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1.依頼

「依頼の詳細を」


 依頼人の男は酷くやつれていた。

 みすぼらしい家には大した物も置いておらず、とても商人には思えないような奴だ。


「今朝、野盗に襲われ命からがら街まで逃げてきたんだ! でも娘は攫われ、商いの品を盗まれてしまい……。野盗は最近この辺に出没している黒豚団だぁ。リーダーの男を見た! 鼻が特徴的な浅黒い肌の大男だ」


「娘を取り返せばいいか、それとも品か」


「娘を取り返してくれればそれでいい!」


 泣きつくようにすり寄ってきた男に手の甲に刻み込まれた鴉のタトゥーを見せた。


「承知した。鴉の神は悪の存在を許すことはない。悪を滅ぼすことに、我々鴉の信徒は力を貸そう」


「ああ、鴉の……。あなた方のような高尚な御方が受けてくださるとは……。ありがとうございます! ありがとうございますぅ!」


「感謝は娘を取り返してからだ。襲われた位置をこの地図に書いてくれ。それに娘の特徴と名前を……」



◆ ◆ ◆



「奴隷商人よ、いるか」


「はい……どんな奴隷をお探しでしょうか……」


 古びた廃墟のような建物。看板も出していない奴隷商人の店。

 黒豚団のことは俺もギルドから情報を得ており、いくつかの奴隷商人の店に仕入れをしているようだ。すでに売られている可能性の方が高いと考え、黒豚団へ直接行くより店を当たった方が良いと考えた。

 

 誰も店番をしておらず、奥の扉から老い耄れた細目の男が出てきた。掠れた声で俺に話しかけてきた。

 無駄な社交辞令はせず単刀直入に質問する。

 

「今日売られた娘はいるか」


「ああ……それはお答えできませんねえ……」


「何故だ」


「合法的に仕入れるのは中々難しいと言いますか……ねえ?」


「言え! 今日売られた娘だ!」


 声を荒げ、カウンター越しに男の首元を掴み上げた。


「ひ、ひぃ……老人をいじめるものじゃないぃ……」


「貴様を今ここで殺すことに、俺は躊躇しない。人間で商売するような男を、国は許しても鴉の神が許すことはない! だが貴様が知っていることを洗いざらい吐けば、一人の人間を救うことと同義だ。貴様が小娘の命を救う意志が少しでもあるのならば、今ここで殺すことはせぬ」

 

「手荒な真似は困りますね~お客さん。ここはお金と奴隷を交換する場所なんですよ」


 奥の扉から三人の若者がゾロゾロ出てきた。容姿からして所謂チンピラ。この店の従業員なのか用心棒なのか。

 もしくは仕入れ業者か。

 

「奴隷商人よ。話す気がないのであれば、お前とその後ろの連中は痛い目を見ることになる」


 正面に奴隷商人、後ろと左右にチンピラが1人ずつ。綺麗に囲まれた形になった。


「すぐに手を離してくれれば、穏便に済ませますよ~。あと三秒、はい二秒、い~ち?」


 商人をさらに持ち上げ、カウンターを超えて左の男に商人を投げつけた。

 腕に仕込んだナイフをすぐさま取り出し、右にいた男へ投擲。首を貫いて奇妙な呻き声と血でうがいする音が店に響く。

 

 最後に真後ろにいた男。

 剣を取り出して、ようやく一振り浴びせるところだった。


 俺は相手の目を見て、相手も俺の目を見た。すると相手の目がすぐに黒く濁りだした。

 

「がああああ! なんだァ! 何も見えない! 目が開けられないっ!!」


 右太腿のナイフホルダーからゆっくりナイフを取り出し、目を抑えていたチンピラの首を切りつけた。男が絶命するには少しかかったが、その内動かなくなった。

 

 商人の下敷きになった男を取り押さえ、首元にナイフを添えた。商人はすっかり憔悴しきっており、放置している。


「貴様はこの店の従業員か? それとも仕入れ業者か? 懇意にしている客か? 用心棒か? お前の仲間の二人は死に、贖罪の道を歩み始めたぞ。今、大人しく答えるのであれば、生き長らえこの世で罪を償うことを許そう」


「おおおお俺たちは黒豚団だ! 今日攫った娘共をここに売っ払いにきたんだ!」


「歳は12、長めの銀髪と翡翠色の目、名はマリアという娘はいるか」


「なななな名前はわからないが銀髪で、そのくらいの歳の娘ならいた! 目隠しをしているから瞳まではわからない! 連れてきている! 値段交渉の途中だったから2階で仲間が見張っているはずだ!」


 抑えていた右腕を折り、その後両足首の腱を切りつけた。出血は最小限に抑えたが、男は悶絶してそのまま気絶した。

 

 奥の扉をくぐるとずらりと牢が並んでおり、中には奴隷が沢山いた。

 牢の中はあまり注視せず、通路の先にあった階段を駆け上がる。2階は机と椅子、居住スペースであったがもぬけの殻。

 窓だけが解放されていた。

 

 窓から身を乗り出して見えるのは裏路地。そして馬車が駆け抜けていくところだった。荷台には人間が3人ほど見えた。若い男、中年の女、そして少女。

 

 窓から店の屋根へとよび登り、建物から建物へと移り馬車を見失わぬよう追跡する。直線的に移動できるとはいえ、馬車の速度には追い付けない。

 ならばと、並行して周囲を見渡しながら鴉を探していた。

 

 屋根でネズミをついばむ鴉を見つけ、その目を凝視した。

 鴉に“お願い”を伝え、俺は一旦足を止めた。一方で鴉は飛び立ち、馬車が走った方向へと向かっていった。

 

続きが気になった方、面白いと思った方はブックマーク、評価等お願いいたします。

書き溜めておりますので、しばらく毎日投稿を続けられると思います。


あまり長くはならない予定です。

1話2000字~3000字で投稿していき、20話~30話で終わりそうな感じがしています。

とにかく完結させたいと思っています。

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