マザーズの井戸端会議
午後2時30分、主婦が少しだけ育児から解放されてゆっくりと出来る時間
ダンジョンコンビニの休憩室では、深夜0時から24時間、コタツの中でダラダラと過ごしている主婦がのっそりと起き上がり時計をボーッと眺めている
「ふぁああ」
大きなあくびと小さな背伸びをして、休憩室のドアを開けると、コンビニのレジで慌ただしく働く息子に声をかけた
「マーちゃん、きょうママのおともだちくるからねぇ〜」
「聞いてませんが」
息子に冷たく返事をされようが、気にしない。コポコポと珈琲を注ぎ、コタツの中に顔から潜り込むと、コタツの中で夫と目が合う
「パパ〜何してるのぉ〜」
「ブフォ!ブフォ!」
「えぇ〜だってぇ、今日はぁママおともだちが来るからぁ、相手できないっていったもん」
「ブフォ!」
「だぁ〜めぇ〜」
コタツの中で身体を丸め、ふてくされる夫をよそにおともだちのために、コンビニからくすねてきたお茶菓子の用意をする
テッテレー♪ガー
「いらっしゃいませー」
「まーくん!おっひさー!やーだっ!あいかわらずIKEMENねっ!チュッチュ!」
「やめてください」
休憩室の外で、息子を可愛がるともだちの声がする
「ガーママ、いらっしゃ〜い」
「やっほー!あんたあいかわらず変わんないわね!」
「ガーママはぁ、あいかわらずつよそぉ〜」
「それ褒め言葉!」
大きな羽に鋭いクチバシ、筋肉質な身体に、フリフリの白いエプロンをつけたガーゴイルが豪快に休憩室の母親に抱きつく
「そういえば!あんた、この前あげた卵!孵化させちゃったんだっけ!?」
「そぉ~なのぉ~。でもねー、ちゃんと里親さんにぃ渡したからぁグッジョブ」
何がグッジョブだ。あれは渡したというか押し付けたというか
「あれ無精卵だったんだけど、あんた聖魔法使いじゃなくて性魔法使いなんじゃないの!なんてーアッハッハ!」
「やぁだぁ〜ガーママったらぁ〜」
なんて下品な会話なんだ
「え、てことはアタシが母親であんたが父親?いや、里親さんがアタシの旦那になる?やだっ!アタシもあんたも旦那いるのに浮気になっちゃうかんじ!?」
「そぉなっちゃうかも〜」
「昼下がりの女達ってか、んなわけないじゃーん!アッハッハ!」
コタツの中で父親が、ダンダンと拳を床に叩いている、音が聞こえる
「最近さー、旦那と冷めちゃってさー!あんた達はいっつもラブラブじゃん?なんか秘訣とかあんの?」
「えぇ〜、さいきんはぁ、温泉旅行にいったぁ~」
「マジで!どこの温泉!?」
「地獄谷おんせ〜ん、えーとお土産お土産ぇ」
コタツの中から手だけを出して、お土産の温泉まんじゅうを差し出す人見知りの父親
「マジで!いいなぁ!あそこの餓鬼って、めっちゃIKEMEN揃いじゃん!」
「そぉなのぉ〜メアドこーかんしちゃったぁ」
ガンッガンッとコタツの中で頭を打ち付ける音がする
「旅行かー旅行もいいわねー。でも、うちの旦那出不精だからな」
「やぁねーガーママったらぁ、うちのだんなもぉデブよぉ~最近はぁおなかもたぁぷたぁぷしてるしー。オーガじゃなくてぇオークになりそーよー」
「そっちのデブじゃないわよ!アッハッハッハ!」
「ガーママの旦那さんは今日もおしごとぉ?」
「今日も大聖堂の警備員よぉ!ずぅーと屋根の上で体育座りで固まってる!そういやあんたを紹介してくれたのも旦那だったわね!今日はあんたの旦那は?」
「うちもぉ今日も自宅けいびいいんよぉ」
コタツの中で体育座りでいじけているが、これでも以前は、残虐鬼王と呼ばれる立派なモンスターだった
人見知りがひどすぎて、目が合うのが怖いからと出会うモンスターや敵をちぎっては投げ、食べては投げ、倒していただけらしいが
コタツの中で茹で上がりそうになる頃、時計の針が5時30分をさしていた
「あら!もうこんな時間!夕飯の準備しなきゃ」
「ガーママ、今日のごはんはなぁに?」
「目玉焼きとたまごやきとオムライスよ!」
「いいなぁー食材にこまらないってぇ」
テッテレー♪ガー
「ありがとうございましたー」
レジにいる店員に投げキッスしながら、帰っていく母の友人を横目に、入れ違いでバイトを終えた異世界転生者が慌てて店員に駆け寄る
「いらっしゃいませー」
「て、店員さん!さっきのガーゴイルって!!」
「あなたの奥様らしいです」
「・・・え?」
「お仕事、頑張ってください」
「・・・え?」
可愛い我が子のために粉ミルクを購入し、小さなガーゴイルに頭をかじらせながら異世界転生者は帰っていく
テッテレー♪ガー
「ありがとうごさいましたー」