赤き巨人と海坊主
この物語は全生物防衛隊WACの若き隊員・ジンの物語である。
ジン隊員はカツオ釣り漁船の船長から海坊主が出現したとの報告を受け、現場に向かっていた。
なお、ジン隊員の正体が宇宙人・アルティメマンライガーであることを知っているのはWAC隊長だけであった。
しいな ここみ様主催『宇宙人企画』参加作品です。
穏やかな波の立つ大海原。どの方角を見ても水平線が伸びており、島影一つ見えない。
機体の左右に二対の回転翼をつけた小型飛行機が飛んでいる。全生物防衛隊WACのWACスパロウである。
操縦桿を握る生田目ナナメは眼鏡をかけた若い女性隊員であった。
彼女はヘルメットの通信機を操作した。
「本部。こちらナナメ。怪獣の目撃情報のあった海域に到達しました。目視できる限りでは異常はありません。怪獣センサーにも反応なしです」
『こちらマホロバ。念のため、水中センサーで海中にも異常がないかを確認してくれ』
「了解です。マホロバ隊長」
WACスパロウの機体の左右の回転翼が向きをかえ、円形のフレームが水平になった。
この機体は空中で停止飛行ができるのだ。
WACスパロウの機体から、先端にセンサーのついたロープが下ろされた。
やがてその先端が海中に沈んでいった。
* * * * * *
WACの善知鳥ジン隊員と小太りのヨコマル隊員は、伊豆諸島にある白潮島の漁港にきていた。
島の漁師が沖でカツオ漁をしているときに怪獣を目撃していたのだ。
「あれは海坊主様にちげえねぇよ。ありがたやありがたや……」
この白潮島では昔から海坊主の伝説が語り継がれていた。
巨大な海坊主が真っ白な潮を空中に吹き上げ、大きな虹ができる。
その虹を見ることができた漁船は大漁となるのだ。
この島の名の由来でもある。
話を聞いたジン隊員は漁師にたずねた。
「危険を感じることはなかったんですよね。で、虹は見えましたか?」
「うんにゃ。今回は虹は見えなかっただ。海坊主様は機嫌のいいときは楽しそうな歌声で潮を吹くらしいだ。でも、わしが見たときはなんだか悲しそうな声だったな」
こんどはヨコマル隊員が漁師にきいた。
「他に何か変わったことはありましたか? 海のことでも、この島のことでも」
「そうじゃのう……。そういえば昨夜、島のガキどもがさわいでおった。空から銀色の大きな麦わら帽子がおりてきて、山の方に消えていったとか。まぁ、何かの見間違いだと思うがのう」
ジン隊員とヨコマル隊員は顔を見合わせた。
「……UFO?」
* * * * * *
全生物防衛隊WACの基地では隊員たちから通信による報告を受けていた。
ナナメ隊員はWACスパロウで海中の音を調べたが、異常は見つからなかった。
WAC隊長のマホロバは、ナナメ隊員に白潮島に降りて他の隊員と合流するように指示した。
その後、マホロバは基地のモニターに水墨画で描かれた古文書を表示させた。
クジラとアザラシを合わせたような姿の怪物が描かれている。背中には黒い斑点模様があった。
図面にある家屋や船よりもずっと大きな身体である。それを見た長髪のカミシモ副隊長はマホロバ隊長に声をかける。
「隊長。この怪獣はゴマクジラですね」
「そうだ。温厚な性格で、船がいるときにめったに海上に顔を出すことはない。これまでも発見事例はあったが、船や漁民への被害報告はないな。白潮島では古来より信仰対象になっている。こちらから刺激しなければ大事にはならないか」
「ですが、いちおう警戒はしておいた方がいいですね」
その時、機器を操作していた長身のタテナガ隊員がマホロバ達の方を向いた。
「隊長。WAC宇宙ステーションから連絡です。また怪電波を受信しました。昨日までと同じ波形です」
数日前から不審な電波を受信していた。一定の時間をおいて、繰り返し届いていた。
発信源と思しき方向は決まっており、マホロバ隊長は地球に向けた異星人からのメッセージではないかと予想していた。
カミシモ副隊長はどこからか箱型の装置をとりだした。
「こんなこともあろうかと、新型の翻訳装置を作っておいたんですよ。これで解析してみましょう」
* * * * * *
白潮島の魚市場では、新鮮な魚や魚介類が並べられている。
島外からの観光客の姿も散見された。
WACのジン隊員達は市場の人たちにも聞き込みしていた。
UFOは子供たち以外でも見た人がいるとのことであった。
また、最近レインコートで顔を隠した外国人らしき人物が魚を買っていくことが噂されていた。
島外から魚を買いに来る客は珍しくなく、外国人がくることもある。
が、レインコートをきた人物は、定期客船では目撃されておらず、どの船でこの島に来たのか誰もしらないのだ。
「あ、ほら、あの人ですよ」
魚屋の店員がジン達にささやいた。
店員の視線を追うと、晴天にも関わらず、緑色のレインコートのフードをすっぽりかぶった人物が、大量の魚が入ったケースを台車に乗せていた。
「怪しいな……。オレとジンで追いかけてみよう。ナナメ隊員はもうしばらく聞き込みをつづけてくれ」
ヨコマル隊員とジン隊員は、少し距離をおきながら、レインコートの人物についていった。
ナナメ隊員は、その人物が魚を買った店の店員に声をかけた。
