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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章1部 正義の議論
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第81話 机上の②

 相手の死亡、戦闘不能、棄権により勝負が決まる、一対一の勝負。それを1 on 1というらしい。5回勝負だが、3つの勝負に勝っても全ての勝負を行う。


 北辰巳を殺したのが私だと知れば、北虎太郎は私と勝負することを望むだろう。勝負の相手を決めることが出来るわけだ。

 しかし恐らく異能を持っていない相手だ。出来れば、異能を使い慣れていない新さん。せめて、そこまで戦闘慣れしていなさそうな沙也加さんに回したい。


 東野悠や南海人も攻撃性の高い異能ではない。そちらが当たれば良いが、西間スミレ、ましてや楠巌谷に当たったら最悪だ。

 どういった順で来るだろ…待てよ。そもそも、戦闘相手には必ずあの4人がいるのだろうか。他にもまだ待機している者がいるはずだ。


 「弓弦くんは銃で戦闘するんだよ。闘技場ってどんな場所か知ってる?遮るものがない。広さが限られてる。そんな場所で1 on 1なんて、なに考えてるの?」


 逆に言えば、闘技場という場所で不利になるのは弓弦さんだけだ。


 「一度だけ見に行ったことがありますが、広いですよ。大丈夫です」

 「確かにアタシは見てないけど、闘技場の広いには限度がある。それに遮るものがなかったら、装填はどうするの?」

 「戦闘中、目にも止まらぬ速さで装填しているところを見ています」


 結果として異能戦争最終日となった、仙北谷仁と戦闘したあのときだ。


 「それに射撃の正確さも確認しています。並みの者であれば、装填する必要もないでしょう」

 「自分で言うのもなんだけど、隠居お嬢様だってこれだけ戦えるんだよ」


 恐らくただの隠居お嬢様には無理だろう。本当に誰でも良いのなら、貿易のボスは移動に時間のかからない者を選んだはずだ。


 「反逆でも革命でも改革でも言い方はなんでも良い。一時でも組織を裏切るなんて、生半可な覚悟じゃない。易々と殺されてくれるとは思えない」


 まるで一度は考えたことがありそうな言い方だ。

 喧嘩と言える程小規模なものかもしれないが、妄想したことはあるのだろう。黙って隠居お嬢様をしていそうには思わない。


 立場のない者が武術を磨けば、弾丸として戦場に送り出されるだけだ。だが、沙也加さんは東の血が流れている。適当な場所には置いておけない。

 しかし頭の回転が早いわけでも、なにも考えていないわけでもない。扱いが難儀だ。そこで結婚させて家を与え閉じ込めた。

 そんなところだろうか。


 「反逆に特段覚悟が必要な者は、矢面に立つ者だけではないでしょうか。何事も最初に行動を起こす者や目立った行動をする者には想像以上の勇気が必要です。ただ逃げるだけでも。ね?」


