魔法師、1年が経過する
あれから1年が経過した。
マゾスティク王国との戦いはどうなったのだろうか?部下たちは無事だろうか?
とても気になるが、連絡を取る手段は無い。
俺は戦争中に魔法陣によって転移させられた…ここ日本国という国に。
おそらく魔法陣を展開したのは、敵国の魔法師だ。
1年間、日本語という言語を勉強し、なんとか意思疎通を図る事が出来るようになった。
が…日本語という言葉は非常に難しかった。
何故、こんなに文字数が多いのか…話をする事はある程度出来るようになったが、文字を読む事は困難だ。
”ひらがな””カタカナ”は、なんとか覚えた。
が…漢字という文字は無理だ、絵にしか見えない。
意思疎通を行い、今、俺は自衛隊という組織に属する事になった。
最初は警察という組織に管理されていたが、俺の魔法力を評価した人物が自衛隊という組織に移動させた。
この自衛隊という組織は、俺の感覚から言うと『軍』だ。
案内役の男に聞くと違うと言うが…どう見ても『軍』だ。
説明を聞いた事はあるが、まったく理解出来なかった。
俺の居た世界と違うところは、『軍』の主力攻撃部隊が”魔法”ではなく”道具”である事だ。
この世界では、魔法師という人材が存在しない。
”魔法”という概念が無いのだ。これには心底、驚いた。
代わりに”道具”が異常に発達している。
火を使うにも、水を使うにも”道具”を使う。
これには呆れたが、”道具”も意外と便利だという事に最近は気付いた。
火を出すにも、水を出すにも、ほんの一瞬だ。
今までは”道具”を馬鹿にしていたが、これなら使い勝手が良いな。と感じたのは確かだ。
本当、あらゆる”道具”が発達していて、1年経過した今でも理解不能な”道具”が沢山ある。
が!俺は、けっして自分の誇りを失う事は無い!
”魔法”こそが最上位だ!”道具”などに負けてたまるか…
俺は、ここ日本国に転移してしまった後も、”魔法”の鍛錬をサボる事は無かった。
いつか帝国に戻り、マゾスティク王国の進行を食い止めるのだ。
それが第一魔法師団の部隊長を務めるウルマイト・ジーナスの職務だ!
今日は”研究施設”とか呼ばれている場所から、移動する事になった。
よく分からない場所だったが、ここの人族には本当に世話になった。
なんというか…みんな親切だった。
特に、日本語を教えてもらった人族には感謝しかない。
とても美しい女性で、はじめはエルフ族なのかと思った。
『違います…人間です!』と言われたが、俺からすると、こんなに美しい人族は見た事が無かった。
エルフ族の事は知っているようだが、日本国には人族しか居ないと言う。
いやいや、目の前に居るではないか…
あぁ、願わくは、この日本語教官のエルフ族と結婚を考えたい所だ。
が…残念だが、この願望も今日で最後。俺は、実戦の地へと派遣されるようだ。
日本国は今は戦争状態ではないらしい。
が、周りは敵国だらけだと教えられた。
”ミサイル”がよく飛んでくるらしい…が、その”ミサイル”というのは絵で見ただけで何かは分からなかった。
こんな棒みたいなもの、俺の魔法”ファイアーランス”を持ってすれば一瞬で燃やせるゴミだ。
「ふっ、日本国の敵は俺がすべて打ちのめしてくれよう。」
俺は立ち上がると襟を正した。
「こ…心強いですね。」
俺の案内役を務める事になっている男が言った。
何故だ?何か笑っているように見えるが…気のせいか。
”車”と言う乗り物に乗って移動する。
この車という乗り物…てっきり動物を原動力に動いているのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
”火”を原動力にして動かしているようだ。
俺は、その話を聞いた時、そうか…『その手があったか!』と思った。
是非とも我が帝国にも採用したい動力だ。
長時間”火魔法”使える人材が居るかが問題だが、交代制にしたら何とかなるのではないか?
