魔法師、訓練に参加する
「おぉぉー、なかなか良いではないか。」
「気に入って貰えて良かったです。」
黒をベースに白いストライプが無数に入っている。
手触りも柔らかくて最高だ。
「いやはや、素晴らしい。」
「ウルマイトさんの想像するマントと合っていたようですね。」
山本…だったかな?
時間がかかると言っていたが、こんなにも早く調達するとは、実は優秀な男なのかもしれない。
「ん?これは…もしかして被り物か?」
「はい…竹笠って名前だったかな?」
竹で出来た円柱状の被り物。
なんとも良い竹の香りまでする…これは上物に違いない。
「これも…貰って良いのか?」
「はい、セットだったので。」
要望したのはマントだけだったのに被り物まで…こんなに気が効く男だったとはな。
「山本さん、君はなんて優秀な人材なんだ。こんなにも素晴らしい品を迅速に用意するとは。俺は君を誤解していたようだ。」
「いえ、ネット通販で検索したら…あ、とても安かったです。」
何を言っているのかは、よく分からないが、この男は商人の才もあるらしい。
このような良い品を安く揃えるとは…素晴らしい。
「ありがとう、ありがとう!」
「あ、痛いです。気にしないでください。気に入って貰えて俺も嬉しいですから。上官に丸投げされた時はどうしようかと思いましたけどね、ほんと。」
俺は彼の手を両手で握りながら礼を伝えた。
「あと、上官からの伝言なのですが、ウルマイトさんも我々の訓練に参加しませんか?との事です。」
「訓練は、帝国軍時代に私もよく行ったものだ。よし、参加しよう。」
俺は訓練に参加する旨を伝えると同時に早速、マントを身に纏った。
「あ、竹笠は置いてってください。」
「そうか…せっかく用意してくれたのだから被りたい所だが…」
「ヘルメットを被らないと駄目な決まりですから。」
「この国の軍人は頭が硬いからなぁ。」
仕方ない…恩人である山本を困らせる訳にはいかないからな。
俺は一度被った竹笠を取ると、そっと机の上に置いた。
山本の後に続き廊下を歩くと、日本国の軍人たちが俺を見てくる。
分かるのか?このマントの素晴らしさが分かるのか?
「みんな、俺のマント姿を見てくるぞ。」
「そうですねー、珍しいですからねー。」
「ははは、この軍の標準装備にするべきだな。」
「はぁ、まぁ…そうですねー。」
「あ、今日はこの隊に合流です。」
20人程の小隊の訓練に俺は加わる事になった。
各々が筒を手にしている。
小隊の隊長と呼ばれる人物から、俺もその筒を受け取った。
「ん?コレは…もしかして織田信長様が持っていた筒か?」
「あぁ、はい…火縄銃とはちょっと違いますけど、まぁそんなもんです。今回の訓練では空砲ですので、危なくは無いですね。」
ほぉ、これまたよく分からない事を言われたが、そんなに危険な物なのか?
「あ、行きますよ。」
そう言うと山本は走り出した。
あぁ、走るのか…俺も皆について走り出した。
帝国軍でも、よく走ったものだ。
俺の部下達は元気にしているだろうか?あの戦闘は無事に勝てただろうか?
転移魔法陣にかかり、この日本国に転移させられた時の事を思い出した。
「クソッ、マゾスティク王国めぇ。」
やはり、一刻も早く帝国へと戻り、部下達と共に戦わなければならない。
にしても…いつまで走るのだろうか?
「パァハァハァ…」
「なんですか?もうバテたんですか?」
山本は随分と余裕なようだ。
「あぁ、ずっと狭い所に閉じ込められていたからな。体力が落ちたようだ。」
警察と呼ばれる施設では、自由に動き回らなかったから運動が出来なかった。
おそらく、そのせいで体力が落ちたのだろう。
いや、そうに違いない。
「次は匍匐前進です。ほら、真似してください。」
そう言うと山本は、地面に伏せながら進んで行く。
何?コレに何の意味があるというのだ。
真似はしてみたが、何とも動きずらい。
「あぁ、マントが絡まった。」
俺は立ち上がると、皆の後を追いかけた。
が、皆は休む間もなく進んでいく。
「待て、何で、そんな藪の中を進むんだ。」
必死について行くが、遅れてしまう。
ふぅ…やっと追いついた。
が…
「あー!」
「ウルマイトさん、どうしたのですか?」
「マントが泥だらけに…」
「まぁ、そうなりますかねぇ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あぁ、せっかくのマントが…
俺は午前中だけで訓練を終えて、宿舎へと帰った。
小隊長は怒っていたが、山本が何かを言うと黙っていた。
「ファイア…なんとか」と言っていたように聞こえたが…山本が魔法の呪文を発しても意味ないだろう?と思った。
マントは山本が後で取りに来てくれると言う。
洗濯してくれるらしい。
やはり、山本は優秀でとても気が利く。
水魔法でも綺麗になるが、ここ日本国の洗濯という技法は素晴らしい。
四角い道具に入れ、変な音を聞いているだけで、水魔法を使用するよりも綺麗になるのだ。
しかもだ!良い匂いまでするというオマケつき。
一体、あの四角い箱の中で何が行われているのだろうか。
一度、秘密を暴いてやろうと思い、蓋を開けてみたが止まってしまった上に、おばちゃんに怒られた。
余程の秘密があるのだろう。
汚れてしまったマントは机の上に置き、俺はテレビでDVDを鑑賞する事にした。
「確か…お、コレだ、コレだ。」
織田信長様が主役のこのDVDだったな…確か。
えーっと、上に付いている縄に火を付けてっと…よし、これで、あの筒の使い方はバッチリだな。