店員によると、その人物は昨日も魚を買いにきたそうだ。なぜか支払いは五千円札ばかりを使っているそう。
今回の支払いに使われた複数の五千円を紙幣を見せてもらい、ナナメ隊員は首をかしげた。
お札にはちゃんと透かしが入っているのだが、何か違和感があった。
ナナメ隊員は眼鏡の位置を調整し、じっとお札を見つめる。よく見ると複数のお札は、折れ目やシミ・汚れが全部同じに見える。
しかも紙幣の記番号もすべて同じだった。
「これって……ニセ札!」
* * * * * *
大型のケースを持ったレインコートの人物は、市場からでると山の方に歩いていく。
ヨコマル隊員とジン隊員は物陰に身を隠しながらあとをついていった。
やがて大きな建物の中に入っていった。
その壁や扉は薄汚れており、窓ガラスにはヒビが入っているものもあった。どうやら廃屋のようだ。
屋内にはプレス機械やフライス旋盤といった大型工作機械が並んでいる。
どれもホコリをかぶっており、使われてなくなって久しいと思われる。
少し広くなったスペースに風呂桶のようなものがあり、中には水で満たされていた。
そこにはアザラシに似た生き物が入っている。
レインコートの人物が持ってきたケースを床に下ろし、一尾の魚をアザラシ?に見せた。
アザラシ?は魚をチラリとみて、「ギュー!」と不満そうに鳴き、プイッと顔をそむけた。
レインコートの人物はケースごとアザラシ?に見せたが、アザラシ?はそれを食べようとしなかった。
その人物はどこの国の言葉かわからない声で何かぼやきながらケースを下ろした。
「動くなっ!」
そこに光線銃を構えたヨコマル隊員とジン隊員が現れた。ヨコマル隊員は翻訳機能のある通信機を左手でかざしていた。
「両手をあげて、ゆっくりとその子から離れるんだ。ファラソ星人。キミの母星から逮捕依頼がきている。抵抗すれば攻撃してよいということだっ」
その人物……ファラソ星人が両手を上げると、レインコートのフードが外れて頭部がむき出しになった。
牡蠣に目がついたような顔だった。
数時間前のことだが、WAC基地で宇宙ステーションで受信した怪電波が解読された。それは宇宙のかなたファラソ星からのものであり、さらに驚くべき事実が明らかになった。
メッセージによれば、その星の犯罪者が地球に侵入しており、未開の星の珍しい生き物を捕獲しているというのだ。
ペット用として宇宙犯罪組織に高値で取引されるらしい。
WACのマホロバ隊長は、これを重大な脅威と見なし、緊急事態として扱うことを決断した。
さらに白潮島で目撃されたUFOの形状が、伝えられた犯罪者のものに似ていたため、ジン隊員達にも対応の指示がでていたのだ。
ファラソ星人は地球の怪獣ゴマクジラの赤ん坊を、商品として宇宙に連れ出そうとしていたのだ。
「ファラソ星人。おとなしくしていれば、悪いようにはしない。ファラソ星に送還するまでは丁重にもてなそう」
そういいながら、ジン隊員はファラソ星人に近づいていく。と、ファラソ星人は身をひるがえして、風呂桶型容器の背後に回り、カギヅメのある手をアザラシ?につきつけた。
「そちらコソ、銃をハナせ。コイツがどうなってモ、イイノカ? シッテいるゾ? キミたちWACは慈愛精神がアフれてるんだろう」
全生物防衛隊WAC任務は怪獣退治ではない。人間や異星人を含むすべての生物を慈しむことがモットーである。
怪獣や魔獣、宇宙生物をなるべく倒さずに解決させることを目指している。
敵対する宇宙人でもあっても、うかつに傷つけてしまうと隊長に殴られる。(悲)
「ギュギューーーーーー!!」
突然、ゴマクジラの赤ん坊が大きな声で鳴いた。廃屋の壁がビリビリと振動し、島中に響き渡るほどの大きな鳴き声だった。
ジン隊員もヨコマル隊員も、そしてファラソ星人も思わず両手で耳を抑えていた。
ゴマクジラの赤ん坊は頭部からプシューっと、潮を吹いて、ファラソ星人の顔面に命中させた。
ファラソ星人は目を抑えて地面に転がった。
ヨコマル隊員とジン隊員はWACワイヤーでファラソ星人を拘束した。
「お手柄だったね。クジラくん。けがはないかい?」
ジンが話しかけると、ゴマクジラの赤ん坊は高い声で返事をする。
「キュキュ! キュキューキュ、キュー!」
「……この翻訳機、クジラ語は変換できないのかな……」
その時、ジン隊員とヨコマル隊員の通信機が鳴った。
『こちらナナメ! 沖合にゴマクジラと思われる怪獣が出現しました。ものすごい勢いで白潮島に向かっています!』
* * * * * *
漁港では島民たちを避難誘導するナナメ隊員の姿があった。
漁にでていた船がゴマクジラを発見し、島に連絡があったのだ。
怪獣はあと二十分ほどで島に到達する見込みだ。
巨大怪獣にあの勢いで島に近づかれると津波が起きそうだ。
一人の老婆がナナメ隊員に声をかける。
「あんた、WACの人じゃろ? 海坊主様をいじめんでくれよな。あれは島の守り神じゃあ」
「はい。承知しています。海坊主さんは、迷子の子供の探しに来ただけですよ」
赤ん坊を返せば、おとなしく帰ってくれるかもしれない。
しかし、どうやってゴマクジラの赤ん坊を運べばよいだろう?
