魔法師、緊急出動する
ウーーーーーーー!!!
なんだ?この音は?なんて大きくて騒がしい!
ゆっくり昼寝が出来ないではないか!
部屋のドアを開けて、そっと廊下を覗く。
「あ、ウルマイトさん…」
「何だ?この騒がしい音は?ガーゴイルの鳴き声か!?」
何人か走り去った中、通り過ぎようとした山本を俺は呼び止めた。
「がーごいる?ちょっと分からないっす。えーっと、この場合、ウルマイトさんはどうしたら良いんだろう?」
「何かあったのか?」
周りの隊員は、皆、慌ただしく走り回っている。
「自分も良く分からないのですが…スクランブルが出ました。」
「スクランブル?なんだソレは…?」
「えっと…日本語で言うと緊急出動要請です。」
「緊急出動??おぉ!戦闘か?戦闘なのか?」
この日本国に転移させられてから1年以上、まったく平和な日々が続き…戦闘とは無縁の中で生活をしていた。
あの、王国軍と戦っていた日々を思い出し、俺の血は煮えたぎった。
「よし!魔法兵と獣騎士の相手は俺に任せろ!」
「いや、多分…そんな相手じゃないっす。」
そういえば、この自衛隊という軍は"戦争はしない"と言っていたな…なのに敵はいるのか?
「まったく世話係って面倒な役回りだな…とりあえず、一緒に行きましょうか。上官に指示を仰ぐ事にします。」
「おぅ!行くぞ、急ぐんだ!」
ん?面倒?…なんか小さい声で聞こえたが…何と言う事だ。山本の事を見直したつもりだったが、まさか戦闘を面倒に思っている?
戦闘から逃げるような行為は反逆罪となる。
これまでの恩もある…ここは聞かなかった事にしたおこう。
俺はマントを取ると、急いで山本について走り出した。
かなり緊迫している状況が分かる。
そう、俺は空気を感じる事が出来る魔法師だ。
伊達に何年も小隊を率いてはいない…
「緊急事態なようっす。ウルマイトさんは、自分と一緒に行動をとの事っす。自分が所属する隊に加わってください。」
「緊急事態だと!それは腕が鳴る!」
いつも穏やか顔をしている山本…こんな表情も持っているのか…ピリピリとした緊張感が彼の顔から伝わる。
「腕は鳴らさなくて良いっす。なるべく目立たないようにしてください。あと…ヘリに乗ります。ヘルメットの着用を。」
「あい、分かった!」
激しい音が鳴り響く鉄の塊。
俺はヘリコプターというこの乗り物に乗るのは…ちょっと怖い。いや、ほんのちょっとだ。
大丈夫、あの上の部分が翼だ。
そうだ…竜の背中に乗るようなものだ。
竜の背中に乗るなんてした事は無いが…山本が乗れるなら俺も乗れる筈だ。
俺は帝国軍人!この程度の乗り物を怖がる筈が無い!
「ウルマイトさん?何してんすか?早く乗ってくださいよ。」
「あー、分かっている。袖を引っ張るな!」
まったく…この山本という男は、たまに強引な部分がある。
引っ張らなくても、俺は自分自身の力で、このヘリコプターとやらに乗ることが出来る男なのだ。
「うぉ…飛び上がった!」
「当たり前じゃないですか…あ、そのロープにでも捕まっておいてください。」
何度か地上から、ヘリコプターが飛ぶ姿を見た事がある。
が…俺が乗るのは初めてだ。
思った以上に騒がしい…
「ウルマイトさん、大丈夫っすか!?顔が青いっすよ。」
「あぁ、当然だ。何も問題は無い。ちょっと騒がしいだけだ。」
そう、騒がしい事が問題なのだ。
けっして空高く、飛んでいる事が怖い訳ではない。絶対にだ!
「横浜方面に向かうらしいっす。説明不足でスミマセンが、なんか危険な物体が出現との事っす。」
「危険な物体!?となると…ガーゴイルが出たのか?」
「あー。どうしてこの人、連れて来ちゃったんだろう…部屋に閉じ込めて来たら良かった…」
「ん?何か言ったか?」
山本が何かを俺に伝えたかったようだが、ヘリコプターの音がうるさい中、小声で言うものだから聞こえない。
あー、本当に騒がしいな…このヘリコプターという乗り物は。
帝国軍時代、俺は馬や牛とも話をした。
実際に言葉を交わす事は出来ないが、彼らの気持ちを感じる事で協力的な関係を築く事が出来たのだ。
そして、気持ちが通じ合った動物は、俺の意思を尊重してくれるようになる。
だが…このヘリコプターとかいう鉄の塊は、心がない乗り物だ。
この日本国という国は、そういう事が多く本当にやりにくい。
「多分…あの辺ですね。」
「ん?何かあるのか?」
山本が指差す方向を見るが、特に何も無い。
それにしても…凄い光景だな。
高くそびえ立つ建物が無数にある。
以前は、俺もあのような建物の中に居たのか…俺が居た警察って場所は、どこだろう?
キュイイイーーーン!!
「うわぁ!」
急にもの凄い音と共に、背後からとても速い鳥が飛んでいった。
「何だ?あの鳥は!?」
「F16っすよ…鳥じゃないっす。戦闘機っす。」
その鳥は一瞬にして、遥か彼方へと飛び去って行った。
「戦闘機?…何だ?仲間か?敵か?」
「あー、頼りになる仲間っすよ。」
山本が返事をすると共に前方で瞬い光が放たれた。
バババババババッ!
「ん?アレは何だ?」
青白く光ったもの…何か懐かしさを感じるな。
「分からないっす…F16に向かって、地上から光りましたね。」
山本でも分からない事があるのか…ん?
「おい、何だ!?その丸い道具は?」
「双眼鏡っすよ…ちょっと!引っ張らないでください!貸しますから。」
双眼鏡というモノを覗き込むと…おぉ、コレは凄い。
遠くにあるものが、すぐ近くに来るではないか。
「手を伸ばさないでください…恥ずかしいっす。遠くにあるモノが近くに見えるだけっすから…届きませんよ。」
「わ、分かっている…そんな事は!」
「ん?」
「どうしたっすか?」
「アレは…あの姿は…間違いない。部下達だ!」
「え?部下?」
見間違える筈が無い。アイツら…生きていたのか?
そうか…良かった。あの平原の戦いから逃げ延びたのだな。
目に涙が溜まり…そしてこぼれ落ちた。
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