俺は自分の考えを”ノート”と呼ばれる紙に書き写した。
「ウルマイトさん、3時間くらいかかるので、ゆっくり休んでいてください。」
「あぁ、分かった。」
案内役の…名前は何だったかな?また忘れてしまった。
なんせ、この日本国の人族の名前は難しい…聞いた事も無い発音だからだ。
「よろしく頼む。」
車を運転するという行為を俺はさせて貰えない。
理由を聞くと”免許証が無い”からだと言う…相変わらず、訳が分からない理由だ。
一度、どんなものか見せて貰った事があるが、俺でも書けそうな代物だった。
一番の問題である”写真”というものも、この国の技術があればどうとでもなるだろう。
まぁ良い、上官が馬車を操るなど、おかしな話だ。この男に運転とやらは任せよう。
決して、俺はこの”車”という乗り物を操ってみたい訳では無い…決してだ。
おや、いつの間にか眠ってしまったようだ。
”車”から降り、大きな建物の横を通る。
いや…もう大丈夫だ。
この国の建物の大きさには、もう慣れた。最初は驚いたが、慣れとは怖いものだ。
一体、何で出来ているのかは分からないが、コンクリートと呼ばれる物質で出来ている事は覚えた。
作り方を覚えると、我が帝国でも使用できる可能性があると思い、一度、作り方を教えて貰った事がある…が、何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
恐らくだが、我が帝国には無い物質が原材料なのだろう。
そうなると、戻った後に作る事は不可能だ…非常に残念な事だが、この日本国から運ぶという手もある。
「ふふふ」
「ウルマイトさん、何かおかしな事でも?」
「あ、いや…何でもない。」
憎きマゾスティク王国の奴らに対し、このコンクリートを使った防御壁を使ったらと考えたら、思わず笑みがこぼれてしまった。
「ん?なんだ?この音は?」
突然、バラバラバラ?とか言う大きな音が聞こえた。
「あー、ヘリですね。」
激しい音を立てて空から物体が降りてきた。
なんだ?あの大きな物体は?凄まじい音と共にゆっくりと空から降りて来た。
まさか?空を飛ぶというのか?
が…あんなに大きな音を出していたらダメだ。使い物にならない。敵にバレバレになってしまう。
「あの音は何とかならないのか?」
俺は、案内役の男に聞いた。
「え?ヘリの音ですか?いや…普通でしょ?」
あー、そうか…日本国は戦争状態では無いのだったな。
だから知らないのだ、大きな音を立てる事によって、敵に接近を気付かれる事を。
「そうか…まぁ、精進する事だ。」
”精進”という言葉は、努力して能力を高めるという言葉…俺はとてもこの言葉を気に入っている。
「はぁ…」
案内役の男は、俺の言った意味がよく分からなかったようだ。
まぁ、良い…この男に伝えても仕方がない、上官に言って、あのヘリとかいう物は実戦では使い物にならない事を教えてやろう。
「あ、この扉から入ってください。」
「うむ。」
俺は”自動ドア”と呼ばれている透明のドアから建物へと入った。
初めて、この”自動ドア”と呼ばれる物質を見たときは驚いた。
透明の魔物が同時に動いているのかと思ったのだ。
何故?勝手に動くのかは未だに理解できないが、いちいち確かめていたらキリが無い事に気付いてからは、あまり考えないようにしている。
「この部屋です。」
ノックして、部屋に入る。
ノックは、俺の居た国でもあった…礼儀に関しては、この日本国も我が帝国と匹敵する程の力量を持っている。
野蛮なマゾスティク王国の民とは違い、信頼がおけると感じたのは日本国の民の礼儀にあった。
そう、俺は日本国なら、我が帝国と同盟を結ぶに、ふさわしい国だと考えていた。
「失礼します。」
覚えた日本語を使い部屋へと入る。
「君が異世界から来たウルマイト君だね、よろしく頼む。」
割と大き目の部屋を独占使用しているこの男、おそらくそれなりの立場にある人物なのだろう。
「お会い出来て光栄です。」
まだ、日本語は難しいが、多分…あっている。いずれ我が帝国と同盟を結ぶ可能性のある国の重要人物だ。しっかりと対応しておかなければ。
「これから、よろしく頼むよ。」
「はい、精進します。」