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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

談・談話

とある宿泊施設の怪、談・コトハ

作者: 橘 薫羽
掲載日:2024/08/13


夏の夜。山深い場所に建つ宿泊施設で、宿泊者たちが遭遇したのは……。




 湿気と熱が、体内にまで忍び込んでくるような、息苦しさをはらんだ夏の夜。

 共同キッチンのほうから、声が、する。


『ないのよ……ないのよ……はやく……はやく見つけて集めなくちゃ……』


 キッチンに行こうとして、その声を聞いてしまった宿泊者。悲鳴をあげないよう、とっさに口を押さえた。

 走りだしたい気持ちを抑えつけ、静かに、きびすを返す。


 廊下の角を曲がった途端、宿泊者は駆けだした。階段を猛スピードであがり、息せき切って部屋へ飛び込む。


「おい、どうした? お楽しみの夜アイスは?」

「もう食べてきたの? 走ってカロリー消費?」

「そのわりに顔色、真っ青だ。そんなにアイス、冷え冷えだった?」


 口々に声をかける仲間たち。


「それどころじゃないのよ!」


 宿泊者は、今あった出来事を仲間たちに話した。


「すごく不気味な声で、必死そうで……」

「泊まってんの俺たちだけじゃなかったよな……なにさがして集めてんだろうな……」


「その人、生きてるのかな……」

「えっ?」


「ちょっと、関連しそうな話があるの……」

「僕も実は、ある話を目にしたことが」


「どんな話なのよ」


「私がネットで見たのは、昔このあたりで殺人事件があって、その犯人、ばれないように遺体をバラバラにして……。発覚後も、全部回収できてないって話」

「なによそれ……」


「でもそんな事件の記録はないって書き込みもあったから、本気にしてなかったんだけど、でも……」


「僕が読んだのは、昔、このあたりに臓器売買に関係する場所があった、って話。望まないまま無理やり……」

「え……」


「なにかしっかりした記録があるわけじゃないみたいだし、山深くて雰囲気のある場所だから、つくられた話かなと思ってたんだけど……」


「四人一緒の部屋に泊まれていいと思ったのに……。こんな時間にバスないわよね……朝まで部屋にいましょう。ここは一泊だし、朝一番のバスで出発すれば」

「そうだな。飲み物もトイレも部屋にあるし。人か幽霊か知らんが、わざわざあやしいのに近づくことはしないほうがいいだろ」


「それが……そうもいかないみたいなの……」

「急にどうしたのよ」


「さっきからさがしてるんだけど、私、連絡用のスマホとかを入れたポーチ、キッチン近くのロッカーに忘れたみたい……」

「そういえば、夕はんつくりに部屋を出るとき、一応持っていくって言ってたわね」


「うん。しまった覚えはあるけど、出した覚えがないの……連絡時間まで、あまりそのスマホの存在を意識したくなかったから、今まで気づかなくて……あ、……あった」

「あった? よかったわ!」

「ううん。あったのは、ロッカーのカギのほう……」


「うわー、まじかよ。さっと行って持ってくるわ。カギくれ。連絡しなきゃいけねー時間迫ってんだろ?」

「ほかのスマホとかからじゃだめなのよね?」

「うん。ごめんね、うち、変な厳しさで」


「いろんな家があるよね。仕方ない。泊まりで出かけるための条件がそれなんだし。ロッカー、僕も行くよ」

「俺一人でいいだろ。お前はこいつらのとこにいてくれたほうが」


「一人で行ってさ……帰ってこなかったら嫌じゃん。なんかこう、一人ずつ消えて……みたいな話。なにかさがす仲間にさせられたりとかさ」

「お前、発想……。でももし消えんならなおさら、まずは一人で行ってみたほうがいいだろ。お前はこいつらのとこに」


「私のだから、私が取りに行くつもりなんだけど……」

「あんな不気味な声の近くに、誰か一人でなんてだめよ! み、みんなで行きましょう! もし消えるなら、みんな一緒によ!」


「そうか? ……そうするか。じゃあ四人で行こうぜ」

「それがいいかな。僕も賛成。行こう」

「みんなお人好しすぎ……ごめんね。ありがとう」



 仲間たちは、一階へとそろって静かに進み、キッチンもある廊下にさしかかる。


「廊下も、キッチンも、か? 電気ついてんな。人間か?」

「幽霊だって、さがしものをするときは明かりつけたりするかもよ?」

「ちょっとあんたたち、いくら小声だからって! って、あなたは無言で先に行こうとしないで!」


 と、そこに。


『もうすぐ……たぶん、もう少しなの……』

 廊下へと微かに流れ出る、声。

 ひた、ずる、ひた、ひた。

 なにかを引きずりながら、動いている。


 仲間たちは、足を止める。


『みぃつけた。……きっと、これで、帰れる……』


 そこに。


 ぴちゃん、ぱたた、と、なにかが滴るような音がした。


『やだ……もうないはずだったのに……』

 泣きそうな、か細い声。


 そして、また。

 ぴちゃん、ぱたた。


『なんで……こんなに……?』


「おい……あれって、まさか、血が落ちる音とか言わねーよな」

 その声は、少し、大きかったのだろうか。


『どなたかいるのね……。もう無理……ねぇお願い……』


「やだわ! 気づかれた!」

「まずいかもね。僕にカギを……」

「って、おい! 待てって俺が」

「私の忘れ物だから。私が行く」


 ロッカーへと走りだす姿。追いかける仲間たち三人。

 ロッカーを開け、持ち主が荷物を取り出す。その間、ほかの三人は、ロッカーの向こうのほうにあるキッチンを警戒する。


 目的を果たし、四人は一目散にその廊下から遠ざかる。


 タスリ、タスリ。

 キッチンから音が、廊下へと向かう。


『あっという間に……。いいわ、どうか一緒にって……お部屋に、お願いに行くから……』


 夜は、まだ。これから、深くなっていく。




――そんな、お話。みなさん、どうか気をつけて……。





お読みくださり、ありがとうございます。


この話を語ったコトハと聞いた優月のやりとりの話もあります。

作品タイトルは「とある宿泊施設の怪? 談話・コトハと優月」です。

ホラージャンルではありません。


やりとりの話を読むと、ホラー成分は消え去りますが、別の味は感じられると思います。

読んでいただけましたら嬉しいです。



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