魔法師、魔法を放つ
自衛隊と呼ばれる日本国の軍に私は配属となった。
そして今、上官から色々と質問を受けている。
けっして日本国の上官には逆らってはならない。
俺は、この国の様々な事をテレビという道具で勉強した。
母国では本を読む事が好きだったが、残念ながら日本国の言葉は難しすぎて読めなかった。
テレビとは映像を映し出す道具だ。
我が帝国の水晶に似てはいるが、映し出されるものは全く違った。
どういう原理なのかは全く分からないが…テレビは面白い。
俺は特に"時代劇"という映像が好きだった。
魔法を使えない日本国の人族は刀という道具で戦うのだ。
カキーン!カキーン!と刀で戦う姿は、なかなか格好良かった。
そして問題が解決した後の爽快感!
何度も何度も様々な時代劇を見ていたら、一年が過ぎたと言っても過言では無い。
俺も刀が欲しい。と教官に伝えたが貰えなかった。
代わりに渡されたのが木で出来た刀だった。
つまらん…俺が軍人だと言う事が分かっていないのか?と最初は思ったが、後になって気がついた。
あー、俺が優秀だから、本物の刀を渡すのが怖いのだな。
それなら仕方ない事だ。と思い、俺は木の刀を振って鍛錬を行った。
あ、そうだった…上官に逆らってはならない理由は、この時代劇で知ったのだ。
上官に逆らう切腹と呼ばれる自殺行為をしなければならない。
あの場面を見た時は衝撃だった。
「で…ウルマイト君が住んでいた異世界は、どういった場所だったのかね。」
おっと、まだ上官からの質問の途中だった。
「はい、異世界は素晴らしい場所です。山は美しく、海は広いです。」
日本国の人々は我が帝国の事を異世界と呼ぶ。
何度も帝国だと言っているのだが、どうあっても理解して貰えなかったので、もう俺自身も帝国の事を異世界と呼ぶ事にした。
「そうか…自然豊かな場所なのですね。」
「はい…」
この上官は非常に穏やかな性格だと感じた。
水戸黄門様のようだな…この方なら切腹を命じられる事は無さそうだ。
が、油断してはならない。いつ何時、越後屋の罠にハマるとは限らない。
「あと、魔法を使えるとの事だが…明日の演習で見せてくれるかね。」
俺の魔法は見せ物じゃない!
と、言いたい所だが…まぁ、俺の強さを見せる事は重要かもしれない。
道具に頼りきっている軍人への注意喚起となるだろう。
「分かりました。」
なんせ、この日本国にも、あの憎きマゾスティク王国が攻めてくる可能性もあるからな。
「君から、何か希望などはあるかね?」
「はい…刀が欲しいです。」
「日本刀の事かね?…変わった物を欲しがるな。残念ながら無いよ。」
「そうですか…残念です。」
どうやら、まだ俺の事を信頼していないようだ。
まぁ、魔法を使える俺には、刀など不要なのだが…持って来た木刀
で我慢しておこう。
案内された俺の部屋は立派だった。
「おぉ、テレビもあるじゃないか!」
「はい、ちゃんと日本語の勉強もしてくださいね。教材用のDVDも用意してありますので。」
「時代劇は?時代劇もあるのか?」
「あー、お好きだと聞いていたので何本か用意してあります。」
「感謝いたす。」
俺は案内役の山本という男に礼を伝えた。
「ところで、ウルマイトさんは今まで、ずっと警察の研究施設に居たのですか?」
「あぁ、そうだが?」
「街に出た事は?」
「あー、危ないからと言われて施設から出た事は無かったぞ。」
「危ない?」
「よく分からないが、国民を危険にさらす訳には…何とか。」
「そうですか…」
案内役の山本は、そう言うと不思議そうな顔をしながら部屋を去った。
翌日、俺は上官との約束通り、魔法を披露する事となった。
にしても、ここの軍服はイマイチだな…華やかさがまったく無い。
「では、ウルマイト君、よろしく頼む!」
まずは…火魔法で良いか。
「ファイアーランス!」
ズドドドーン!
研究施設でも披露した事があるので、日本国の人族の反応は分かっていた。
ザワザワと周りから声が聞こえてくるのが分かる。
ふふふ…驚いているな。
「なるほど…これは危険人物だ。」
昨日の案内役の山本がボソリと呟く声が聞こえた。
危険人物?俺の事か?
優しい第一魔法師団の部隊長に対して何という事を言うのだ。
「ウルマイト君、他にも使えるのかね?」
おっと、上官からの要望には応えなくては。
「ダイヤモンドストーム!」
火魔法の次は、水魔法だ。
渦巻く水の力で、置かれていた木の板は木っ端微塵となった。
「すげぇ〜。」
うんうん、そうだ。その反応だ。
研究施設でも、この国の人族は同じ反応をした。
俺は誇らしげに立ち、マントを広げた。
が…マントが無い…そうか華やかさが無いのはマントが無いからだ。
「ウルマイト君、ありがとう。下がってくれたまえ。」
なんだ、もう良いのか。
サンダーストームも披露しようと考えていたが、上官の指示通りに俺は下がった。
案内役の山本に付き添われて部屋へと戻る。
「ウルマイトさん、凄いですね。異世界の人々は皆んな魔法を使えるのですか?」
「あぁ、当然だ。皆、子供の頃から鍛錬をして習得するものだ。」
「あの…俺も使えるようになりますかね?」
「どうだろうな…人種が違うからよく分からないが、まずは聖母マロカ様を信仰する事だ。」
「聖母ですか…また今度、ゆっくり教えてください。」
「うむ…精進する事だ。」
にしても、自衛隊とやらに来たら、もっと自由な時間が増えるかと思っていたが…全然だな。
帝国へと転移する方法も探さねばならぬというのに…
「では、俺はこれで失礼します。何か欲しいものが有れば言ってください。」
「あぁ、とりあえずマントが欲しい。」
「マント…ですか?」
「マントだ…無いと落ち着いて魔法を行使出来ない。」
「分かりました、上官に掛け合ってみます。が…恐らくすぐには準備出来ないかと。」
「うむ…よろしく頼む。」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
俺の名前は山本…異世界人の世話役を申し付けられた。
何の冗談かと思ったけど、彼は本物の異世界人だ。
なんせ魔法を使える。
さて…マントが必要との事だけど、素材とか何でも良いのかな?
とりあえず報告しないと。
俺はノックして会議室へと入った。
すでに10人程の上官達が部屋で話し合いをしていた。
「どうかね、あの異世界人の様子は?」
中央に座る横山陸将が聞く。
「マントが無いと魔法の力が弱まるようです。」
弱まる?って言ってたかな?まぁ、いいや。
「マント…そんな装備が必要なのか。他には何かあるか?」
「いえ…聞いていた通り、時代劇が好きな事しか、まだ分からないです。」
「そうか…引き続き様子を探るように。」
「はい!」
まったく…面倒な役が回って来てしまった。
けど、魔法を教えて貰えるなら、良いかもしれない。
とりあえず、あの人とは仲良くなっておこう。