はホクホク顔で帰って行った。まぁ、今年の野菜はとても出来がいいから少し割高になってもしょうがない


テッテレー♪ガー

「いらっしゃいませー」

「こんにちは店員さん」


銀髪のロングヘアから除く、とがった耳。

常に笑顔を絶やさずともその薄い唇からは、歯が覗くこともない。

裾の長い絹の衣から除く足先は床からほんの0.5cmほど浮いており、自身の身体を汚すことを決して許さず、眉目秀麗という言葉が似合うこのエルフは、野菜コーナーに並べられた商品をしげしげと覗き込む


「今日の野菜は最高の出来ですね」

「そちらは先ほど仕入れたばかりの商品です」


エルフは籠いっぱいに野菜を詰め込むと、レジに置き会計が終わるまで小言のように愚痴をこぼしていく


「昨年から、ゲートなるものが人族の村の近くにできたと風の噂で聞きまして、それがエルフの隠れ家につながっているみたいで、うちの料亭も観光客が増えすぎて野菜が足りなくて困っていたところなんです」


ピッピッガシャン


「12050ペソになります」

「クレジットで」


袖口から取り出したエコバックに買った野菜を詰め込みながら、エルフの愚痴は止まらない


「どこかのバカが、聖剣を1年早く抜いて人族の村の外で振り回したせいで、村を覆っていたシールドが崩壊して、周辺の魔素が村に流れ込む被害が起きたみたいで、それを魔素が効かず浄化する力を持つエルフの隠れ家に送るようにそのバカが村の前にゲートを開いたみたいなんです。」


テッテレー♪ガー

「いらっしゃいませー」

「トイレ!トイレ!トイレ!店員の兄ちゃんトイレをかしてくれー!!!」


そのどこかのバカが、トイレに駆け込んでくる。ちなみにここのコンビニは冒険者が多く利用者が多いため、トイレが男女20個室ほど設置されており、スライムによる自動洗浄となっている


「…店員さん、今日も静かに愚痴を聞いてくださり、ありがとうございます。今度うちの料亭に遊びにきてください。では」

テッテレー♪ガー


エルフは騒がしいものを苦手とする者が多い


「ありがとうございましたー」

ジャーコボコボコボコ

 「ふぅ〜俺の穴の要塞が、崩壊するとこだったよ」


貴方は大事な物を決壊させてましたよ


賢者タイムの勇者が、濡れた手を自分の髪で拭きながら颯爽と立ち去っていく


はじまりの村とエルフの村では、それぞれ帰った村長とエルフが去年のバカを思い出し、大きなため息をついていた


あの勇者もトイレに座って集中しているときみたいに静かであればいいのにと






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