はげの親父
俺の親父は売れない芸人だった。
頭がハゲているのをネタにして、笑いをとろうと必死だった。
必死すぎて、子供の俺は、見ていられなかった。
ハゲを売りにした人気芸人はすでに何人もいたので、親父の入り込む余地はなかった。
何しろ、親父ときたら、馬鹿のひとつ覚えみたいに、それしかネタがなかったのだ。
ーーどうして母ちゃんは親父なんかと結婚したんだろう。
苦労している母ちゃんを見て、ずっと思っていた。
芸人だけでは食っていけないので、親父は色んなバイトを掛け持ちしていた。
一度、商店街のちんどん屋の列に加わっているのを見たことがある。
ハゲの上にハゲのかつらをかぶって、ひょっとこみたいな顔をして、一生懸命おどけながら、踊り歩いていた。
笑わせようと、必死になっているのが空回りして、いまいち面白くないのだった。
子供心に、そこは親父の尊厳を傷つけるのがわかっていたので、俺は決して口にはしなかった。
だが、親父は親父なりに悩んでいたようだった。
ある日、親父は芸人を辞めると宣言した。
そして、知り合いの土建屋の建築現場で働き始めた。
必死に働きながら、頭の汗をてぬぐいで拭う親父の姿を見て、俺は初めて親父を尊敬した。
定職についた親父のおかげで、俺は大学までいくことができた。
安定した会社に就職もできた。
結婚して、子供も生まれ、親父は今ではおじいちゃんになった。
孫の前で、昔のネタを披露して笑わせようとする親父を見ると、俺は何だか無性に切ない気持ちになるのだった。