 視線を向けられた弓弦さんが、笑みを見せて頷く。


 「相手が1 on 1をする意味はありません。各々の力量なら昨日十分確認出来たはずです。武闘のボス、なにを賭けたのですか」

 「こちらは絢子くんと、予め記した7の情報。封蝋をした状態で私が持ってるよ。負けた場合にしか開かないことも条件だよ」


 7という中途半端な数である理由は想像がつく。勝った場合開かないことを条件に、情報の数を減らす交渉をした。

 これは負けた場合のことを考えてのことではない。それを意識していると思わせるためだ。


 「向こうは南海人と構成員の情報。互いに、負けた者」


 相手にも賭けているものがあるのであれば、本気で来るだろう。しかも賭けられている人物は御用人ではない。

 楠巌谷と西間スミレは出て来るだろう。


 「戦闘する人物の指定やある程度の限定はしましたか」

 「そこまで贅沢は出来ないよ。相手は受けなくても支障がない勝負だからね」

 「では北虎太郎の兄である北辰巳を殺した人物を明かして、戦闘に引きずり出しますか。全てが兄より明らかに不出来であれば、闘争心は生まれません」


 戦闘の技術はそれなりにあると考えるべきだ。

 だから新さんが一番良いと思ったが、よく考えれば新さんは異能を使いこなしていた。楠巌谷と良い勝負が出来るかもしれない。


 「どっちかな」

 「私です」


 腕を組んで私をじっと見る。


 「楠巌谷と最も互角に戦えそうだと思う者は誰かな」

 「新さんです。昨日は新さんの機転のおかげで想定より手早く片付けることが出来ました。異能を使いこなせていますし、戦闘能力も高いです」

 「ふぅん、じゃあそうしようか。西間スミレは佐治くんが良いだろうね」


 1 on 1というものは、相手が選出した相手を見てから選出することが出来るのか。どちらが先に選出するかは、どの様に決めるのだろうか。


 「相手はこちらの異能を把握してる。もちろん絢子くんの目のこともね。だから譲歩してくれたんだよ。流石平等を掲げる反逆者だね」


 特別ルールというわけか。


 「弓弦くんと沙也加くんは、相手の装備を見て決めるよ。10時からだから、9時半にこの部屋に集合」


 5人の返事が重なった。私にも出て行くよう言ったため、ボスをひとり残して部屋を出た。


 「3人に聞きたいことがあるんッスけど、良いッスか」


 私がいるため、微妙な敬語を使っているのだろうか。


 「珈琲を淹れて来ます。その部屋で待ってて下さい」


 敬語ということは、私に言っているのだろう。大人しく部屋で待っているか。

 座っても世間話が始まるわけもなく、無言だった。やがて弓弦さんが珈琲を持って来てくれて座る。


 「時間を取ってもらって、ありがとうございます。聞きたいことっていうのは貿易のボスのことッス」


 私が貿易のボスを仮の主に選んだために、私も含まれているのか。だが答えられることは多くない。


 「農園本部に行ったとき、調理係が大勢食中毒になったらしいんッス。で、偶然近くを通った俺がその日の夕食を作るように申し付けられたッスけど、俺料理作ったことなかったんッスよ。それでお出しすることが出来ず、お怒りを買ったッス」


 それが飛ばされた理由か。不憫だ。

 東の子供と街へ出て見失った。すぐに見つけることが出来ず騒ぎになり、お咎めなしというわけにはいかなかった。そのため数ヶ月のみで戻る予定だった。

 せめてこれくらいであると、私は願っていたのだろう。自分の領分ですらない。不運や不憫と言う以外、なにかあるだろうか。


 「それからは、やんわりとでも一度断るということを覚えたッス。幸い沙也加さまああいった性格ッスから、適当にやってるんッスけど…」

 「いつ戻れるのか不安だと。それなら武闘のボスに相談した方が良いだろ」

 「そうじゃないんッス。もちろん戻れるならその方が良いと思うッス」


 回りくどくて、なにが言いたいのか分からない。それに貿易のボスのことで聞きたいと言っておいて、何故農園本部に行った際のことを話す。


 「農園本部に行ったのは、4ヶ月くらい前のことだね」

 「やっぱり佐治くんもいたッスか」

 「うん。集団で食中毒なんて珍しいことだから覚えているよ。ひとりしか護衛を連れない方なら離れられないよね。元はどこにいたの?」

 「経済本部ッス」


 正雄さんなら、よく考えず貸したかもしれない。

 しかし、疑問が出て来たな。楠巌谷を狂信していた護衛が来たという時期と合致する。これは偶然なのだろうか。


 あの様な者を代わりに派遣する理由がない。他にも護衛の役割を果たせる者は、経済本部にいたはずだ。


 「なるほどね。あの日はワインを開けようとしていて、空きっ腹に飲むと胃に悪いから飲むなって言ったのを誰かが怒っていると勘違いしたんだと思う。表に出すようになったのは最近だけど、ボスは前からあんな感じだよ」


 飛ばされた理由を“貿易のボスのがお怒りだ”とだけ聞けば、あの光景は奇妙なものだっただろう。そして、私が貿易のボスを仮の主に選んだ理由も。


 「他には誰がいたか、思い出せるだけ書き出して下さい。その中に東の組織で活動しながら楠巌谷に協力している者や、その者に協力した者がいるはずです」

 「え…?」

 「そっか、あのときの経済のボスの護衛…」


 経済のボスの護衛にあの者を着任させるために、新さんを追い出した。それなら農園本部で食中毒が起こったことも、説明出来てしまう。


 「分かりました。その前に聞かせてほしいッス」


 あの者のことを知らずとも、察することは出来る。なんらかの不都合が起こるため、追い出したかった。そのために食中毒が引き起こされた。


 「俺を飛ばしたのが貿易のボスじゃないって、信じてるッスね?」

 「積極的にそうしたわけじゃないとは思うよ」

 「どういう意味ッスか」

 「飛ばされた先はボスの御姉さまだろ。もっと酷いことになるところを、庇ったのかもしれない」


 それは考えなかった。

 隠居お嬢様だろうと、護衛はひとりではないだろう。いちいち名乗らないことは会合で分かっている。貿易のボスが一声かけないことも納得出来るな。


 「2人の態度を見た後だと、そうかもって思うッス」


 新さんは何人かの名前を書くと、簡単な似顔絵を書き始めた。


 「上手いな」

 「ありがとッス」


 照れているのか、紙から顔を上げようとはしない。


 「経済のボスが他のボスに比べて強い理由って、多分狙われやすいからなんッス。俺が報告書に似顔絵書いてて、自然と上手くなったんッスよ」

 「狙われやすいって?」

 「今思えば、反逆者ッスかね?どこかの帰りとかに、襲撃されることが多かったんッス」


 それであの自信か。それにしても、理由はなんだ。


 「そういえば、自分が護衛のときが圧倒的に多かったんッスよ。1ヶ月くらい前に沙也加さまと街へ出たときな、んて…」


 言いながら、新さんの手の動きがゆっくりになっていく。私を含め3人は、武器へと手を伸ばした。

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