世代の勇者「2人の推薦入学者」
本編「世代の勇者」に登場するキャラクターの短編小説です。
------エイト村
風に流れる雲が形を変え、広い緑の草原は微かに揺れる。
眩いほどの太陽が旅立つ2人を照らしていた。
「嫌だ嫌だ嫌だ!!!」
「うるさ。黙ってついて来い。お前には才能がある。」
「ないないない!!!」
「うるさ。」
俺の名前は[ヘルア]今年で25歳。この叫び散らかしてる奴は[レーチ]今年で17歳。なぜ俺がコイツを引きずって歩いているのか疑問に思う人もいるだろう。ただその理由は単純だ。
スキル[気分]
このスキルはまだ分からないところが多いが一つ分かる事がある。それは、保有者の気分に大きく影響する事。
例えば[レーチ]が「今ジャンケン50回勝てる気分!」などと考えれば本当に勝ってしまう。そんな能力。
「良いか?レーチ。お前の能力は神に選ばれた才能だ。」
「違う違う違う!!!」
「うるさ。もう少し自分を信頼しろよ。絶対勇者になれる!俺が保証する!」
「無理無理無理!!!」
「うるさ。」
しかし当の本人は豆腐メンタルのネガティブ思考。どうしたもんか…と悩んでいる中俺達2人に渡された王国の勇者学校推薦入学者認定書。これはもう運命としか言えないだろう。
「帰る帰る帰る!!!」
「うるさ。…お前なぁもっと自信付けろよ。」
「…………」
「お?自信付いたか?」
「なんで家から引き摺り出された挙句信頼しろとか自信付けろとか言われないと行けないんですか。」
「うわぁ〜〜〜。だりぃ〜〜。」
「そもそも僕は勇者になりたいとか思った事ないし、一生家でごろごろ出来ればそれで良いのに…」
「それはそれで問題だろ!」
「はぁ…ほんと病む…今から竜巻発生して雨も風も雷だって降って王国に行くなんて考える事すら恐ろしい。そんな天気になれば良いのに…」
「?!お前!ふざけ!!」
突然王国方面から突風が発生した。緑の芝生を照らす太陽は暗い雲に包まれ、雨と雷が降り始める。吹き荒れる風は少しずつ姿を変え、巨大な竜巻へと形を変えた。
「バカお前!!取り消せ!さっきまで清々しい良い天気だっただろ!!
「は!は!これで僕らは終わりだ!ダラダラ出来ないなら生きてる意味ないし!」
「はぁぁぁぁあ!!こぉんのアホが…」
近づいて来る竜巻はどんどん威力を上げる。ヘルアは左手を台風に向けて大きな声で叫んだ。
「ブレイク!!!」
パァッン!!!
瞬間巨大な台風は消え、天気は晴れに戻った。
「何で何で何で!!!」
「うるさ。馬鹿なことやってないでとっとと行くぞー。」
ヘルアはレーチを右手で引っ張ったまま王国へと歩き始めた。
世代の勇者「2人の推薦入学者」
「へぇ〜!綺麗な街じゃん!なぁレーチ?王国来てよかっただろ?」
「別に見なくても生きていけるし…」
「あ〜〜。うざっ!」
ギルドや商品街、貴族が住まう国。[再生の王国]
旅立ったエイト村からそう離れてない距離に王国があり、昼頃には王国に着いていた。
白石の地面にレーチを引き摺りながらヘルアは歩く。目的地は王宮。
「おいレーチ?今から王宮に行くんだが、歩くか引き摺られるかどっちが良い?逃げる場合は引き摺るし、人混みの中だろうと俺は気にしない。」
「…歩くのだるいから引き摺って……」
「オーケー」
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「はぁ何でこんな事になったんだ…」
「………」
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「お尻痛いし服破れそうだし…」
「………」
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「ねぇ暇ーーしりとりしよーーー」
「………」
「しりとり始め!目玉焼き!」
「金」
「はい!僕の勝ちーーー!!」
「面白いか?」
「全然?」
「………」
「………」
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「いつ着くの?」
「後少しだ」
「おっそ!」
「殺すぞー」
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「着いたぞ」
「Zzzzz」
「ブレイク」
「ぎゃああああ!!!!!」
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「夢を破壊するなんて!!なんて奴!」
「じゃあ寝るな」
ヘルアはマリーゴールドの描かれた大きな扉の前に立ち、門番がいない事を確認すると扉の前に座り込み、大きな声で叫んだ。
「勇者候補でーーーす。扉開けて下さーーい。」
「うーわ…」
「何だよ」
「なんか貧乏みたいに」
「貧乏に失礼だろ……返答がないな…」
「留守なんじゃない?帰る?帰ろっか!」
「今から帰るぐらいならこの扉破壊して入る」
「犯罪者がいます!!!!」
「うるさ。」
無駄話をしながら2人は扉の前で人を待った。しかし、一向に人が来る様子がない。
「後1時間待って誰も来なかったら宿探すか」
「宿に泊まるぐらいなら帰った方が良いって!」
「今から帰る方が時間かかるだろ」
