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僕が本当の医者になれた日  作者: 木痣間片男(きあざまかたお)
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出会いと進展1-1

 医者になって三年目の春、二七歳のときである。僕の所属するメイン病棟に二人の新人看護師が配属された。それは毎年のことなので、僕にとってはさして特別なこととは考えようとしておらず、また、そんなことでいちいち色めき立つことを(いさぎよ)しとしていなかった。が、しかし、今年はちょっと違っていた。どこでどうやってその情報を入手したのかわからないが、同僚医師たちはけっこう騒いでいた。どうやら二人のうち一人は相当カワイイと。

 そしてそれは評判通りだった。はじめて見た印象では、確かに僕もそう思った。目鼻立ちは大きくクッキリ、小顔で華奢で色白で清楚で可憐、いかにもお嬢様という感じで、よく言う喩えかもしれないが、“お人形さん”のようだった。

 もう一人の普通とされた子、それが愛里だった。卵型の顔つきにボブスタイルの髪型、目は大きかったけれどまぶたは一重、鼻はやや低めで脚もちょっと短い、ほどよく引き締まった体付きがせめてもの救いだった。

 

 ナースの仕事にとって大切なのは、“容姿”という意見もあるかもしれないが、もちろんそれは補足に過ぎない。優しさ、社交性、判断力、そして気遣い、これらが重要なのだが、頼もしいことに二人の勤務態度は極めて良好だった。カワイイ子も、その容姿を鼻にかけるようなことはなく、純粋で素直、いまどき珍しいくらいの奥ゆかしさだった。そういう意味ではその子は、黙っていても、より評判は高まっていった。比較することではないが、愛里のほうは、気さくでお人好しなところはあったが、ちょっとガサツで天然、ただ良いか悪いかは別にしても、お節介くらいに気遣いのできる子だった。一所懸命さがあり、打たれ強いところも長所だった。自分に、もしこんな妹がいたら、ちょっとウザいが、けっこう放っておけないだろうと思わせる雰囲気の持ち主だった。


 数ヵ月が経って、そろそろ勤務に慣れてきたであろうある日の午後、たまたまだったが、僕は新人二人と会話を交わす機会に恵まれた。ナース休憩室を借りて遅い昼食を一人で摂っていたところで、彼女たちも同じ目的で入ってきたのだ。

「ああ小竹先生、いたのですね。お食事中失礼しまぁす」

 愛里がすばやく反応した。

「どうもお疲れさま、キミたちもいまからお昼?」

「はいそうです。今日は急患が入ったので、遅くなっちゃって。小竹先生もいまお昼ですか・・・・・・、お忙しそうですね」

 続けて愛里が応じた。

「まあね、忙しいのはいつものことだよ」

 僕は、残り一口のパンをほおばりながらため息混じりに答えた。

「たいへんですね、でもワタシたちも最近やっと慣れてきました」

 ひとまず冷蔵庫からお茶を取り出し、喉を潤しながら彼女たちはそのまま話しを続けた。僕も医者としてはまだまだ下っ()だったから、なにかと病棟に張り付いていることが多く、そういう意味ではスタッフとの会話の機会は多かった。だからこのときも、いつもの他愛ない話題が続くと思っていた。

「それは良かった、がんばっているようだからね・・・・・・。二人ともカワイらしいから、みんなからいろいろ教えてもらえるんじゃないかな」

 ちょっとセクハラになるのかもしれないけれど、別に他意はない。僕は思っていることを素直に告げた。

「お陰さまで・・・・・・、いろいろ覚えることはたくさんありますけど、先輩ナースはもちろん、先生方も優しいので助かっています」

 今度はカワイイ子が返答した。やはり今年は、僕らの病棟にとって当たり年だ。デキる新人が入るとみんなががんばれる。

「素晴らしい、その調子でお互いがんばろうね!」

 あまり長居をしていても気を遣わせるだけだ。あがろうと思って僕は椅子から立ち上がろうとした・・・・・・、そのときだった。

「ところで、いま一応“二人ともカワイらしい”って言いましたけど・・・・・・、小竹先生は、ワタシたち二人のどっちがタイプですか?」

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