魔法師、拘束される
青い服を来た集団に拘束され、オレは白と黒を基調とした四角い馬車に乗せられた。
手には銀色をした輪をはめられている…コレは魔道具だろうか?もし、魔道具ならオレの魔力は抑えられてしまい、とても厄介だ。
すると、四角い馬車は動き出した。
よく見ると前の部分が長くてなっている。
「ははぁーん、この前の部分に引っ張る動物を仕込んでいるのだな。」
閉じ込めて、無理やり働かせているなど…コイツ達は、なんと外道な兵士なのだろうか。
その証拠に、この馬車の中は凄く臭い。気分が悪くなるような匂いだ。きっと働かされている動物が身の危険を知らせる為に臭いを発しているに違いない。
「おい!お前ら…車を引いている動物を解放しろ!」
オレが叫ぶも、青い服を着た兵士達は無言を貫いている。
しかも…馬車は、どんどん速くなっていく。
「おい!こんなに速く走らせて…お前達には善意が無いのか!」
「okod,wgjamva!」
隣に座っていた男が訳の分からない事を言うと、また静かになった。
引き手の動物を休ませる為か馬車は時々止まるも、すぐにまた動き出す。とにかく、オレは働かされている動物の事が心配でならなかった。
「janjdmtdmwu」
何度目か止まった所で、オレは馬車から降ろされた。
「ありがとうな。」
オレは馬車の前方部分に向かい、礼を伝えた。
にしても暑い…先程の馬車の中では感じなかったが、この暑さは何と表現すべきか。そうだな…火魔法の直撃を寸前のところで避けた場面を思い出した。
大きな建物に入るように誘導される。
くっ一人でも歩けるわ!
と…突然、透明の何かが動いたのが見えた。
オレは慌てて魔法展開の準備をする。相棒の杖は取り上げられてしまっているが、オレは第一魔法師団の団長を務める男だ。杖が無くても戦う術は持ち合わせている。
透明の魔物…以前、対峙した事がある。相手を目で追うのでは無く、気配を感じる事が大切だ。
オレは今回も透明の魔物の前に立つと、目を閉じ、腰を低くして構える。相手は2体居て、同時に動いている…凄い連携力だ。これは集中しないと持っていかれるぞ。
とんっ
その時、オレは背後から背中を押された。
押された事により足が前に出て、思わず透明の魔物の横を通り過ぎてしまったのだ。
「お前!何をするんだ!透明の魔物は厄介なのだぞ!」
怒りに我を忘れて怒鳴った。
「mnttmdbgw!」
オレの背中を押した男は悪気の無い顔をしてこちらを見ている。
くそ!悪い事をしたのに、悪いと思っていない。そう考える人族は本当に厄介だ。ダンラリマ地方に住む人族が、まさにそんな種族だった事を思い出した。
そうか…ここはダンラリマ地方か。
と思ったが、あの地域はとても寒い事で有名だ…言葉も我々と同じなので話が通じないのはおかしい。
腕を掴まれて、歩みを進める。
この建物の中も先程までとは違い、暑さを感じない。一体なんだというのだ。特に涼しさを感じた場所を見ると四角い箱が置かれていた。
ははーん、さては水魔法だな。あの四角い箱の中に水魔法の使い手が居るに違いない。耳を澄ますと中から唸り声も聞こえるではないか。
そう気づいたオレは背中が寒くなるのを感じた。もしかして…この国では魔法師が虐られているのか?魔法師の事を労働力と考え、奴隷のように使っている国があると聞いた事がある。
なんと…恐ろしい事だ。
いざとなれば逃げ出さねば…が、今は周りに人族が多すぎる。
オレは機を流すまいと、心に誓う。
前を歩いていた男がドアを開けると、その部屋へと入るように促された。ここは…魔法結界が張られた部屋か?
オレがそう感じた理由は2点ある。
一つはとても狭い事。そしてもう一つは窓が無い事だ。
魔法結界を張るに至って広範囲では無い事、空間が閉じられている事、この2点は外せない。
「ふぅ…」
このオレを奴隷にする気が?確かにオレは水魔法も使う事が出来るので、それなりの空間を冷やし続ける事は可能だ。
だが!