「……なんか僕が言う事全部否定されるから面白くない。いっそのことこのまま誰も来ず、宿も見つけらず、寒い夜の中歩き回って後悔すれば良いのに…」
「おい待て、シャレにならん」
少し焦ったヘルアはもう一度人を呼ぶ為に大きな声で叫ぼうとしたが突然目の前に現れた金髪の男性が現れ驚く。
「すいませー〜〜〜ん?!?!」
「大変お待たせしました!!勇者学校推薦入学者の方ですよね?!」
「びっくりした…」
「そうです…はぁ…心臓に悪い」
「申し遅れました。俺は4人の勇者候補の1人。ライトです。推薦入学者の方の中であなた方は一番最初に到着されました!足を運んで頂きありがとうございます!」
「勇者候補…」
「一番乗り!」
「推薦入学者は全10人。我々勇者候補が担当する事になっています。特別寮に案内しますので、着いて来て頂いても宜しいですか?」
「レーチ聞いたか?特別寮だってよ!」
「チッ」
「おいこら」
ヘルアとレーチは勇者候補のライトの後ろをついて行く。
「特別寮ってあの扉の奥じゃないんですね」
「あの扉の奥は王宮に繋がっておりますが、今手が離せない状況でして、人手が…」
「なるほど詳しい話は今しなくても大丈夫ですよ」
「面倒臭いだけでしょ」
「ちょっと黙ってろ」
「あはは!仲が良いんですね!」
「どこ見てそう思いました?」
「これに関しては同意」
「さあ!!着きましたよ!ヘルアくん!レーチくん!」
「あれ?名前教えたっけ?」
「着いたってここ…ただの広場じゃん」
案内されたのは特別寮とは違う大きな広場。ライトは広場の真ん中まで行くと振り向きニヤリと笑う。そして…
「改めて、勇者学校推薦入学おめでとう!ヘルア!レーチ!一番乗りの2人の実力を俺はとても期待している!これより課題だ。2人は俺に…強さを証明しろ。」
ライトは大きな声で叫び、右足を大きく踏み込んだ。
「試練」
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「?!うぉ!何だこれ!」
突如空色の空が紫色へと変色した。目の前のライトと隣のレーチは消え、広場の中央には黄色い球体が浮かんでいる。
「?異空間か?対象を閉じ込める能力…」
ヘルアは見えない壁を触り、叫んだ。
「ブレイク」
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「んあ?」
「……!!これは驚いた!」
「何だ?終わりか?」
「試練の根っこから破壊する能力…[ブレイク]か…良いね!凄く良い!ヘルアくん!」
「ん?」
「試練突破だ!」
「?おう!」
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「やだやだやだやだやだやだ!!!!!」
1人にされたレーチは座ったまま叫んでいる。
「課題やだ!何で1人なの?!もっとやだ!」
叫び続けるレーチ。広場の中央に浮かぶ黄色の球体には気付いて居ないようだ。しかし、試練は待ってくれない。黄色の球体は少しずつ人の形へと姿を変える。球体が虹色の髪をした少年に姿を変えると同時にレーチは今まで感じたことの無い[殺気]を肌で感じ取った。
「?!嘘でしょ…」
虹色の髪の少年は目を開き、レーチを見て嬉しそうに笑う。そして……
「俺の空間!!」
「魔王軍!!!」
レーチは立ち上がり、虹色の髪の少年を警戒する。辺りの地面は薄い虹色の膜が広がった。
「何で僕がこんな目に…」
「さぁ!!!君の存在価値を!!僕に証明してくれ!」
「本当に嫌だ…何でだよ…」
「…?ん?どうしたのかな?」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「……はぁ?何だよ…ゴミじゃん。ウゼェ…」
虹色の髪の少年が呟くとレーチは地面に倒れた。
「ぁ…あ…ぐる…しぃ…」
「どうしたゴミ?友達でも落ちてたか?」
「ぁ…。…」
「それとも…突然心臓でも止まったか?」
「………」
「[運]が悪りぃな」
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「ぁ……」
目が覚めると数分前に戻っていた。依然周囲には誰も居らず、広場の中央には黄色い球体が浮かんでいる。レーチは咄嗟に走り出し、見えない壁を叩き続けた。
「ぃやだ!!嫌だ!!助けて!!死にたくない!!!!」
黄色の球体は光始め、人の姿へと形を変える
「出して!!!嫌だ!!!!!!」
喉が壊れるぐらいレーチは叫んだ。両手から血が吹き出し、レーチは頭を打ち付けた。
「嫌だ…」
呟いたレーチの後ろで虹色の髪の少年が目を開く。辺りを見渡し、絶望の表情をしたレーチを見ると、大きくため息を着いた。
「ふざけんなよ」
「?!」
声を聞いたレーチは息が荒くなる。また死ぬ…殺される…レーチの頭には[恐怖]の感情で埋まっていた。すぐ後ろで足音がする。でも動けない。体を動かせない。
「俺の視界に入るな」
「…ぁ」
レーチは髪の毛を掴まれ、見えない壁に顔面を叩きつけられた。
ガンッ
「…ぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"」
「うるせぇよゴミ」
ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!