WACスパロウで運ぶことは難しい。専用コンテナを持ってきていないので海に下ろせない。
上空から落とすわけにもいかないのだ。下手をすれば回転翼の風圧でケガをさせる。
* * * * * *
島からも怪獣の姿が見えるようになった。波しぶきをあげながら島に迫ってくる。
避難誘導をしていたジン隊員は、そっとその場を離れて物陰に隠れた。
実はジン隊員は地球人ではない。彼はネコ座H85星から来た宇宙人なのである。
ジン隊員は両手首のブレスレットを打ちあわせた。
「ライガーーーーーー」
白潮島の上空に赤く燃えるオーラの巨人が現れた。アルティメマンライガーである。
ライガーは空を飛んで海を渡り、怪獣ゴマクジラの進路をふさぐように飛び降りた。
巨体が激突し。ライガーは吹き飛ばされた。が、それでゴマクジラの突進は止まった。
海上で身を起こしたライガーは両腕を広げて、とおせんぼをした。
ゴマクジラは大きなヒレ状の前足でライガーを弾き飛ばし、島に向かおうとした。
ライガーは少しよろめいたが、踏みとどまった。そしてコマグジラを取り押さえようと試みる。が、つるつる滑って捕まえられない。
ライガーはいちど空を飛び、宙返りをしてゴマクジラの進行方向に降りた。
そして頭上で両手首のブレスレットを合わせた。両腕を左右に開くと、フラフープのような光の輪が現れた。
ライガーは輪投げのように光の輪を投げた。光の輪がゴマクジラの頭にはまった。
が、ゴマクジラは頭を大きく振ると、光の輪はライガーに投げ返された。ライガーはあわててそれをかわす。
その時、ナナメ隊員の拡声器の声が響いた。
『ゴマクジラのお母さま、迷子のお子様をお届けにあがりました!』
大漁旗をかかげた漁船団がそこに来ていた。
そのうち一隻の甲板にナナメ隊員が立っており、その隣ではゴマクジラの赤ん坊が魚を食べていた。
「ほらほら、あっちにお母さんがきています。そろそろ帰る時間ですよ」
ナナメ隊員が赤ん坊の背をぽんぽんと叩く。ゴマクジラの赤ん坊は甲板に並べられた魚をありったけ口にくわえて、海に飛び込んだ。
そして、巨大ゴマクジラの方に泳いでいった。巨大ゴマクジラも赤ん坊に気づいたようで「キュー」と鳴いた。
やがて二匹のゴマクジラは沖の方に泳ぎだした。
漁船の漁師たちはゴマクジラ達に「元気でなー」「もう迷子になるなよー」などと声をかけていた。
ライガーは空へ飛び立っていった。
* * * * * *
WAC基地では、ナナメ隊員がマホロバ隊長に経緯の報告をしていた。
ファラソ星から転送装置が届き、それで犯罪者は強制送還されるそうだ。
宇宙船は地球で活用してよいとのことで、操縦法や設計図などの技術資料も届いたそうだ。
取り扱いは上層部で判断されるだろう。
「さっき漁師の方からこんな写真が届きましたよ」
ナナメ隊員が携帯端末を皆に見せた。
ゴマクジラが潮をふきあげており、その後ろに大きな虹がかかっていた。
「ははは……これは大漁になりそうだ」
ジン隊員はそう言って笑った。
『宇宙人企画』の他の方の投稿作品や、アルティメマンライガー登場作品はこの下の方でリンクしています。
アルティメマンシリーズは大浜 英彰様の小説の作中作です。
アルティメマンライガーの設定を貸していただいた大浜 英彰様に感謝します。