「オレは誰の力にも屈しない!」
そう叫ぶも、オレの言葉は通じていない。
訳の分からない言葉を発せられた後、椅子に座るようにジェスチャーされた。
オレの前の椅子に男が座り、何やら話をしている。
すると…おかしな模様が描かれた絵を見せられた。
星が沢山描かれた紙、十字が描かれた紙、丸い円が描かれた紙。
なんだ…なにかの呪符なのか?
呪符により、魔法を発動出来る事は知っている。が、オレは魔法師だ。呪符など使わなくても魔法は発動出来る。
オレは、呪符など不要だとジェスチャーで返した。
前に座る男は、次に丸い球を取り出して来た。
なんだ?この青い球は?
緑色に塗られた部分もあり、文字っぽい何かも書かれている。
オレはピンっと来た。
コレは…水晶の一種に違い無い。なんだ?オレの魔力を試そうとしているのか?
ふっ…バカにしやがって…
あ、そうか…この部屋は魔法結界が仕掛けられているのだ。
なるほど…魔法結界を突破して、水晶に魔力を込めろという試練か?
この試練を突破した後、どういった評価が下されるのかは分からないが、その不安をオレのプライドが上回った。
「よし…受けて立とうではないか!」
オレは青と緑が描かれた球に向かい、両手を差し出した。
腕にはめられた銀色の輪も目に入った。
そうか、この輪にも魔法結界が施されているのだな!
前に座る男が困惑の表情をし、額から汗を垂らしている事が分かった。
ふっ、今更びびっても許さんぞ。
オレは第一魔法師団長の名に恥じないよう、全力の魔力をその球に向けて放射した!
バンッ!!!
音を立てて崩れ去る青い球。
思ったより結界が甘いようだ…いや、結界が無かったのか?まぁ、どちらでも良い。オレは立ち上がり、前に座る男を見下してやった。
「jbtydnpadmxs」
前に座る男が叫ぶと、周りにいた男達がオレを取り押さえた。
「なんだ!?合格したのか?だがな!オレの水魔法を、空気を冷やす為などに使わさんぞ。」
オレはたとえムチで百叩きの刑を受けたとしても、この人族の為に魔法を使わないと心に誓った。
オレは無理やり座らせれた。
次は何だ?と思ったが、何も言われないし、何もさせられない。
しばらく黙って逃げる機を伺う。
杖は…オレの杖はどこに隠されたのだ?
しばらくすると、一人の女性が入って来た。
なんと…美しい。肌の色は白く長い黒い髪が光輝いている。
「jtmwjptmnjan」
これは…この透き通るような声。
さらに、薄茶色の目でオレを見つめている。
分かったぞ!この方はエルフだ…あの伝説の種族、エルフ族の方に違いない。
エルフ族の女性と話が出来るなんて…何と言う光栄か。
服装も男達が着ている青い服とは違い、白い服を着ている。
「ウルマイト・ジーナスと申します。あなたとお会い出来てオレは光栄です。美しいその姿、その声、なんと素敵な出会いなのか…」
オレは自分の顔が少し赤くなっている事に気づいた。
「wzmmuidmkgmw」
残念だ…非常に残念だ…オレはこの美しいエルフ族の女性と会話を楽しむ事が出来ない。目頭を押さえ、涙が溢れるのを堪えた。
すると…エルフ族の女性は、肩から掛けていた白い服をバサリと脱いだ。美しい白い肌があらわになる。
「待て!その美しい肌を、このような男達の前に晒してはならない。オレは良いが…」
エルフ族の女性は困った顔をして、オレを見つめる。
「そうか…暑いのですね!分かりました。」
「アイスウインド。」
オレはこの部屋の空気を冷やす為に水魔法を使った。
「さぁ、どうかその白い服を着てください。」
オレの優しさが伝わったのであろう。
「jgptbgmwmj」
何かをオレに伝えると、エルフ族の女性は先程脱いだ白い服を肩から掛けてくれた。
いや…言葉は通じなくてもオレには分かったのだ、彼女がオレに感謝の意を示している事を…
2023年の始まりですね。
この小説は、読んでいただける皆様が幸せな気持ちになれる事を祈って書いています。
どうか、伝わりますように。