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人魚とデュラハン

ダンジョンコンビニにも夏は訪れる。今年の夏はとくにマグマが燃えるように暑い。夏ならではの商品もいくつか入荷したが、ダンジョンなので顧客が何を求めているのか毎年どんなニーズがあるのか想像がつかないので、さまざまなグッズを数千点入荷している


テッテレー♪ガー

「いらっしゃいませー」


ぴちぴちと涼し気な音とともに、夏になると必ず訪れる顧客がいる。人魚だ


「店主!は・・はやく・ミネラルを・・ぐ・・」

今にも干からびそうな声で、助けを求めながら入ってきた客にキンキンに冷えたミネラルウォーターをぶっかける


「120ペソです」

「っぷはー!大丈夫だったか妹よ!」


上半身裸にふんどしを着けた男の裸体が、自分の顔の部分にくっついている魚に問いかけるとぴちぴちと魚のしっぽが揺れた


人の身体に魚がついた生物。人魚だ

「ところで、店主、今年も例の物は届いているだろうか?」

「はい、昨日入荷されたばかりですよ」


店員は、倉庫から大きな箱を取り出すと人魚の前にドンっと置いた。その音に反応して、魚の乾いた目がぎょろッと動く。この魚、正面から見たら頭は右側についている。平べったく、ぬめぬめとした体をしており、目の前に置かれた商品がうれしいのか、口元からは鋭い歯が見え隠れした


「よかった!どうも今年の夏は暑すぎて、何度も妹が干物になりかけて大変だった!少しここで試してみてもいいだろうか」

「どうぞ」


人魚は届いた商品の代金と2リットルのミネラルウォーターを200本分支払うと、広い場所へ運び、さっそく商品の箱を開ける


「素晴らしい!」

人魚の前に広げられたのは、個人宅用のプールだった。付属の空気入れでシュコシュコと膨らますと、ミネラルウォーターをどばどば入れる


「待て待て跳ねるな妹よ!少し塩を混ぜなければ!」


ふんどしから天然塩と書かれた袋と持参した計測器を取り出すと、塩分濃度を測りながら塩と水を微調整しながら混ぜている


「さあ!行くぞ妹よ!」


人魚は両手合わせ、腕を上げると頭からプールにとびこんだ


「左側が頭側だったんですね」


右目カレイに左目ヒラメ、どうやら妹はヒラメの方だったみたいだ。逆立ちをしたような恰好で両足を広げ、魚部分のみでプールの中でジャバジャバと泳いでいる。


テッテレー♪ガー

「いらっしゃいませー」

「すみません、店員さん接着剤は売っていますか?」


左手に鎧のついた頭を抱え、慌てた様子で漆黒の馬に乗った鎧の胴体が入ってくる

「うっかり弟を落としてしまって、どうにか落とさない方法を考えたんですけど、やっぱり瞬間接着剤が一番かなって」


「姉ちゃん、いいって。この年で姉弟がくっついてまで一緒にいるのって恥ずかしいじゃん!」

女性用の鎧をきた胴体の左腕に抱えられた頭が恥ずかしそうに訴える


「接着剤なら、文房具側の棚に入っています」

「ありがとうございます」


世間からはデュラハンと呼ばれている姉弟は馬に乗ったまま文房具がおいてある棚へと向かう


「そうかそうか!気持ちいいか!妹よ!だが、兄ちゃんも血が上ってきてちょっとフラフラしてきたぞ!ちょっとだけ休憩な」


バシャーっという音とともに、プールで人魚が逆立ちから仁王立ちに体制を整える。水滴がデュラハンにパタパタッと飛んだ

「きゃっ!」

「あ、すみませn・・・」


その瞬間、スローモーションのように人魚の頭とデュラハンの頭が触れあい、少しだけ唇が触れ合った

ラブ・ストーリーは突然に


テッテレー♪ガー

「いらっしゃいませー」


眼と目で見つめあい、お互い顔を赤らめる妹と弟。頑丈な鎧を着けていてもわかる豊満な体の姉と逆立ちで鍛えられた筋肉質な上半身にふんどしをつけた兄は、ゴブゴブと入ってくる顧客に気づいて慌てて恥ずかしそうに背を向けあう


「あ、あの妹さん、泳ぎ・・とてもお上手ですね」

「いや、はは。どうも」

ピチピチっ

「うちは二人ともかなづちで・・どうしても水に沈んでしまって」

「姉ちゃん!余計なこと言うなって」

「「あ・・あの!!」」


被ってしまった言葉にどうぞどうぞと、お互いが譲り合う。5分ほど譲り合いが続き、ゴブゴブと他の客が帰るのを見計らって意を決した兄と姉が同時に言った


「「よかったら、泳ぎを教え(ましょうか)てください!」」


これは、ダンジョンコンビニで店員が奇跡を見た人魚とデュラハンの運命の出会い。ラブ・ストーリーは突然に


テッテレー♪ガー

「ありがとうございましたー」


別れを惜しむように自動ドアまで手をつないだ人魚とデュラハンは、来年の夏も会う約束をして、ダンジョンコンビニをあとにした。今年の夏もまだまだ暑くなりそうだ









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