レーチは何度も何度も顔を叩きつけられた。鼻と歯は折れ、意識が飛んだ後も壁に叩きつけられる。
「……ぁ………………………」
「死ねよ…ゴミ」
ガンッ!!!!!
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「なぁライトさん」
「ん?質問かい?」
「まぁそんな所だ…この試練。クリア出来なかったらどうなるんだ?」
「クリア出来ない事はない。いや…この程度をクリア出来ないのなら勇者の資格はない。ヘルア。人は死ぬんだ。この試練の目的は、[死]を乗り越える心の強さを鍛える事。[死]を覚悟出来ない者が勇者を目指すのは…悪いが無謀としか思えない。」
「……」
「どうだ?彼は試練をクリアできると思うか?」
「………あいつは…レーチは俺が無理矢理連れて来たんだ。引き摺って…否定して連れて来た。」
「…何でだ?」
「素質があると思った。勇者の…あいつの能力は使い方によっては…戦争すらこの世から無くせる能力だ…」
「スキル[気分]だな?資料は読んでる」
「ああ…本人が自覚してないだけだ…俺はあいつに人生を捧げても良いと思える程には評価してる」
「…信頼してるんだな」
「ああ…だからこそ…レーチにはこの試練をクリア出来ないと思ってる。」
「?!そうか。」
「悪いなライトさん。どうも俺には…死を乗り越える事の意味を…重要性を理解出来ない。自分が…仲間が死ぬ覚悟なんて…必要ないと思うんだ。」
ヘルアは座ったままのレーチに右手を当て、呟いた。
「ブレイク」
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「…ぁ……」
「…よぉおかえり」
「…ヘルアァ……」
レーチは立ち上がりヘルアに抱きついた。涙を流し続けるレーチの背中を摩りながらヘルアはライトに質問した。
「……脱落か?」
「いや…信頼する仲間を持つ事も勇者になり得る才能だ」
「そうか」
「2人ともクリアおめでとう。はぁ…認識を間違えてた。死を乗り越える事が全てじゃない…レーチには悪い事をした」
「…これでレーチが勇者を目指さなくなる可能性が上がったな………なぁレーチ?お前…勇者になりたいか?」
「………」
「……レーチ?」
「Zzzzz」
「コイツ!!」
「あはは!面白いな。君達は。話はまた明日にしよう。特別寮に案内しよう。」
「……フッ!そうだな。案内頼むよ」
「…改めて。入学おめでとう。」
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「ライトさん?何だか最近表情が柔らかくなりました?」
「っ?!分かるかシャル?!最近自分の中の固定概念が上書きされてな?他人の心境を考える様になれたんだ!」
「へぇ〜。[固定概念]なんて言葉使えるんですね。今日は一雨来そうです。それと珍しいですね。以前は自分の意思は曲げない!覚悟のある奴しか認めない!みたいな感じでしたが…」
「…俺そんな感じだった?」
「ジョークですよ。まぁ半分は本当ですけど。」
「ははは!…ん?どこまでが本気?」
「[一雨来そう]までが本気です。」
キャラクター詳細
ヘルア(男)25歳
スキル「ブレイク」
レーチ(男)17歳
スキル「気分」
虹色の髪の少年(男)年齢不明
スキル「???」
ヘルアとレーチはヴァート、アイス、ホープラスと同じ勇者学校推薦入学者です。今後関わっていく中で、2人の存在はとても大きな物になります。
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